さくらんぼとふたりんぼ 17~あもん史 妄想編~ | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あもんとハカセがチェリーを待って3日が過ぎた
このナイタイ高原牧場はチェリーどころか誰も来なかった
ハカセは釣りに行ったり、食料調達に行ったりしたが
あもんは買い物をハカセに頼み、ずっとこの牧場で空を見下ろしていた
この牧場では空を見下ろしている感覚になる
秋晴れが続くこの青空で雲が徐々に薄くなっていると分かった
太陽の軌跡が指で描けるようにもなった
この高原は空しかなかったけど、それが良かった


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チェリーを待っている間ハカセといろんな話をした
ハカセのウンチクは底がないぐらいに豊富だったので暇はしない
しかしあもんにはもう日にちがなかった
明日にはここを旅立ち帰郷しなければいけない
もう夏休みが終わる時期だったのだ
『もう、終わりかな~』と思い空を見下ろした
するとハカセがあもんに言った
『お、チェリー姫が来たぜ!あもん!』
『えっ、どこ?』

見ると小さく動く点が見えた
この高原では人が蟻のように見える
徐々にバイクらしきものと大きくなっていた
そのスピードは遥かに遅い
バイクと言うより自転車のようだ
『あの下手さはチェリーに間違いないな~』ハカセが呟いた
『ああ、そうじゃな~』あもんもそこは訂正をしなかった
『おい、ハカセ、迎えに行こうぜ!!』あもんはハカセを誘った
『あはは、それ面白いかもな』ハカセとあもんはバイクに乗った





あもんとハカセはバイクに乗って高原を下っていく
エンジンは途中で切りニュートラルに入れた
下り坂であるためバイクは止まることはない
これで必死に上っているチェリーに気付かれることなく近づくことができるのだ
チェリーのバイク音が徐々に近づきチェリーが見えた時
あもんとハカセは一緒に叫んだ
『おぉ~~い!チェリィィィィー』
その声に気付いたチェリーは思わず両手を上げて振りながら返した
『やぁぁぁぁ~あもんく~ん!ハ~カ~セ~ぇぇぇ』
そしてその後バランスを崩したチェリーは見事に転倒した
『あははははは!あははははは!』
待ちに待った再会が笑いから始まったのである


やっとのことで駐車場に着いたチェリーは真っ先に売店に向った
『ソフトクリーム!!』
チェリー体全体で笑いながらおばちゃんに注文した
『これが食べたかったんだ~』
チェリーは幸せそうな顔で言った
そう言えば、チェリーはしきりにここのソフトクリームを薦めていたことをあもんは忘れていた
『あもん君も食べた?』
チェリーがあもんに首をかしげた
『いや、食べてないけど、美味しそうに食べるんじゃね~』
『だって、美味しいもん!あっ、一口あげる!でも一口だけだよ!』

『はい!』とチェリーはソフトクリームを口に近付けた
あもんは大きく口を開け大きな一口でソフトクリームを食べてやった
『あっ、ずるい!、そこ普通、遠慮するとこでしょ!』
『まっ、明日はあもん君がおごってくれるからいいか~』

とチェリーは勝手に約束を成立させてしまった
もう長袖を着ていないと寒い季節となっていたがチェリーには関係がなかった




ハカセは貯めていた食材を全て使い腕を振るった
それはあもんが北海道ラストナイトとなるからであった
『えええ~もう帰るの~~』とチェリーが不満を言った
『ず~と待ってたんだからな!遅いよ!』あもんは反論をした
『だって、道が分からなかったから他のライダーとツーリングしながら来たら、』
『え~らい、遠回りしちゃって…やっとの思いでここに来たんだよ』とチェリーが主張した
この夜も3人はよく食べよく笑いよく飲んだ
珍しくハカセがいい気持になって訳が分からなくなっている
たった3人だけのキャンプ場であったが大層にぎやかだ
10時をまわった頃ハカセがいきなり言いだした
『はぁ~もう眠いや~先寝るぞ~』
『ええ!もう!!あもん君のラストナイトだよ~』
チェリーが止めた
『オレは昨日まであもんと一杯しゃべったからいいんだよ』と言いテントに戻っていった
あもんはハカセの優しさを感じた
『なぁ、チェリー、星が見下ろせる所に行こうよ』
あもんは例の空が見下ろせる場所にチェリーを誘った
『うん!行く~~』チェリーは迷うことなく答えた


