ズービン・メータ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 2014年日本公演 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

平成26年10月26日(日)、
『ズービン・メータ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 2014年日本公演』
(in サントリーホール)を聴きに行く。

私の誕生日を祝うため、国をあげて祝いにやってきたのだ。
あ、ウソです。


さかのぼること4年前。
憧れのイスラエル・フィルのコンサートを聴きに行き、
ますますイスラエルフィルに惚れ込んだ私。
 →参考記事『NHK音楽祭2010~イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、ズービン・メータ~

それがこのたび、4年ぶりに来日するとな!!
しかもチャイ5!←チャイコフスキーの交響曲第5番。
イスラエルフィルはチャイ5をどのように演奏するのだろうか。
想像しただけでゾクゾクする。

私「S席がめんたま飛び出るほど高いわあ。でも聞きたい~。一番悪い席にしようかなあ。」
夫「買えばいいじゃない。40歳の記念に。」
私「ほんとに!?じゃ、お言葉に甘えて1枚買おうっと。」
夫「おい、こら、待て。俺も行くぞ。チャイ5なら行くぞ。」
   ↑クラシックには疎いが、チャイ5が好きなのです。
私「ほんとに行く気!?2枚も買ったら、生活をめっちゃ圧迫するじゃん!!!
  すごく高いんだよ~~~~~~。あ!じゃあ私だけS席ってことでいいかな。」
夫「こ●すぞ。」
私「しぇぇぇぇ~。2枚S席買います~~~~。」

という生きるか死ぬかのやりとりがなされたのが、半年前。
その後、夜な夜なお茶漬けをすするひもじい生活を送りながら、お金を貯めてきた。
そして当日の昼前。

私「ふわーーーおはよー。今日、何時頃出る~?」
夫「何時開演だったっけ?」
私「んー。6時半だか7時だか・・ちょっと待って。チケット見てみる。」

まさかの14時開演!!!!

私「ぎょえええええええ。14時開演だーーー!!!!!」
夫「おいおい、なにやってんだよ!!!!」
私「うるへー!怒ってるヒマがあったら、40秒で支度しな!」←逆ギレラピュタ

急げーーーー!!!!

5分で支度できた。。。。
いやー、わたくし、準備の簡単な女でよかったす。



六芒星の旗がはためくサントリーホール。



余裕で間に合いましたー!

座席につくと、さすが一流オケのコンサート。
いつもよりドレスアップしたおじさまおばさまおじいさまおばあさまたちが座っていた。
しかもS席なんて値段が値段だけに年齢層もぐぐっと高い。

私「はー。すんごくいい席だねー。おされしてきてよかったよ。」

そして今、世界情勢がアレであるだけに、会場の雰囲気は若干ピリピリムード。
また、外交筋のエライ人も来ているのであろう、SPがドアというドアに立っていた。

そんな緊迫した状況の中、憧れのイスラエルフィル日本公演の開演のお時間です!!!!

◇◆



死ぬまでに生で聞いておきたい世界一の音色!!!

(指揮)ズービン・メータ
(出演)イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
(曲目)
ヴィヴァルディ : 4つのヴァイオリンのための協奏曲ホ短調 op.3 No.4 RV550
モーツァルト  : 交響曲第36番 ハ長調 「リンツ」K425
チャイコフスキー: 交響曲第5番 ホ短調op.64

(アンコール)
プロコフィエフ :『ロメオとジュリエット』から

◇◆

今回のイスラエル・フィルの配置は非常に珍しく、私はひどく驚いた。
まず、コントラバスが向かって左奥という特色が目に入った。
(前回は悪い席だったもんでそこまで見てなかった・・残念。)
たいていのオケは、バスは右奥に陣取っていることが多いためすごく新鮮な気持ちで見た。

またぐるりと見渡すと、
最前部は客席から向かって左から、
第一バイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2バイオリン
という、やはりこれまたちょっと独特な配置であった。

オーケストラの配置や編成には(にも)詳しくないが、
スタンダードな配置は、
左から第1バイオリン、第2バイオリン、ヴィオラ、チェロ
もしくは
左から第1バイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2バイオリン
だと思われる。
このイスラエルフィルの配置は今までに見たことのない配置であったのだ。

そんな変わった配置にドキドキしていると、ズービン・メータさんが颯爽と現れた。
前回同様、ちょっとお腹がデップリとして貫禄が。。。

ああ!!いよいよだわーーー!きゃー!!!

