八月納涼歌舞伎 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

平成26年8月19日(火)、『八月納涼歌舞伎』(in歌舞伎座)を観に行く。

おそらくこの納涼歌舞伎、人気は第三部の『怪談乳房榎』であると見た私。
訪米歌舞伎凱旋記念公演だしー、
故中村勘三郎より習い覚えし公演だしー、
勘九郎三役早替わりとか派手だしー。

でも、私は興味ござんせん。←いや、あるにはあるが。
迷うことなくクソ暑い昼日中から開演の、第一部『恐怖時代』『龍虎』に狙いを定めた。

なぜなら!!!

「恐怖時代」33年ぶりの歌舞伎上演 (読売新聞)

(引用)
谷崎潤一郎の戯曲「恐怖時代」が、東京・東銀座の歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」で、
5日から27日まで上演される。
実に33年ぶりの歌舞伎上演となる。主役の中村扇雀が、
悪魔的な魅力を放つ太守の愛妾を演じるが、原作の結末に手を入れ、
「今の観客に訴えかけるドラマ性を前面に出したい」と張り切っている。

「恐怖時代」は谷崎が大正期に発表した戯曲で、
血のりを多用するなど残虐性を強調した斬新な演出で客の度肝を抜いた。
以後も蜷川幸雄演出などで上演されたが、歌舞伎での機会は少なく、
今回は1981年以来となる。
「(十八代目中村)勘三郎さんが古い台本を多く読む人で、『お前も作品を探せ』と言われた。
幸い父の坂田藤十郎が演じた台本が家に多くあり、
その中から父がかつて出た『恐怖時代』を上演したいと提案しました」と扇雀。
(引用終わり)


この後も新聞記事は続くが、これがまた微に入り細に入る詳細な記事でして・・・。
しかも結末まで書いてるし!!
別に結末知ったからって歌舞伎の醍醐味が損なわれるわけではないが、まあ、省略とした。
後のあらすじでしっかり書かせていただきます。
私が。

というわけで、おわかりになっていただけたでしょうか。
大谷崎(谷崎潤一郎)をこよなく愛するあもちゃん。
今でこそその熱も多少冷めたが、でもやっぱり大好き潤一郎。
名前もいいよねー。

そしてそしてコアなあもるファンならご存知、心の恋人中村扇雀さん。
扇雀さんの演技に心を撃ち抜かれて以降、見るたびにすばらしくてますます夢中。

そんなラブリー大谷崎のおっとろしい作品を、私の心の恋人扇雀さんが演じるとなれば、
これが行かずにおれようか。
そのお姿、このくりくりどんぐりまなこにしかと焼き付けてやろうぞ!!!

とばかりに、いっちゃんいい席をとってやったぜー!
よって、予算オーバーによりわたくし分一枚のみをご購入~。

私「明日はこのクソ暑い中、歌舞伎に行ってくるわ。明日も暑いよねー。」
夫「あれ?俺は!?」
私「あぁん!?歌舞伎、そんなに好きじゃないじゃん?」
夫「いやいや、嫌いじゃないし!」←その程度の気持ちで来る必要ナシ!!
私「いっつも寝てるじゃん!歌舞伎なんか興味ないくせに!!!」
夫「えーーーー。自分ばっかずるいー。」
私「うーるーさーい!!!!」

逆切れにより、予定どおり私一人で行ってきた。



真っ青な空。
今日は一段と暑い・・・



ぎゅーぎゅーの人だかりをかき分け、席に到着~。

 ※当日の歌舞伎座内の様子については、こちらをご覧下さい→『恐怖時間。



ど真ん中のいい席!!!

