熱海殺人事件 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

平成27年12月10日(木)、『熱海殺人事件』(in 紀伊国屋ホール)を観に行く。

ダッコマンとの短い逢瀬を終え、紀伊国屋ホールに向かった私。
→参考記事『私が伯母さんになっても。その31。~ちょっと立ち寄り編~

なぜ今さらつかこうへい?なぜ今さら『熱海殺人事件』?
とお思いのあなた、そしてそこのきみ。

劇団☆新感線を多少でも知っている人なら当然ご存知、
初期の劇団☆新感線はつかこうへいのパクリ・・いやもとい、コピー劇団だったのです。

オフィシャルサイト→「」より抜粋

「1980年11月、大阪芸術大学舞台芸術学科の四回生を中心にしたメンバー
 (こぐれ修、いのうえひでのりら)で、つかこうへい作品『熱海殺人事件』にて旗揚げ。
 劇団名は、当時のメンバーが実家に帰省する際、
 新幹線を使っていたというだけのいい加減な理由だった。
 すぐに解散するはずが、公演が好評だったため翌81年に再演することになり、
 さらに『いつも心に太陽を』『広島に原爆を落とす日』等
 ほとんどのつか作品を次々に上演し、つかこうへいのコピー劇団として人気爆発、
 関西学生演劇ブームの中心的存在となった。
 当時の劇団☆新感線在籍メンバーとして、筧利夫、渡辺いっけいらがいた。略」


いのうえひでのり氏が愛してやまない、つかこうへいの名作『熱海殺人事件』を
当時と同じ役者、風間杜夫&平田満でいのうえ氏が演出を手がけると聞けば、
見ないわけにはいかないのであります!!!
・・ってわたしゃ『熱海殺人事件』を知らない、演劇ど素人なんですけどもーー。





ホール内をぎっちり埋めつくした客層は年齢高め。
劇団☆新感線ファンというより、つかこうへいファンが押し寄せているのかもしれない。

◇◆



いのうえ氏が気圧される姿を見ることができようとは。。。

(あらすじ)※HPより
熱海で工員の大山金太郎が女工を絞め殺したという」取るに足らない事件を
刑事たちがそれぞれの美学を犯人に押しつけ、
何とか「捜査のし甲斐のある」「哲学的な意味のある」事件に育て上げようとする物語。
木村伝兵衛とハナ子。熊田と富山の女性。そして大山とアイ子との愛。
三者三様の愛憎劇が複雑に絡みあい、哀切な人間ドラマを展開してゆく。
決して色あせることのない永遠の名作である。
演劇史上に燦然と輝く金字塔を打ち立てた伝説の舞台が奇跡のキャストで復活!!

作  つかこうへい
演出 いのうえひでのり
出演 風間杜夫 平田 満 愛原実花 中尾明慶

◇◆

つかこうへい作品を全く知らない演劇ど素人の私。
当然、この作品についてはもちろんのこと、あらすじすら全く知らずに観劇に臨んだ。

そんな私、前半は一体この話しはどこに行ってしまうんだろう・・
と心配になっていた。
おもしろいんだけどさ。
笑っちゃうんだけどさ。
風間杜夫と平田満の掛け合いにイチイチ大爆笑してるんだけどさ。

コメディとして見ればいいのかなあ・・・と困惑ながら笑っていた私。
風間杜夫演じる木村は、事実を曲げまくって事件を解決するようには見えないし、
それに翻弄される、一見真面目で普通に捜査する平田満演じる新任刑事の熊田も
どんどん違う方向に行ってしまうし、
婦人警官ハナ子にいたっては熱心に事件を解決するでもなく。
肝心の殺人事件が全く解決の糸口すら見当たらなくて、
あ!この作品は辛口コメディで、殺人事件自体はどうでもいいのかな?
と思っていたのだが~~~~~~。

途中から急展開。
「大山金太郎が女工を絞め殺した」という、ただの痴情のもつれがもたらした殺人事件、
の裏には、実は深い深い愛憎が潜んでいた。
それを木村、熊田、ハナコが犯人である大山を理想の一流の犯人に育てる、
というむちゃくちゃな捜査方法で、
(たとえば被害者はブスだったため、俺の事件にふさわしくない、写真を変えろ。とか、
 自分の美学に合わない事実や証拠は捨てるわ、変えるわ、もうむちゃくちゃ笑)
犯人の心に近づき、犯人を成長させ、
心の奥に潜んでいた、殺人の裏にある女工との愛と憎しみの風景をあぶり出したのである。

大山金太郎が殺人を犯す直前の女工とのやりとりを見て、
今までの全ての流れが一つになり、一流の犯人になった大山金太郎とともに、
ただの三流の観客である私までもが一流の観客になった気分になった。

そしてエンディングを迎え、つかこうへいって面白い脚本を書くんだなあとしみじみした。
この不思議なしみじみ感は、私自身が田舎もんであることも関係しているのかもしれない。
生まれながらのシティボーイやシティガールには心からは理解できないような気もする。
頭では理解できても、肌感が違う気がする。

この『熱海殺人事件』は何度も上演され、
また形を変えたりなど様々なバージョンで上演されている名作。
その中でも、
※大音量の「白鳥の湖」をBGMに木村が電話でがなりたてるオープニング
※新任の刑事に渡す書類を地面にわざと落とし、木村が「拾ってください」というやり取り
※木村が成長した犯人を花束で何度も打ち据えるシーン
などがこの作品の名物となっているらしい。
そしてこれらの部分は、形は変わりつつも、どのバージョンにも数多く残っているとのこと。

いのうえバージョンもこれらの名物はそのまま残されていた。
木村が花束で打ち据えるシーンはよかったな~。
え~?!一体なんなんだ!?と思われてしまいそうなんだけど、
絶妙な間と激しい力と舞台に舞い散る美しい花びらと影に、妙に感傷的になってしまう。

この作品が名作と呼ばれる所以がよーくわかったところで、1点だけ!!

いのうえ氏が風間杜夫や平田満に遠慮しながら演出している姿が透けて見えてきたたのが
おもしろくもあり、いいもん見れた感もあり、ちょっと残念だった。
ま、愛してやまないつかこうへいの上演当時の役者さんを演出するって緊張するわなあ。
そして遠慮もするわなあ。
なるべく原作の風味を損なわないようにするわなあ。
おかげで原作の風味を思う存分楽しめたのも事実。

風間杜夫が劇中で何度か噛んでいたが、それを含めてやっぱり素敵だった。
過去に風間杜夫の一人舞台を観に行ったことがあったが、
やっぱり素敵だったもんな~。
また観に行こうかな。。。