かもめ | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

平成20年6月28日(土),

 かもめ 』 (in 赤坂ACTシアター)を観る。


あまりいい席を取らなかったせいもあって,2階席のかなり後ろ。

藤原竜也くんの顔が全くみえんっっっっっっ!


あの演劇は,

役者の顔のしわの奥まで見えるくらいの狭い箱でやるべき話だったと思う。

赤坂アクトシアターは少々どころかだいぶ箱がでかすぎた。

もったいないなあ。

もっと間近で見れば,もっともっとのめりこめたのに。。。←金を惜しんだ私も悪い。


これは,チェーホフの「かもめ」である。

あまりに有名な物語らしく(無知な私はもちろん知らなかった。),

日本ではチェーホフの作品の中で一番上演される作品らしい。


藤田弓子さんの話によると,


「文学座の新人女優はまずこの『かもめ』のニーナ役をする」


のだそうだ。


今回,ニーナ役は,美波さん。


最初,シェーって感じのハイテンションだったけど,

そういう役柄にだんだんと慣れていって(私が),

前半の終わりごろからとても好感のもてる,ピュアないい演技をしていた。


藤原竜也君は,まあ,言う事なし。

前半はどうも乗り切れてない印象だったが,

後半は鬱々とした青年役をとても器用にこなしておりました。

(熱く,と言いたいが,役が役だけに熱く演じていた,とは言い難く・・。)


ああ,つくづく悔やまれる。

間近で見たかったよう(つд⊂)!!


でもでも!

私がこの演劇で「一番よかったで賞」(小学生か?)をあげるなら,

間違いなく・・・



「麻実れい」(藤原竜也のお母さん役)



である。


ここで,この作品のあらすじを少々・・

(ネタバレなし)


舞台は19世紀末帝政社会崩壊前夜のロシア。

退屈で惰性的な時代に我慢がならず、

前衛的な劇の創作にその不満の発露を見出そうとしている

青年トレープレフ(藤原竜也)。


彼は美しい湖のほとりにある伯父の田舎屋敷に住んでいる。

そこへ、著名な作家トリゴーリン(鹿賀丈史)を連れて、

大舞台女優である母アルカージナ(麻実れい)がやってくる。

青年は湖の向うに住む女優を夢見るニーナ(美波)に恋をしている。

彼は自作の劇にニーナを主演させ、

母らの前で上演するのだが、

アルカージナは茶化すばかりで真剣に取り合わない。


一方、ソーリン家の執事の娘マーシャ(小島聖)は

トレープレフを愛しているが、その想いは届かない。

さえない教師メドベジェンコはマーシャを愛しているが、

マーシャは無視している。

ニーナはトレープレフの想いに気づいているが、

女優として大きく成長したい!という野心に溢れている。

ニーナは、青年の母の愛人であるトリゴーリンにだんだんと惹かれていく。



と言ったような話が前半で(前半だけで濃い・・),

あらゆる登場人物の気持ちが,

すれ違い,一方通行で,あまりに自分勝手な様子が印象的。



そんな個性あふれる登場人物の中でも

自己愛ナンバーワンは,

麻実れい演じるアルカージナ。


息子はかわいい。

でも自分はもーっとかわいい。


一方,息子は

自分をもっと見てほしい。

愛してほしい。

愛をひたすら欲しているのに,

ニーナには見放され,

母も息子より自分を愛しているんだ・・・。

孤独でむなしい。

作家としての才能も,あるんだかないんだかわからない。

自分の未来が見えない・・。

なのに,目の前に才能にあふれた作家がウロウロしやがる。

母もニーナも彼のものだ。

なんで自分だけが・・・・。



といった葛藤が前半から後半へとかたられていく。


後半は,

竜也君扮する青年が,作家として少し芽が出始めていた。

しかしまだその状況を受け入れ切れていない青年。


という設定で始まる。


誰かが母に問う。


「息子さんが有名になって,どうお感じになりました?」


すると,母はシレッとこう答える。


「私,彼の作品をぜーんぜん読んでないの~,オホホホホ。」



バカですわ,この母。

馬鹿正直,というか,ある意味,少女。

鈍いの極み。

大女優であるからか,鈍いからか,

息子をまーったく認めようとしない。

そういう母を,麻実れいが120%の力で演じきっていた。

すばらしかった,麻実れい。

(遠くから聞いていると,名取裕子のような声。最初名取裕子かと思った。)


こういう母ってきっといるんだろうなあ,と思った。

三田佳子とかって,こんな感じに違いない。

ああ~,言いそう,全然読んでないの~,とか平気で言いそう。

キョト~ンとして言いそう。

だから息子がああいう感じになったんだわ。←想像。



とにもかくにも,

原作をぜひ読んでみたい,と思わせる演劇であった。