ひゃっはー!!←北斗の拳風に。。。。

扇雀さんを堪能するでー。じゅるるん。



今回は谷崎作品。
つまりそんなに古い作品ではない。
イヤホンガイドは不要かな?とも思ったが、
着物のことや音楽のことなどを説明してくれるかもしれないし、
後半の『龍虎』については説明が要るかも、とイヤホンガイドをレンタル。

準備万端、刮目せよ!
開演のお時間です。



第一部 一『恐怖時代』

谷崎潤一郎の世界観とは違う、新しい世界がそこに。

お銀の方   扇雀
磯貝伊織之介 七之助
茶道 珍斎   勘九郎
医者 細井玄沢 亀蔵
梅野の腰元 お由良 芝のぶ
氏家左衛門   橘太郎
お銀の方の女中 梅野 萬次郎
家老 春藤靱負 彌十郎
春藤釆女正  橋之助

(あらすじ)
<序幕 第一場 春藤家下屋敷愛妾お銀の方の部屋>
何代目の将軍の治世であったかは分からぬ頃のこと。
江戸の深川辺りには春藤釆女正という大名の広大な屋敷があった。
ある夏の夜。
その屋敷の内、夏の設えを施した座敷には、
釆女正の愛妾のお銀の方と、これに仕える梅野の姿があった。
照千代という男子を産んだお銀の方は、釆女正の寵愛を欲しいままにして、
正室の奥方を凌ぐほどの権勢を誇っていた。
しかしこのほど奥方が懐妊。
その子がもし男子ならば、元芸者であったお銀の方が産んだ照千代の将来も危ぶまれる。
そんなお銀の方が待ちわびているのは、春藤家の家老の春藤靱負(ゆきえ)。
実は靱負とお銀の方は深い仲であり、照千代は靱負の胤であった。
靱負の来訪が遅いので、気分を損ねていたお銀の方であったが、
やがてやってきた靱負と盃を交わし、以前から企む悪事の算段をしはじめる。
彼らが企む悪事とは御家横領。
医師の細井玄沢に毒薬を用意させ、懐妊中の奥方や釆女正を殺害し、
照千代に春藤家を相続させようと考えているのである。
むろん、梅野もこれに加担しており、
その毒薬を用いる役目を、自分に仕える腰元のお由良の父の珍斎に命じるように進言する。
そうした手はずを打ち合わせると、靱負は座を立つ。
やがて梅野に案内されてきたのは細井玄沢であった。
玄沢はお銀の方が芸者の頃からの知り合いで、
お銀の方が春藤家へ奉公することになったのも玄沢の仲立ち。
その上、お銀と玄沢はかつて男女の仲であった。
そうしたことから、玄沢はお銀の方の企てに加担しているのだが、
八年前、自分を袖にして靱負と深い仲となったお銀の方に、玄沢は疑心を抱いている。
そんな玄沢に向かい、照千代が靱負ではなく、玄沢の故であると語るお銀の方。
その言葉に心を許した玄沢は、用意してきた三服の毒薬を渡すと、
お銀の方と盃を交わしはじめるが、しばらくすると玄沢が苦しみ始める。
お銀の方は、玄沢の口を封じるため、彼が持参した毒薬を飲ませたのであった。

◇◆

男を手玉にとる、谷崎お得意の悪女、出たー!
己の美貌だけを武器に、あらゆる男を取り込んで本能のままにのし上がる。

扇雀さん演じるお銀の方が、だらしなく脇息にしなだれかかっている場面から
物語は始まった。
扇雀さん・・・きれいやわあ。
ただ若干、
芸者上がりの妖艶な側室というより、お育ちのいい男勝りな正室の風格が漂ってる・・。
脇息にしなだれかかるだらしない感じも、扇雀さんがすると上品に見えるのよねー。

殿の愛妾でありながら、家老である靱負と通じて子どもまでできて、
しかもその子を殿の子として育てている。
ひぇー。
小心者あもちゃん、顔が似てないとかでいつバレるか、と怖くて生きて行けない・・。
しかし悪女お銀はそんなことちーっとも気にしてない。
いいなと思ったから寝るんじゃーい、なんか悪い?みたいな。

玄沢に靱負との仲を疑われれば、
ほんとはあなたのことが好きなのよー、あんな靱負なんてほんとは嫌で嫌で・・・
なんなら2人であいつ、殺しちゃおうよ。
それにね、殿との間の子としている照千代も、実はあなたとの子なのよ~。
と平気で嘘もつく。

しかも色恋だけじゃなく、生きて行く上で自分の地位をおびやかす存在(正室)は
この手で殺すのも厭わない。
残酷な計画も平気で口にする。

そして早速一人目の犠牲者が。
エロエロイ医者の玄沢が、エロ心を出しちゃったせいで自分で持ってきた毒で殺される。
せっかく何かある、と警戒していたにも関わらず、
お銀の美しさを前にエロい気持ちが出たばっかりに、警戒心がふにゃふにゃになり、
殺されちゃった。
あ~、哀しい男の性。

