聖の青春 (角川文庫)
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(あらすじ)※Amazonより
重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖(さとし)。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞作。
ず〜〜〜〜っと前に、読んで感想を聞かせてほしい、と言われて幾年月。ようやく読みました。
松山ケンイチがこの作品の主役である「村山聖」を映画で演じると知った時、
あ、そういやこの作品を読んでみてほしい、って言われてたな、と思いだしたのであった。
そして肝心の感想だが、
作品としてどうかと評価を問われたら、まあまあかな、と答えたいところ。
とにかく作品の構成と文章がまだまだな感じがあちこちから漂ってくる。
こんなに文章がまだまだな感じがするのはなぜだろう、とあとがきを見ますれば、
この作品、大崎氏のデビュー作だそう。うーむ、納得。
本当にこれから、という感じの文体であった。
ひたすら「村山聖」という強烈な個性を持った天才の魅力をもって、この作品は完成している。
熱戦が繰り広げられたいくつかの将棋の大会のシーンでは棋譜も掲載されているのだが、
棋譜が読めない将棋好きの(下手の横好き)私でも手に汗を握った。
村山聖という人物を知らない若い世代や将棋に関心のない人にこの作品は、
村山聖という個性や、周囲のやさしい眼差しを知るためのいい作品となったと思う。
また、今や天才の名を恣にしている羽生善治三冠の若い頃のエピソードも出てきて、
村山聖や羽生さんら若い世代がぐんぐんと頭角をあらわしてきた頃の将棋界が、
どういう感じだったのかも分かって面白かった。
さらに将棋連盟や昇級試験なども分かりやすく説明してあって大変勉強になった。
ただーーーーー。
ノンフィクションとして読んだ時、むむむ、となってしまうのは否めない。
だって〜、村山聖が一人家に戻って階段を上るシーンで
ぼそぼそと呟いた
的な表現があって、それまで伝聞的表現で書いてきていたのに、突然事実めいた表現が出現したら、
一人のはずの聖の隣に誰かいて(黒衣?)、そのつぶやきを聞いていたんかーい!
とか思ってしまうではないか。
その後もそういうブレブレの表現が出てきて、そのたびに揺らぐ私であったが、
ああ、これは小説なのね、と思って読むことにしたらわりとすんなり楽しめた。
そんでもってですね、この作品の著者である大崎さんという方は
当時の村山聖のこともよく知っていて、だからこそ彼を世間にしらしめるべく、
たくさんの思い出を書こうという意思が強く強く伝わってくる。
魅力もたくさんあって、しかも村山聖を支える周囲の人も温かい。
だからこそ見えなくなってしまっているものもあるのではないかとも思った。
事実を積み上げる。それがノンフィクションではある。
が、ノンフィクションの難しいところは積み上げる人間によって、
どういう形にもなるということである。
昔、関口宏が司会をしていた「知ってるつもり?」って番組があったじゃないですか。
最終的にはかなりネタ切れ感もすごかったが、あれを見ながらホロリと泣いたりしたこともあった。
でもふと冷静になった回もあったのだ。
これって、ものすご〜く感傷的につなげて泣かせようとしてるんじゃないの?って。
そう考えたら冷めちゃって冷めちゃって、
今まで泣かせられてきたのも作られたものなんじゃないかって。
それと同じでノンフィクション作品はどう読ませるかというのがすごく難しい。
とても計算高く作らないと、むむ?って思わせてしまうし、
だからといって、淡々と事実だけ書けばいいというものでもないし。
全体的にこの作品は悪い意味でとてもロマンティックで感傷的で、
いい意味でとっても青臭くてピュアな作品であった。
村山聖が天才(&奇人変人)だったってことはよ〜く分かった。
しかし人間的には結局どういう人だったのか、ひとかけらも見えなかったのは残念。
著者が村山聖を愛らしいと思っているのはわかった。
村山が羽生さんのことが大好きだった、というのもわかった。
それはわかったんだけど、村山聖はすご〜く嫌な人でもあった。
すご〜〜〜〜くお母さんに対してきつく当たるの。
お母さんは、広島出身ゆえ被爆者であり健康被害も出てるのに、
それでも息子の世話をするため、何かあるたび東京へ大阪へと出向く。
なのに、お母さんにすんげ〜つらくあたるの・・・。
それはきっと身内に甘えているからだろう、とは思うのだが、父親にはすごく甘えん坊なのだ。
なぜ父親には思いやりの言葉がかけてあげられるのに、母親にはキビシーのだ?
つい世話を焼きすぎる母に若気の至りで反抗心も芽生えているのかもしれないが、
それでも読むに堪え難い仕打ちの数々・・
せめてその理由が1つでも書かれていればなんとか納得できたと思うのだが、
全く理由が書かれていない。
村山聖が亡くなった後、父親からの手記や話はよく出てきていたが、
母からの話が出てこないのだ。書けない何かあったのか?とモヤモヤしてしまった。
将棋の天才という能力を書くのに内面の描写は不要と考えてのことならば、
前半や中盤の構成が感傷的で感情的な内面の描写に偏り過ぎているのだ。
何度も言うが、これは小説なのだ、と思えば読める。
村山の天才っぷりも楽しめる。
でもつらくあたる理由がないのなら、お母さんにも最期くらい優しくしてあげて。
とやっぱり何度も思うのでありました。
ところで後半、突如、黒ちゃん(黒川博行)が登場したのには思わず笑ってしまった。
破門 (角川文庫)
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黒ちゃんの疫病神シリーズは直木賞受賞作『破門』がやっぱり一番いいよね。
そして今、週刊文春で疫病神シリーズ最新作『泥濘(ぬかるみ)』が絶賛(私の中で)連載中!
サンキューセンテンススプリング!