星が見下ろせる所に来た二人はちょっとがっかりした
今日は雲が薄くかかって数えるほどしか星が見えなかったからだ
だけどあもんはそれでもよかった
チェリーとふたりっきりになれただけよかったのだ
『ふたりんぼになれたね~』チェリーがあもんに言った
『ふたりんぼ?』
『そう、ふたりんぼ、私、チェリーだからさくらんぼ』
『チェリーってハカセがつけてくれたんだよ。さくらんぼみたいだってw』
『さくらんぼとふたりんぼ』
『あはははは!なんか早口言葉みたいだね~』
『あもん君、10回言って!!あははは』

チェリーはとても機嫌が良く見えた



『なぁ、チェリー…』
『ん、何?』

あもんは少し沈黙を置いて続けた
『なんでチェリーはハカセと旅を続けるの?』
『チェリーはハカセが好きなの?好きだから一緒にいたいん?』
『え、好きだよ!ハカセもあもん君も好きだよ』
『じゃぁ、オレとハカセはどっちが好きなんだ?』

あもんは勢いをつけてチェリーに聞いた
チェリーはそんなあもんを無視したかのようにひとつの花を摘まんだ
そしてあもんに小さな花を見せて言った



『ねぇ、好き嫌い占いしてみよっか!』
『ああ』あもんは思わず答えてしまった
チェリーは花びらを一枚ずつちぎり始めた
『好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、…………好き!』
『あああ、やっぱり好きだ~w』
『おい!ルール違反してるじゃん!しかもどっちのことか分からないし!!』

あもんはとっさに突っ込んだ
『あはははは!好きなんだからいいじゃない!あはははは!』
チェリーの笑い声は高原中に響いた


そしてチェリーは笑い疲れたのかしばらく黙り始めた
あもんもチェリーにリズムを狂わされたので次に何を話そうか考え中であった
そこでチェリーが静かに話し始めた
『私、中学校の頃…いじめられてたんだよね』
『え!!』あもんは驚いた
こんな人懐っこい子がいじめに遭っていたなんて考えもつかなかった
『ひとりになるのが怖いんだ…だから、ハカセと一緒にいるの…』
そう話し始めたチェリーは小学校の頃からの自分を語り始めた




チェリーは小学生の頃、クラスではお転婆な少女だった
男子に混ざってドッチボールをしたり女子と縄跳びしたり
男女共に遊ぶ活発な少女だった
高学年になると男女が意識するのは当たり前のことであったが
思春期と言う意識は全くなくただみんなで一緒に遊ぶのが大好きだった
そしてチェリーはそのまま中学生になった


中学生になってもチェリーに思春期は訪れること無かった
しかしそれが女子にとっては八方美人に見えてしまったのだ
『違うよ~ただみんなと遊びたいだけだよ~』
『みんな大好きなだけだも~ん』

とチェリーは必死に主張したが思春期の女子にはそれは受け入れられなかった
思春期な男子からはそれが軽い女のイメージとなり悪い噂を立てられることになった
そして次第にチェリーは無視されるようになった
チェリーの笑顔は徐々に消えていき
それを見た男女が今度はチェリーを“ネクラ”だといじめるようになったのだ
幼なじみだったハカセも自衛の為にチェリーと距離を置くようになった
身体は大人に向かっているが気持ちが小学生のままだったのがいじめの原因だったのであろう
もちろん、チェリーは耐えられなかった
だからチェリーは高校受験先を親戚がいる札幌にすることにしたのであった