苦しみのたうちまわり、血を吐く玄沢。

私(・・・うーむ、血のりが足りない。)←おいっ。

ぶっしゃー!!!と血を吐いても私はよくってよ!!!
と気合いを入れて待っていたのだが、上品に血がポタポタ。

まあ、ジジババが多いですからね。
あまり最初から刺激が強いと、心臓に悪いからね。

苦しみ倒れていく玄沢を、黙ってジロリと見下ろすお銀・・・

まずは一人目、完了したわいな~。

という心の闇の底からお銀の声が聞こえてくるようである。
こわいーーーー!!!!!

そのまま第一場が終了し、舞台がクルリと回って第二場へ。

そのちょっとした時間で、今までの第一場について、再度頭の中で揉んでみた。

ここで重要なのは、靱負、という家老の存在である。
御家乗っ取りで一番得するのは、お銀に見えて実は靱負だということだ。
殿の正室を亡き者にし、殿の唯一の跡継ぎである照千代は、自分とお銀の間の子。
殿が亡くなれば照千代が家督を継ぐが、
その父親である靱負が実権を握ることになるであろう。
ということである。
お銀を愛しいと思う気持ちももちろんあるが、それを上回る野心、ギラギラ。
お銀もそれにきっと気づいている。
今はたまたま同じ目標に向かって共闘しているが、いつか・・・
食うか、食われるか。

そんな緊迫感が隠されているのか、と勝手に身が震える思いであった。
ぶるぶる。

(あらすじ)
<同 第二場 梅野の部屋>
所は変わって梅野の部屋。
そこへお茶坊主の珍斎が娘のお由良と共にやってくる。珍斎は自他ともに認める臆病者。
そんな父に向かい、お由良は、
お銀の方たちが御家横領を企む経緯を語り、奥方とその胎内の子の殺害のため、
奥方の御膳に毒薬を仕込む役目を珍斎が命じられると明かす。
話を聞いた珍斎は恐れ慄くが、
お由良は彼らの悪計を密告すれば、褒美にありつけると言い、役目を引き受けるよう促す。
その言葉に珍斎が逃げ出そうとすると、
この2人の会話を陰で聞いていた梅野が現れ、お由良を斬り捨てる。
そして腰を抜かした珍斎に、自分たちを裏切ると娘と同じ目に遭うと釘をさすのであった。

◇◆

勘九郎の珍斎ぶりがすばらしかった。
うまくなったねえ。
しかもお父さんの勘三郎の声にソックシ!
もともと声が似てるのもあるが、台詞回しとか動きとかもソックシ!

隣に座っていたマダムたちも
「勘三郎に似てるわねえ。」
と感心しきりであった。

この珍斎の役、結構難しいぞ~。
唯一笑いを取る役なのだが、けして笑わそうとしてはいけない。
仁義なんか知ったことか、命あっての物種、なんとか生き延びたいと願うがゆえの笑い、
なのである。
1年いやいや1分1秒でも長く生きていたい!本人は必死です!
みたいな。

娘が目の前で斬り殺されても、この父親、自分だけは助けてー!とかのたまわる。
それどころか、
娘が悪いんですよー。
そうそう、あなたがたを密告しようとするなんてねえ。
悪い娘ですわ。
私はそんなことはいたしませんよ!
どこまでも付いていきまーーーーす!!!
みたいな。

珍斎を演じる勘九郎の演技が光る場面であったが、
もう一つすばらしいなあ、と思ったのは脚本の妙。
舞台は梅野の部屋なのだが、壁の向こうからうなり声が聞こえてくる。

何の声?
と珍斎がそのうなり声に気づく。

梅野の部屋の裏はお銀の方の部屋・・・

あ!!!!
と娘が気づく。

実は、先ほどの第一場で毒を盛られて倒れた玄沢、
第二場のちょうど、今、この場面で、薬を盛られていたところだったのだ。
第二場ではこの後、珍斎の娘が斬り殺される。

舞台では、第一場、そして第二場、と続くが、時刻はほぼ同時。
ナレーションがあるわけでもない。
ちょうどその頃・・・
と誰かが言うでもない。

なのに、玄沢のうなり声一つで、時間のマジックが生み出される。
ただただ、まっすぐ進むわけじゃない。
そこで時間という奥行きが生み出されるのだ。
(ちなみにこの場面は、原作にあたったところ、原作のト書きにちゃんと書いていた。
 さすが大谷崎、細部に渡って計算済み。)

