瘋癲老人日記 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

鍵・瘋癲老人日記 (新潮文庫)/新潮社

¥680
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ドSな嫁とドM爺の攻防戦!!

※ネタバレ?します。

(あらすじ)※Amazonより
七十七歳の卯木督助は“スデニ全ク無能力者デハアルガ”、
踊り子あがりの美しく驕慢な嫁颯子に魅かれ、
変形的間接的な方法で性的快楽を得ようと命を賭ける
妄執とも狂恋とも呼ぶべき老いの身の性と死の対決を、最高の芸術の世界に昇華させた名作。

◇◆

え・・・
狂恋・・性と死の対決・・・
あらすじがあまりに高尚な感じに書かれていて、私、なんだか恥ずかしい。
それを前にして言うのもなんなんですが、この作品を一言で表しますれば、
エロボケジジイの耄碌日記、と言えるでありましょう。

爺さんの日記なだけあってカタカナばかりで大層読みにくいのだが、
そのカタカナ日記に慣れてしまえば、もうこっちのもん。
あまりのバカバカしさとおかしさに、頁を繰るのが止められない!
バカすぎる~
エロすぎる~
面白すぎる~

んもう!
おじいちゃん、さっきご飯食べたでしょ!
的なかわいさ(?)はどこにもない。
ひたすらエロいことばかり真剣に考えているエロジジイ。
の日記をひたすら読まされるこの苦行・・じゃなかったおもしろさ。

爺さん、息子の嫁の颯子(←超絶美人)に惚れ込んじゃって、甘いのなんの。
何百万とする指輪をポンと買ってあげたり、贅沢品を食べさせたり、バッグ買ったり・・
無駄に金を持ってるもんだから、ポイポイ買い与える。
しかし嫁の颯子も自分が爺さんに惚れられてることを知ってて、
爺さんをうまいこと掌で転がして、甘えてみたり、ちょっとすねたりして、金を引き出す。
悪女、ここに極まれり。

この颯子、お育ちがいいとは言いがたい。
キャバレーの踊り子出身であることからもわかるとおり、ちょっと下品。
これがまた、爺さんの性欲をそそるらしい。
その描写が本当にうまい。
下品であることを下品、と描かず、日常の所作で描くのだ。
ハモの上の梅肉をいじりたおして、ちょっと汚らしく残す嫁。
他の魚も好きなとこだけ食べて、皿には食い散らかしたものを残す嫁。
そして爺さんが自分に好意を持っていることを知ってる嫁は
ちょっともったいないからおじいちゃん、私の食べてくれない?
とか言うのーーーー。
お下品!!

でも爺さん、自分の食事は完食している上に、
嫁の食い散らかした魚を喜んで食べちゃうのーーー!

よく食うなあ・・・食べ過ぎ~。
じゃなくて!!!
きたない!!!人の食い散らかしたもん、食べるなんて汚い!
でも爺さん、嫁の残したものをありがた~くいただく。エロさ全開で。

一事が万事、そんな感じで日記は進んでいく。

ちなみにこの爺さんには娘もいるのだが、娘なんかちーっともかわいがっていないのだ。
娘がねだっても何も買ってあげません!!
だって、美人じゃないから!キリッ!!!→本気で爺さん言ってます。
(ついでに奥さんもおりますが、もはや婆さん扱い・・・いろいろともうひどい!!)

とにかく美しい女に虐げられるのが好き!感じちゃう!!
などと真剣につらつらと書き綴るドMジジイ。

ここで一部抜粋してみよう。

(新潮文庫 昭和43年発行 平成6年7月10日35刷)
166頁
「オカシナコトダガ、痛イ時デモ性欲は感ジル。痛イ時ノ方ガ一層感ジル、ト云ッタ方ガイイカモ知レナイ。或ハ又痛イ目ニ遇ワセテクレル異性ノ方ニヨリ一層魅力ヲ感ジ、惹キツケラレル、ト云ッタ方ガイイカ。
 (略)
ココニ同程度ニ美シイ、同程度ニ予ノ趣味ニ叶ッタ異性ガ二人イルトスル。Aハ親切で正直デ思イ遣リガアリ、Bハ不親切デ嘘ツキデ人ヲ騙スコトガ上手ナ女デアルトスル。ソノ場合ドチラニ余計惹カレルカト云エバ、近頃ノ予ハAヨリBニ惹カレルコトハ先ズ確カデアル。但シ美シサニ於テAヨリBガ少シデモ劣ッテイテハイケナイ。・・・・」
 →この後も延々自分の女の好みについて続く・・・・

バッカじゃなかろっか、ルンバ! →ノムさんジョーク。

この読みにくい日記を簡単に説明しますとですね。

痛くされたりすると感じちゃうよね。ていうか~、痛くされた方がもっと感じちゃう!
痛くしてくれる女性に魅力を感じちゃう!そういう女性が大好き!!
でもそれはあくまでも美人だからいいのだ!!!