高校に進学すると“もう二度と嫌だ”という気持ちが強くなったチェリーは性格を変えた
男子を意識するようになり女子の流行りにも一生懸命ついていった
持ち前の愛嬌の良さはここではプラスとなりチェリーは人気者になった
そんなチェリーは生徒会長まで務めるようになった
しかし、チェリーの心の中は寂しかった
“自分に嘘をついている”そんな自責感を吐き出すところが無かったからだ
ある時、男子に告白されつきあったが、結局訪れたのは別れだった
男子と女子は仲が良かったが男女の仲にまで発展すると悲しみが訪れることを知ったのだ
結局、チェリーは自分が無理をしていたことに気付いて大学受験で地元に帰ることにした


大学に入学したチェリーはハカセと再会をする
あの頃の思い出を全て忘れたフリをしてチェリーはハカセと接し始めた
自然な流れでハカセはチェリーを北海道に誘うことにした
ハカセ的にはあの時自衛の為にいじめに加担した罪を償いたかったのだ
北海道の大自然の中、チェリーは一気にフラッシュバックを始めた
そう、あの小学生のチェリーに戻ったのだ
自然回帰という言葉がチェリーにはピッタリであろう
だからチェリーは北海道放浪にハマったのであった
チェリーは自分を回帰させてくれたのはハカセのお陰であると思っている
加えてまだまだチェリーを惹きだしてくれるのもハカセだと思っている
だからハカセと旅をしたいんだとチェリーはまとめた



『あもん君、人を好きになるってどういうこと?』
語り終わったチェリーはとても難しい問題を投げかけてきた
『男と女って好きになったらつきあわなくちゃいけないの?』
『だって、つきあったら欲が出るでしょ、独占欲ってやつ?』

あもんの答えにチェリーは反論をした
『それってある意味、誰かを嫌いになるってことだよね』
『誰かひとりじゃなくて、みんなが好きっていけないことなのかな?』

あもんはこの問いに答えるできなかった
この前聞いたハカセの恋愛観と一緒なのである
『ねぇ、あもん君って今まで彼女が出来て悲しいことはなかった?』
あもんはその問いには答えることはできる
『ああ、何度もあった、もう恋なんかしない!めんどくせ!とも思った』
『じゃけど、好きになるんよ、好きになった人とはキスをしたいと思うんよ』
『みんなを好きっていう感情は分かるけど、それズルイ気がする』
『人間って人恋しくなる動物じゃけん、弱い動物じゃけん、抱きしめられたいんよ』

あもんは全くまとまっていない話を感情的に話してしまった


あもんは少し空気が悪くなったと思い
『ちょっと、寒くなってきたじゃろ~ちょっと、待っといて』と席を立った
あもんは自分のテントからシェラフを持ってきたチェリーの肩にかけた
『あ~~~ズルイ~』とチェリーは言い席を立った
そしてチェリーも自分のテントからシェラフも持ってきてあもんの肩にかけた
『あははは、これでふたりんぼじゃね』と慣れない広島弁で言った
雲が広がり辺りは真っ暗となっていた
星は少なかったが目が慣れてきて薄ら雲が動くのが分かる
この暖かいシェラフはチェリーの匂いがする
チェリーはしゃべり過ぎて疲れていったのか静かに話し始めた
『ねぇあもん君って私のこと好きっていってくれたじゃん…』
『あれ、私、すごいうれしかったんだよ~』
『実は、まっすぐに好きって言われたの初めてかもしんない!』
『ねぇ、あもん君、もうひとつ聞いていい?』