そんなわけで、2人目完了~。

蚊帳の中で斬り殺され、血が蚊帳に噴き出し、血に塗れたお由良が飛び出してくるシーンも、
イマイチ血のりの量が足りなかった。

原作のト書きには、

「夜目にも真白な綸子の蚊帳の面へ、
 ザツ、ザツと二度ばかり恐ろしく多量の血潮がはねかかつて、
 花火のやうにバツとひろがつて流れ落ちる」
「同時に真赤な、奇怪な、化け物のやうな容貌を持つた物體が仰向けに蚊帳の外へ轉り出す。
 それがお由良の死骸である。(略)
 熱に溶けた飴のやうに顔の輪郭が悉く破壊されて眼球と歯と舌だけがはつきり飛び出て居る。」

とあるのにー。
二度血が飛び散ったのはそのとおりだったが、花火のようには散らなかった。
ぽたぽたと。
そして血をポタポタと足らしたお由良が蚊帳から出てきた。

残酷さが少々足りん!!
しかし、時代も時代、気を遣ったのかもしれない。
観客も心臓が悪そうなジジババも多かったしねえ。
ト書きどおりだと、お由良の斬られた後の容貌があまりに気持ち悪い。
そのあまりの気持ち悪さに、心臓発作で観客が死んでも困るしねえ。

娘の死骸を前に腰を抜かしたままの珍斎と
血に塗れた刀を手にその場に堂々と立つ梅野。
そのまま舞台は回って、元のお銀の部屋に・・・

ちなみにこの第二場の大事な時にちょっと気になったのが、舞台裏の音。
セットを大急ぎで作り付けてる様子が聞こえてきた・・・
ちょっとー。
とんかんとんかん、うるさいんですけどー。
歌舞伎鑑賞まだ初心者のあもちゃん、あれはあれでいいんでしょうか。
イマイチわからない。
あれはああいうもんだ、とまるっとまとめて楽しむもの?
あまり舞台裏でごちゃごちゃやってる音が聞こえてくると、現実に戻ってしまうのだが・・・


(あらすじ)
<同 第三場 元のお銀の方の部屋>
一方、お銀の方がいる座敷では玄沢が息絶えていた。そこへ靱負が姿を現す。
彼は物陰に隠れて、事の一部始終をうかがっていたのだ。
やがて玄沢の死骸が片付けられると、梅野が珍斎を伴ってくる。
珍斎は命惜しさに、お銀の方たちに加担すると応え、言いつけ通りにすると誓う。
しかし珍斎の臆病ぶりに、彼を片付けてしまおうと靱負が申し出ると、
梅野が執り成して、万が一の折りには、自分が珍斎を成敗すると申し出る。
お銀の方は珍斎のことを彼女に任せることに決め、
靱負もその言葉に従うことにするのであった。

◇◆

珍斎、ピーンチ!!
仲間に入っちゃったよー。
座り込む珍斎を囲んで、お銀と梅野と靱負が顔を見合わせ、んふふと微笑むシーン。
こわいよ。

珍斎、奥方を殺すのを断ればその場で殺されちゃうけど、
奥方を殺したら、お役御免でどうせ殺されちゃうよー。
珍斎も薄々それに気づいてはいるのだが、なにせ、ほら、ポリシーが
1分1秒でもながく生きていたい。
だもんで、とにかくその場しのぎでなんとか切り抜けるしかない。