ズービン・メータさんのお腹に1人こっそり大興奮。

そんな私をよそに、ズービン・メータさんは丁寧に聴衆に深々とお辞儀をし、さっと構える。
そして振り下ろす。
私の大好きな、ヴィヴァルディ「調和の霊感」である。

私(はああああああああ)

出だしの1小節で私は卒倒しかけた。
なんという音を出すのだろう。
そよそよと風のように流れていくような優しい音。
懐かしいレコードのような温かい音。
かと思うと、時折、深く、色の濃い音が差しこんでくる。
楽章によって、小節によって、1音1音によって、違う表情を見せる。
けれどもどの音もぐっと統一されていてすばらしい。

4人の女性バイオリニストの演奏もすばらしかったが、←左から2番目の方の音が好みだった。
後ろで伴奏していたイスラエルフィルの弦楽器奏者たちが何よりすばらしかった。

私の中では4年前から期待に満ち満ちていて、ハードルが高くなっていたにも関わらず、
そんなちんけなハードルを軽々と飛び越えてみせたイスラエルフィルの音。
私は感嘆のため息しか出なかった。

く・・くるしい・・・
息ができない・・・・
ヴィヴァルディの音楽がこんなに色っぽいとは知らなかったよ。
そしてこんなにも切なかったなんて知らなかったよ。

ヴィヴァルディはもともと好きな作曲家だったが、
バッハやヘンデルに比べるとちょこっとマイナーで、曲も四季くらいしか知られていない。
けれどこの「調和の霊感」は四季以上にすばらしい曲で、もっと評価されてほしいなあ、
と常々思っていたのだ。
しかしなかなかこれといっていい演奏が見当たらなくてねえ。。。
それが、こんなところで出会えるなんて思ってもみなかった。

かつてこんなにも冷静と情熱とが混在する演奏を聞いたことがない。
熱く熱く。深く深く。それでいてクール。

この曲は4楽章に分かれているのだが、第3楽章がたったの8小節(つなぎのような役割)。
この緩やかな8小節がよかったなあ。
心の奥深くにするりと入り込んできた。

幾重にも重なった温かな音で演奏は終了した。

そしてチェンバロが片付けられ、配置が変えられ(でも基本は同じ)、
ゾロゾロと他の演奏者たちが入ってきた。

そしてモーツァルト「リンツ」である。

これまたすばらしい演奏であったのだが、
なにぶん、先ほどのヴィヴァルディの演奏が超一級品で、度肝を抜かれたため、
閑話休題的に脳みそがお休みをしていたため(寝ていたわけではないぞ!)、
あまり覚えてない・・・
もったいないーーーーーー!!!!
1音たりとも聞き逃すまいと思っていたのに。
いやいや聞いてはいたのだが、ほんとヴィヴァルディの演奏がすばらしくてねえ。
そして先に言いますが、後半のチャイコフスキーがすごい演奏でねえ。
モーツァルトが記憶の向こうに飛んでいってしまったのです・・・

(休憩20分)

夫「ねえねえ。なんでこのオーケストラ、全然音が違うの?楽器が桁違いに高いとか!?」
私「あはは。それもあるだろうけども、演奏者がみんなチョー一流だからだよ!エッヘン」
←なぜか威張る。
夫「ぜっっっんぜん違うんですけど!弦楽器の音がすごすぎる!」
私「素人にもわかるすごさ!みたいな?」
夫「うん!この違いは明確すぎる。こんな音、はじめて聴いたよ・・・」

普段寝ているだけの夫が、前のめりで聞いてたもんな~。
そりゃあんな音をあんないい席で聞いたら、あまりのすごさに寝てる場合じゃないだろう。

夫「きっとイスラエルフィル自体がすばらしいんだね!!
  俺が指揮してもさほど変わらず、すごい音が出るんだろうねえ~。」
私「うぉぉぉい!!!ズービンさんに光速で謝れ!!!!!」



ズービンさん、うちの粗忽者がごめんなさいね~。

休憩後、いよいよ汗かき夫の好きな、メインのチャイコフスキーの交響曲第5番である。
さらに楽団員が増える。
このプログラム、バロックから古典派、そしてロマン派と時代が進むから、
後半に行くにつれ、楽器が増えて行くのよね~。
でも基本的な配列は最初に述べたとおり、変体配置である。