『つき合ってなきゃ、キスしたらいけないのかな~


『え、!』
あもんは一瞬戸惑ったが
『いや、いいんじゃない』と言った
そして優しくチェリーの肩を抱きあもんとチェリーは唇を重ねた
チェリーの身体の力は一気に抜けチェリーは倒れた
あもんはまるで全感情を唇の先に集中させているようにキスを続けた
チェリーはあもんの頭を抱え無意識に身体が悶え揺れ始めた
あもんはその揺れを抑える為にチェリーの手を握った
それ以後チェリーはあもんに従うままになっていった
息が詰まるほどに激しく重ね
吐息が零れるほどに甘く吸う
鼻と鼻が淫らに擦れ
溶けるまで絡ませる


あもんはチェリーのくちびる泥棒になった




あもんとチェリーはそのまま眠ってしまった
手をつないだままふたりんぼで眠ってしまった




『あもん君!起きて!あもん君!』
先に目を覚ましたのはチェリーであった
『あもん君!見て!すっごい朝日だよ!』
あもんとチェリーの目の前にあったのは見たことの無い朝日であった



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『オレンジ色だね~』
チェリーが見えたそのままのことを言った
しかしそれが飾らない正直な感想であろう
神秘的な世界を見た時には多くの解説はいらない
それぞれがそれぞれの感性で感じればいいのである
『あぁ~オレンジ色ってなんか、元気が出てくるな~』
そうあもんが言うとチェリーは『うん』とだけ答えてあもんの肩に頭を預けた
そしてあもんは優しくチェリーにキスをした



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空を見下ろせるこの高原では太陽は足元から登って来る
あもんたちを足元から照らし始め
徐々に全身を露わにしてくれる
顔の高さまで来たら眩しいぐらいに強く光り
やがて太陽はあもんたちを頭の上から照らしだした
ふたりはもう何も交わす言葉はなかった
ただ手だけは繫ぎ温もりだけを感じていた
もう少し“ふたりんぼでいたい”僕たちはそう願った
太陽よ、暫くこのままでいさせておくれ
あもんは強く願っていた



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『お~い、朝飯ができるぞ~』
遠くでハカセの声がした
『おい、チェリー、腹が減ったぞ』
『うん、そうだね、今日もいっぱい食べなきゃ』
『ソフトクリームおごってやるよ』
『え!朝一ソフト?wそれもいいかもw』
『ソフトクリーム食べたら、バイバイな』
『うん…』




『あもん君、これって別れじゃないよね』
『ああ、そうじゃ、別れじゃない』
『オレ達はまた出逢う為に旅に出るんじゃ』
『あはは、そうじゃね』

チェリーは不自然な広島弁で答えた
『ちょっと違うし!あはははは』
あもんとチェリーはハカセの所へ戻っていった






人生は出逢いと別れの連続である
人生に旅を加えると出逢いと別れは増える一方ではあるが
何故か旅での別れには涙はなく清々しい
別れても笑みは永遠なるものであるのだ
何故ならこの別れには“もう会えない”という意識はなく
“また、会おう”という意志が強いからだ
その意志は旅先でふたりんぼになれた時に生まれるのである
旅先にいるのは過去を背負った自分では無く
未来を歩く新しい自分であると意識した時
人は素直となり裸になれるのだという
全てを受け入れてくれる大自然の中で一度裸になれば
隣には必ず誰かがいて
“ふたりんぼ”になれる


ふたりんぼには多くの時間は必要では無い
ふたりんぼには多くの未来があるからである


あもんは北海道を去った
ハカセとチェリーはタイへ旅立った
今のチェリーに必要なのはハカセである
だが、未来のチェリーに必要なのはあもんかもしれない
そう思うとなんだか楽しくなってきた
チェリーとのこの別れが楽しくなってきた
それを浪漫と言えばむず痒いのだが
あえてそれを“あもんの浪漫”と呼ぼう
あもんの浪漫飛行はまだまだ続くとこの時、確信したのだから





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あもん史~妄想編~さくらんぼとふたりんぼ
終わり












次回作
あもん史~妄想編~恋するアホウ
近日公開!!
あもんが恋にまっすぐに挑戦します!
乞うご期待!!