というわけで、悪事の仲間に加わるのであった・・・

(あらすじ)
<第二幕 第一場 春藤家奥庭の場>
それからしばらく経った夏の日の午後。
春藤家の奥庭で梅野を待っていたのは小姓の磯貝伊織之介。
ふたりは夫婦となる約束を交わしており、伊織之介もお銀の方たちの一味である。
梅野の話では、今日催される酒宴で、国許からやってきた氏家左衛門と菅沼八郎が、
主人の釆女正に諫言すると相談していたのを珍斎が探ってきたとのこと。
それゆえ、武芸の達人である伊織之介に、
氏家たちにケンカを吹きかけ、真剣勝負を願った上、ふたりを手にかけてほしいと頼む。
その言葉に伊織之介が従うと、いつものように、夫婦になろうと梅野が言い寄る。
そこにお銀の方が現れ、靱負に文を届けるように梅野に命じる。
梅野がその場を立ち去ると、怪しい笑顔を浮かべ、伊織之介を見つめるお銀の方。
実は2人は恋仲で、互いに御家横領のため、靱負と梅野を恋仕掛けで謀っていたのである。
そこへ珍斎が姿を現し、氏家たちが主君に諫言していると告げる。
これを聞いて、伊織之介はすぐに駆けつけようとし、
お銀の方は珍斎とともに酒宴の席へと向かうのであった。

◇◆

再び、悪女、登場ーーーー!!!
お銀の方の本命は、なななな、なんとこの伊織だったんだなー。
そりゃ、エロオヤジの医者玄沢や野心ばっかの靱負やほぼご乱心の殿なんかより、
若くて美しい、しかも自分を愛してくれる清潔な男がいいわなあ。
わかるわよー、お銀!!

それにしても七之助、相変わらず優男役がうまい。
勘九郎もいいんだけどさ、やっぱり私、七之助が好きなんだわ。

2人きりになり、伊織を見つめて
「美しいものを眺めて何が悪い?」
と扇雀さん演じるお銀がそれはもう、妖艶であった。
そこはかとなく漂う気品と妖艶さが絶妙。
あもちゃんハートを鷲掴み。

しかしこの2人きりの場面が、まあ、ほんとひどいんだわ。
梅野が去り、2人きりになった途端、お銀の方が
は~。目的のためとはいうけれど、好きでもない男たちと話したりするの、ほんとやだー。
あなたと早く会いたかったよー!!
と言えば、伊織之介は
それを言うならこっちの身にもなってくださいよ。
好きでもない梅野から、毎日毎日、結婚してくれーとか迫られちゃって~。やれやれ。
と答える。

ひでえ。
お前、ひでえ。
きっと、ここ笑うとこ。
つーか、ごめん、笑った。

梅野が、大好きな伊織之介に会うから、と、
10歳も年下の伊織之介の恋人として釣り合いたくて、
年不相応の華やかなピンクの着物を着て会いにくる、
というかわいらしい梅野の女心を
ずったずたのぎっちょんぎっちょんのぼっろぼろに踏みにじる伊織之介(とお銀)。
(このときの梅野を演じる萬次郎のかわいらしさがすばらしかった。)

だいたい、梅野が主人であるお銀のために人殺しも厭わず、ひたすら仕えてきたのも、
伊織之介と結婚したいがため。
今回の計画がうまくいったら、結婚したらいいじゃーん、とお銀が言ったらしい。

私(・・・。いやいや、絶対そんなつもり、ないでしょ、お銀!!!)

と心の中で叫ぶ私。
あもちゃん、全てまるっとお見通し!!!

今回の計画がうまくいったら、ぜーーーったいに、自分が伊織と一緒になりたいくせに!
お前みたいな女は、大好きな男を人に譲る、なんて絶対しないね!

ということは、どうなっちゃうの!?
ま・・まさか!?
という疑問を抱えながら、次の場面へ・・・


(あらすじ)
<同 第二場 殿中酒宴の場>
その頃、酒宴が催されている大広間では、
氏家左衛門と菅沼八郎が、御家に仇するお銀の方の命を申し受けたい、
と主君である春藤釆女正に願い出る。
これを聞いて靱負も驚くが、
お銀の方のためならば、家名も自らの命も惜しくないので自分を斬れ、
と言い放つ釆女正。これに氏家たちが困惑していると、お銀の方が現れ、氏家たちに向かい、
自分を斬るようにと迫るのであった。