第1楽章。
深い深い海の底から響いてくるような濃い弦楽器の音色にのせて、
クラリネットが「運命の主題」(←全体を支配する基本主題)を奏でる。。。。
それはとてもとても暗くて重いテーマなのだが、イスラエルフィルが演奏すると、
暗くて重いうえに、力強く艶めいた音が響いてくるのだ。

弦楽器、最高。
あとで知ったが、イスラエルフィルの弦楽器は世界一とも言われているらしい。
そら、言われるわ。

過去、ウィーンフィルやベルリンフィルの演奏も聞いたことがあるが
(残念ながら生演奏ではない・・・)
私は、イスラエルフィルの方が美しいと思うし、好き。
生演奏を聞いた分だけ、イスラエルフィルのほうが断然有利ではあるが、
とにかくイスラエルフィルの弦楽器の美しさと艶めきは格別だ。
そんな世界一の弦楽器が、このオケの土台となって音楽を支えているのだ。

いきなり1楽章の艶めいた演奏を前に、激しくドキドキ。
小節の終わりやテーマの終わりの弦楽器、
キュッキュと跳ね上がるつやつやした音の始末のすばらしさといったら。。。
誰にも真似できやしない。

そしてそんな弦楽器に真摯に応える管楽器。
管楽器のまっすぐ射るような姿勢に、
胸ぐら掴まれて、今までの生き方、そしてこれからの生き方をまっすぐ問われた気がした。

さあ、私、どう生きる!?

なんという音。
なんという曲作り。
まだ1楽章だけど、あと数十分でさよならすることがとてつもなく淋しくなったのだった。

そして第2楽章。
ロシア的な香りが漂う美しい旋律が特徴的なのだが、
イスラエルフィルが演奏するとロシア色が薄まることに気づいた。
ロシアの緑の風が吹かないのだ。←行ったことないけど。
でも確かに風は吹いている。
ホルンからは牧歌的でのどかな美しい音が響き、風の匂いもする。
でもロシアの風景が見えない。
私の鼻に飛び込んでくるのは、むせ返るような濃い匂いなのだ。
こんな独特なチャイコフスキーもあるのか、と目が覚めた。

ほとんど休む間もなく3楽章へ。
ズービン・メータさん、どの曲も基本的に楽章の間にほとんど時間をとらない。
スッと終わって、さっと次の楽章にうつる。
ズービンさんの姿勢に、聴衆も咳払いをすることなく次の楽章に耳を傾ける。
私は楽章と楽章の間に、みんながこれでもか、とばかりに咳払いをするのが嫌いなので、
これは大変よかった。わたし的には。
けど、じいさんばあさん、のどがやられちゃう~~~~~。

幻想的なワルツがくるくるとかわいらしく演奏される三楽章は目を見張るものがあった。
弦楽器の豊かなうねりがこれでもかとばかりに次々と押し寄せてくるのだ。
弦楽器の幅がすごい。
同じ音を演奏しているのに、同じ音じゃないのだ。
音には幅があり(「ド」も拡大すると、道路に引かれた白線のような幅があるのだ)、
その幅を隙間なく埋め、豊かな濃い音を作り出している。

やっぱりなんと言っても弦楽器がすばらしいんだよなああああああ。
ヴァイオリンの津波にさらわれながら、嬉しく思う私なのであった。

ジャンジャンジャンと三楽章が激しく終わり、一気に4楽章に流れ込む。

1楽章に出てきた運命の主題である。
1楽章では暗くて重い主題であったが、
4楽章では管楽器が華やかに加わることで、不気味な派手さが表現される。
暗闇に押し寄せる海のような弦楽器に、稲光のようなチカリと光る管楽器。
不気味に吹きつける風のような木管楽器。
そこへドロドロドロドロドロと雷のように振りおろされるティンパニの連打。

おかあさーーーーーん!!!!! ※マッチじゃありません。
こわいよーーーーーー!!!!!

そして何より人を不安にさせるのが、リズムとテンポの激しい揺らぎ。
大きく、そして小さく、そして大きく、と激しく熱く揺らぐ。
また、各楽器も大きく揺らぐ。
小節の初めと終わりはピタリと合っているのだが、
その間の音が、それぞれのパートでびっみょーにズレているのだ。

こわい!!!
あの計算されつくしたズレ。
このズレが曲全体を激しく揺らぎを生じさせ、人をとてつもなく不安にさせるのだ。
しかも一番人を不安にさせるテーマの時に、だ。

そしてまっすぐ進むかと思った瞬間、ズービンさん、突然の急ブレーキ!!