のようなことを書いているのだ。
ネットで言うところの、※ただしイケメンに限る、的なことだろうか。

少し話しは逸れるが、先日のヨルタモリ、見ました?
私の愛してやまない、一夜でもいいから抱かれたい男ツッツン(堤真一)がゲストであった。
宮沢りえちゃんとツッツンが揃うなんて、次はいつの舞台で見られるかわからんで~と
しっかり録画してスタンバッていた私。
その中で、タモさんが
「(りえちゃんに)しかられた~い。美しい顔でキリッと叱られるなんてたまらん!
 美人だからいいんだよ!ブスに叱られても意味がない!!」
とフガフガ言っていたのだが、それを見た私。
瘋癲老人日記か!
と一人で谷崎ツッコミをしていたのであった。

男というものは、そんなに美人に叱られたいものなんだろうか・・・?

話は瘋癲老人日記に戻る。
ポイントは、この話を真剣にしている、というところである。
あくまでも爺さん、いつも本気でドM気質全開で嫁に向かっているのだ。
そんな舅に嫁もドS気質全開で受け止める。

元キャバレーの踊り子だった嫁の美しい足。
(はい、出ました、フット谷崎(谷崎潤一郎が無類の足フェチなのは有名なお話)の性癖)
その足で俺を踏んでくれ~~~~~~
と爺さん、エロ全開で拝み倒す。
嫁さん、そんなことできないわ~、とか言いながらも最終的におらおら~と踏みつける。

なに、これ、コント?

その後も嫁の入っている風呂場を覗いてみたり、
しかしきっと覗くであろうと先読みした嫁が、
あら~ん、入ってらっしゃいよ、ちょっとだけよ~ん。
と、美しい裸体をチラ見せしながら、ジイさんを手玉にとる。

なに、これ、コント?パート2。

終始手玉にとられ続ける爺さん。
それがまたたまらなく感じる爺さん。
アホですわ。

そして私をあっと言わせたシーンの登場である。

爺さん、嫁に向かって、
唾液を自分の口にトロ~っと垂らして飲ませてくれ!
とお願いするのだ。

・・・ちょっ!!!
ちょっと待ってください!!!
今は気持ち悪いとは思いますが、ちょっとだけ我慢して私の話を聴いてください!

このキモイ唾液シーン、何かとかぶりませんかね??

私は
ああ、桜庭一樹は瘋癲老人日記、読んでるな、
と思いました。
(まあ、あれだけの読書家だから読んでない方がおかしいのだが。)

桜庭一樹の『私の男』にもちょっと似たシーンがある。
しかしあちらはかなりエロティック。
あれは娘と父であった。

一方こちらの唾液シーンは、エロというかアホというかとにかくくだらなくて笑っちゃう。
(でも真剣。爺さんは勝手に切羽詰まっております。死ぬ前に色々しておきたいの。)
そしてこちらは嫁と舅であった。

かぶせてきてるね、これは。
と思ったとき、なんだかますます桜庭一樹が愛おしくなった。
これをかぶせてきたかー><
みたいな。

このシーン、思春期の頃も読んだはずなのに、覚えてなかったなあ。
あまりの気持ち悪さに目を閉じちゃったのかしら笑

その後も、嫁との攻防がありーの、嫁に気になる恋人らしき存在が現れ~の、
息子や娘、孫やらが出たり、と色々あるのだが、
病気でいよいよ倒れてしまうおじいちゃん。

日記はそこで途絶える。。
その後は、看護婦、医者、娘がそれぞれ記録やら日記やらが追記されている。

この話の面白いところは、最後までおじいちゃんが生きているところだ。
しぶとすぎるやろ。
そしてラストシーン。・・・ああ!これはちょっとさすがに内緒。しーっ。
最高に虐げられてる感じがたまらーん!!!

タイトルに使用されている「瘋癲」だが、デジタル大辞泉によると・・・

ふう‐てん【×瘋×癲】
1 精神の状態が正常でないこと。また、その人。
2 通常の社会生活からはみ出して、ぶらぶらと日を送っている人。

とのことである。
この作品の「瘋癲」は、1、ですね。
(ふうてんの寅さんは、2、ですね。)

まさに最後まで「瘋癲」な老人の姿が描かれていた作品なのであった。


この『瘋癲老人日記』と同時収録されている『鍵』もこれまた日記形式なのだが、
『鍵』に比べるとはるかに単純明快な構成になっている『瘋癲老人日記』。
(『鍵』についてはさらに色々言いたいことがある!!!むぐぐ~。
  あれこれ誰でもいいから語り合いた~~~~い。
  語りたくなる作家、それが谷崎潤一郎。)

谷崎の最高傑作!とは言いがたいが、私はこの作品を谷崎の代表作の一つとして推したい。


ちなみにこの作品が書かれたのは、昭和36年、谷崎潤一郎75歳のときであった・・・
うちの父親とほとんど変わんない!!!!

この色ボケジジイがああああああーーーーーー!!!!!!!