と、ここへ伊織之介が駆けつけ、
日頃の恩に報いるため、釆女正とお銀の方の代わりに、氏家たちとの御前試合をしたい
と申し出る。初めはそれを許さぬ釆女正であったが、お銀の方への手前もあり、
その申し出を許すのであった。
やがて、伊織之介と氏家たちの真剣勝負が始まるが、
女性と見まごうばかりの容姿とはうってかわり、伊織之介の手練は目覚ましく、
氏家と菅沼は斬り殺されてしまう。
釆女正は、深手を負い瀕死の氏家たちを肴に、立て続けに大盃を空ける。
そして伊織之介に氏家たちのとどめを刺すように命じる。
その言葉に従い、伊織之介は刀を杭のように氏家たちに突き刺し、氏家と菅沼は絶命する。

その様子を心地良げに見ていた釆女正は、
傍らの梅野に向かい、伊織之介と真剣勝負をするように命じる。
その言葉に梅野は驚愕し、靱負は冗談が過ぎると言ってこれを宥めようとする。
しかし酒の酔いも手伝い、また、元来、血を好み、残忍な質の釆女正は、
伊織之介に梅野と立合うように重ねて命じる。
その言葉に従い、伊織之介は斬り掛かる。
梅野は必死に逃れようとするが、脳天を斬られて、伊織之介への恨み言を口にする。
そんな梅野を伊織之介は刺し殺すのであった。

この様子を釆女正が大笑して眺めているところに、
正室の奥方が毒殺され、毒を盛った嫌疑が珍斎に掛かっていると知らせがある。
これを聞いた靱負は、珍斎を詮議すると言って、
彼を引き立て、釆女正は奥方の許へと向かうのであった、

広間に残ったお銀の方と伊織之介の2人が大望成就も目前と思うところに、靱負が姿を現し、
見つめ合うお銀の方と伊織之介を不義者と言い放つと、伊織之介は靱負を斬り殺してしまう。
そこへ血相を替え、珍斎を引き据えながら釆女正が姿を現す。
珍斎の自白によって、釆女正は全ての経緯を知ったのであった。
そして珍斎に、抱えて来た首を差し出すように促すと、
それはお銀の方が産んだ照千代の首であった。
我が子の首を見て、お銀が愕然とすると、
伊織之介は上気して、釆女正に斬り掛かり、とどめを刺す。
伊織之介はその場に座り込み、お銀の方に刺し違えて死のうと申し出る。
お銀の方はその言葉に従い、やがてふたりは、差し違え、重なり合って絶命する。
その様子を、ひとり珍斎が呆然と眺めているのであった。

◇◆

怒濤のラスト。
話が一気に進んで言いたいことは山ほどあるのだが、
一言でいうと、まさに血で血を洗う惨劇です。
斬って、斬って、また斬って、とどんどん増えて行く死骸。

まずは頭のおかしい釆女正を演じた橋之助。
これがもう、すばらしかった。
橋之助のファンになりそう。
いやいや、心の恋人はもちろん扇雀さんなんですけどね!
橋之助も見るたびに貫禄を増して、上手になっていることに毎度驚く。
この作品での橋之助の狂乱ぶりがすさまじかった。

目がイッちゃってました。
バカ殿、というか、き●がいです。
血を見ると大興奮!
どんどん興奮しちゃって、ちょっとお前ら殺し合いしてみろよ、とか言っちゃうバカ殿。

でも、こういう狂った人、時々いるよね・・
私の周りには絶対にいないけど、時々ニュースに出るような人、こういう人なんでしょ。
こわいよ、この人。
と色々な思いが錯綜し、肝が冷えた。
まさに、納涼歌舞伎。
ヒュ~、ドロロ~。

そんなき●がいバカ殿の命令とはいえ、
あんなに伊織を愛してたのに、そんな伊織に問答無用で殺されちゃう梅野もまた気の毒。
アハ・・・ハ・・・
笑うところではないのだが、妙な笑いが出ちゃう。
あのピンクの着物が冷たく切ない笑いを誘う。