しぇーーーーーーー!!!
ぶつかるーーーーー!!!

あもちゃん、思わずお口、アングリ。

しかし、オケの皆がピタっとアップテンポからスローテンポに切り替えた。
私だけが、前へぽ~んと放りだされた・・・・
シートベルト、必須。

そして何事もなかったかのように、また走り出す。
前へ前へ。
どんどん速く。
どんどん熱く。
どんどん激しく。

トランペットのファンファーレが鳴り響く。
海の底から弦楽器が激しく波を震わせる。
全員が大混乱の様相で、もはやカオス状態。

私「・・・・ご・・・ごちゃごちゃうるさい・・・」←コラッ。

申し訳ない、ここだけちょっとチャイコフスキーに文句を言いたいところ。
あもちゃん、耳がちょっと悪いもんですけえ。
ガチャガチャしすぎると、うるさく感じちゃうの・・・

そしてピタッッ!
全休止である。

はー。終わる。
もう終わっちゃう。

トランペットが高らかに再度「運命の主題」を演奏し、
弦楽器へと繋がり、大きなうねりで運命の主題を演奏する。
管楽器、弦楽器、管楽器、と交互に「運命とは何か」とうたい上げる。

そのままフィナーレに突入。
弦楽器も管楽器もみんなであがって、そして下がって、そして上がって。。。。
これでもか、と打ち鳴らし、吹き鳴らす。
トランペットとホルンがやまびこのように激しく「運命の主題」を叫び合う。

そして最後。
ジャジャジャ、ジャン!!!! 
 ←私だけのトンチキ説かもしれないが、この最後の終わり方、
  ベートーベンの「運命」を意識してる気がする・・
  ベートーベーンの運命も第5番だしさ・・・ ※あくまでもあもちゃん説です。


会場のあちこちから、静かで上品なブラボーが聞こえてきた。
海外演奏会も多くこなしていらっしゃるズービンさんは、
この日本のブラボーはご不満に思うかもしれないが、
なんだか、このブラボーは本物だと思った。

感動していきなり、こぶしを振り上げて、ブラボー!とか無理。
私、この演奏に正直腰を抜かしてた。
そんなときに、声なんて出ない。

本当に本当にすばらしかった・・・・
(でも一番すばらしかったのは、ヴィヴァルディだったんだけどね!!!!)

嵐のような拍手に迎えられ、ズービンさん、

「アンコールは、プロコフィエフの『ロメオとジュリエット』です。
 チャイコフスキーとは違うんだけど。」

的なことを、
かなり訛りの強い英語でおっさっておりました。
と思う。
(た・・多分、そう言ったと思うんだ~。英語力ゼ~ロ~)

プロコフィエフのロメオとジュリエットも大変よかったです。
イスラエル・フィルがプロコフィエフなんて演奏するんだなあ~。
なんとなくバロック、古典時代に強い気がしたもんで。

じくじくうずく心を抱えながら外に出ると、
サイン会のための行列ができていた。

私「サイン会は今度でいいや。」
夫「あ!?今度!?」
私「おほほほほーーーー。」

数日後、1人コッソリ再びイスラエルフィルを聴きに行ってきま~す☆
なけなしのおこづかいをはたいて、悪い席を買いましたー><




まっすぐ帰宅して、すぐ現実に戻るのはいやだー!
と思った私たち。

クーニー(肉)ジュージューというワンクッションを挟んで、家路につくことに。

肉や野菜を焼いている間、2人でなされた会話は、
ずーーーーーーっっと全てイスラエルフィル大絶賛の言葉ばかりであった。

夫「あんなすばらしい演奏会に連れてきてもらって、あもちゃんほんとありがとー!」
私「あんなすばらしい演奏会のお支払いをしていただいて、ほんとありがとーーー!」

(おまけ)
この日の夜、リビングでうたた寝をしていた汗かき夫。
うちの家のお風呂、焚き上がると音楽が流れるのだが、その音楽が流れたとき、
左手を少し上げ、ユラユラと上下に手を振って指揮をしていた。。。←覚えてないそう。
なりきりズービンさん?
いい演奏会でよかったね。