その後、照千代の首がはねられたことを知ったとき、扇雀さんの
「てるちよーーーーーーーーぉぉお!!!」
の声、まさしく子を想う母の声であり、いい声であった。

そしてこの後がいいのよーーーーー!!!!
あもちゃん、ますます扇雀さんを好きになりました。

き●がいのバカ殿が

「おのれ、今まで余をば巧みに欺きおったな。罪は残らず知れたのぢや。」

とお銀の方に詰め寄ると、お銀の方が

「知れたがどうした!!」

と図太い調子で言い放つのだ。

いやーーーーーー!!!
かっこいい。
女王の風格。
最初っから肝が座ってる女は違うわ。

そして、こうなったからには死ぬしかないわなあ。
と、伊織と2人で刺し違えていくのであった。

その時のお銀の方の表情はとても幸せそうでありました。
死ぬ時くらいは好きな人と一緒にいたい。
そんなかわいい乙女心がにじんでいた。
(ま、それまでにおそろしい所業を重ねてるんですけども。)

最後の最後、死体の山の中から、珍斎がムクリと起き上がるところで
観客から笑いが起きていた。
確かに笑うのも間違いじゃないんだろうが、
私には、このシーンは狂気としか思えず、なんかこわかったです。

1分1秒でも長く生きていたい、という珍斎の夢?がかなったわけだが、
周りには誰もいなくなりました・・・
というこわーいシーンでもあるからだ。

SF映画でも時々あるが、寝て起きたら、誰もいなくなってる、って怖い。
そんな風景なんだもの。

残酷で、怖くて、ちょっと笑えて・・・いろいろな楽しみがあったが、
とにもかくにも今回の『恐怖時代』、扇雀さんの
「知れたがどうした!」
の台詞を聞けて、大満足の歌舞伎鑑賞でありました。

覚悟を決めた女の態度と歌舞伎座内に響き渡った凛とした声、
大変美しゅうございました。

というわけで、以上が平成26年歌舞伎版『恐怖時代』である。

がー。
私はプログラムや色々なものを読んで、なんかひっかかるものがあった。

橋之助のインタビューでは
「小学生の時、この血が飛び散るこの芝居を見て気持ちが悪くなった想い出がある」
と言っている。

そうか~?
気持ちが悪くなるほど、血がなかった気がするが。

バカ殿の狂気、何を考えているかわからない、つかみどころの無い伊織之介の怖さ、
野心にとらわれた人たちの残酷さ・・・
それはしっかりと描かれていたが、血?気持ち悪い?そんなに出てたかなあ・・・

よーし!
原作を読んでみよう!
と思い立ったが吉日、このクソ暑い中、観劇後、図書館に立ち寄り、←家から遠い。
早速読んでみた。

うん、これ、原作通りに演出したら、すげーーーーー気持ち悪いわ。

と橋之助のインタビューの内容に合点がいった。

そして、引用した読売新聞にもあったが、

「この結末のくだりに、扇雀は、演出家と話し合い、変更を加えた。
「墓の下の谷崎先生の許しを得ていないが、邪魔者が誰一人いなくなった最後に、
 なぜ2人が死を選ぶのかという理由が伝わりにくいと感じた。
 2人が死を選ばざるを得ないよう加筆し、観客を納得させたい」(読売新聞)

この記事にあるとおり、確かに結末が大きく変わっていた。

変更点についてネタばれしますと、
今回見た歌舞伎では照千代が殺されていたが、
原作では照千代が殺されることはない。

歌舞伎では、照千代を殺すことで
照千代に家督を継がせたい。でもその照千代もいなくなったし、もう目的もなくなったわ。
じゃあ、一緒に伊織と死のう。
と、その2人の死にわかりやすい理由を持たせたのだ。

しかーし、それじゃあ谷崎潤一郎の世界観とは違うんだなー。

はっきり言おう!

お銀の方は、照千代なんてどうーーーでもいいんでやんす。
まあ、自分の子だしー、かわいいとは思ってんだけどー。
目の前の愛する伊織之介の姿しか、見えてません。
今で言うところの、母親失格。
邪魔者が誰一人いなくなったからって、2人でどうやって生きて行くよ。
というか、お銀の方はともかく、主人を斬り殺した伊織は早いうちに処刑ですよ。
そんな愛しい伊織が
一緒に死のうよ
と言ってきたら、愛だけしかないお銀は、合点承知の助!ですよ。
それが谷崎潤一郎の世界なのでありまーす。

この谷崎潤一郎の原作、発表当時(大正5年)はあまりに刺激的な内容であったため、
当局の検閲に触れ、発売禁止の処分を受けたのである。
戦後、久々上演され、その際の演出を手がけた武智鉄二は次のように語っている。

「発禁になったのはト書きが良俗を乱すという理由からでした。
 谷崎先生も「この作品はト書きが良く書けているんだ」と珍しく自慢していられました。
 (略)谷崎先生は
 「だからセリフはいくらカットしてもいいよ。ト書きの感じをだしてくれたまえ。」
 と言ってくださいました。」
そして舞台を見た谷崎は、「ぼくのイメージどおり」という感想を述べたという。

・・・こりゃきっと、舞台上では大いに血が噴き出していたに違いない。

今回の歌舞伎の結末の大きな変更について、
きっと墓の下の谷崎潤一郎はこの変更を承知しないと思うし、
血のりの量もライトな残酷演出も納得しないとは思うが、
私はこれはこれでよかったと思う。

扇雀さんの「知れたがどうした!」は原作の薫りそのものであり、
妖艶さは失われず、さらにその気高さは原作以上。
別作品として大いに楽しめた。

~幕間30分~



歌舞伎といったら、かべすー。
かー、菓子ー。
べー、べんとー。
すー、すしー。



歌舞伎柄の麩。

前回の歌舞伎座では、お弁当が売り切れで食いっぱぐれた。
その教訓を生かし、開演時間のだいぶ前に到着し、お弁当を確実にゲットした!!

この食べることへの執着を違うことにも生かしたいものである。

かべすのか、菓子については、
アイス最中が売られていたが、歌舞伎座の中がエアコン効きまくりで死ぬほど寒い。
アイスなんて食べたら死んじゃう。
というわけで、ホットコーヒーをすするあもちゃんなのであった。

だいたい、どらやき1個売り、とかあれば絶対食べるのに、
歌舞伎座のお菓子はお土産用になっていて、8個入り、とかしか売られていない。
8個も食えるか!!

お菓子、お菓子、と歌舞伎座内をさまようあもちゃん。
ないよー。うわーん、お菓子食べたいよーー!!!
イライラ。←どらやき食い損なったくらいで怒り心頭!

歌舞伎座はもっとその場で食べられるお菓子を充実させるべき!
以上、食べ物執着オバチャンの主張でありました。

◇◆

第一部 二『龍虎』

龍 獅 童
虎 巳之助

この作品は舞踊である。
龍と虎、二頭の聖獣が互いの秘術を尽くして激しく挑み合う様子を舞う。

獅童はともかく、虎を演じた巳之助さんの足さばきが大変美しく、舞いがすばらしかった。
ため息出ちゃう。
飛んだり跳ねたり、高い岩から飛び降りたり。。。
こりゃ、虎は若者が演じないと、年寄りだと死んじゃう。

何度かあった引き抜きのタイミングがちょっとあれ?と思うところもあったが、
全体的には雰囲気も壊さず、よかった。

そしてそして、今も不思議なのが、龍虎二頭がしばらく下を向いていて、
引き抜きと同時に顔を上げると、顔に書かれた模様が消えて、白い顔になっていたこと。
いつ、塗り替えしたのー!?
と今も不思議。
引き抜きの黒衣(くろこ)の作業に注意が行っていて、みてなかった。。。
残念ー。
本人が塗ったのだと思われるが、塗料はどこにかくしてあったのかしら?
ほんと、不思議だわー。
気づけばすっかり龍虎の魔力に取り込まれた私なのであった。


歌舞伎に満足して外に出ると、うだるような暑さ。
うへーーーーー。



どらやきを食べられなかった恨みをはらすため、
文明堂のカステラを食べ、怒りもすっかり鎮めて、帰宅した。

また扇雀さんに会いに行こうー!
橋之助さんもいるといいな。
あ、浮気じゃないです!!!ほんとです!!!

今回の八月納涼歌舞伎は3部制で「恐怖時代」は第1部最初の演目。
その後も「信州川中島合戦」で箏を演奏し、舞踊劇にも登場するなど、
扇雀さんは出ずっぱりの奮闘。
「8月の公演を始めた勘三郎さんが亡くなり、あの人が背負っていたものの大きさを知った。
私たち、残る役者はその分を背負う責任がある」と話していたとか。

あまりムリをしないよう、私のために(←えっ!?)がんばってほしいです。