セブンの女 19 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1995年から1996年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします



『んじゃ、行ってくるけん』
このさよならをもう何度言ったのだろう
あもんは一人旅に出かける前に必ずスミ子に言った
『うん、行ってきんちゃい』
スミ子はいつだって微笑みながら答えてくれた
最近、スミ子家に入り浸りになっていたあもんに
スミ子家の家族もスミ子と同じく見送ってくれるようになった
もう、ひとりの息子のような心情を抱いていたスミ子母も
『気をつけんちゃいよ』と言ってくれた
だからあもんは寂しくは無かった
何故ならあもんには帰る家があったからだ
それは実家がある広島では無く、スミ子家がある福山であった
旅は帰る家があるから楽しくできるのである
スミ子は寂しくないのだろうか?
未熟なあもんはそんなことを考える余地も無く旅を続けていた
未開の地へ旅をして見聞を広める
それは男にとって浪漫であり挑戦である
己を見つめ他を敬い共に歩む
この言葉は海田高校の校訓でありあもんの人生訓である
あもんはこの時“己を見つめ”に没頭をしていた
未開の地へ辿り着いた自分が本当の自分の姿であると信じていたからだ


あもんはこの頃“端”と“日本一”にこだわっていた
“本州最南端”なんといい響きだろう
そう思いついたあもんは高速道路を和歌山で降りた
ここからは一気に本州最南端潮岬を目指し走った
3月の陽気が堪らなく気持ちよかった
ライダーは何故か“端”にあこがれる
道あれば走り続けるライダーがバイクを降りるのは道が途切れた時である
その途切れた所こそ端なのである
端の先に道は無い。あるのは海である。その海の先には未知がある
未知の前に立った時、男はひとつの達成感を感ずる
『オレはここまでやってきたぜ』という自己満的達成感である
だが、男はそれでいい
男は道のりでは無く結果を勝ち取ればカッコイイのである



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潮岬からは紀伊山地を縦走した
途中、川湯温泉という川から湧き出る温泉に入りキャンプをした
キャンプを甘く見ていたあもんはここでテントが強風によりふっとんだ
それを見かけた隣のおじさんは必死であもんのテントを掴んでくれて
それに加え折れたテントのポールを直してくれた
丁寧にお礼を言ったあもんに好感を持ったのか
おじさんは酒とつまみをたらふく御馳走してくれた
連れてきた家族もそっちのけでおじさんはあもんと飲んだ
聞くとおじさんも昔は一人旅をしていたらしい
『一人旅はいい』
おじさんは酔っ払いながらなんども口にした
知らない地で知らない人と酒を交わす
これは旅の特権であり、例えどこかの居酒屋で隣り合わせたおじさんと飲むのとは少し違う
もう、二度と会えないだろうと思われる人と人は
もう二度と話せないことを語り合う
それは日常の虚言でなく、非日常の真実である
『昔、旅先で惚れた女がおっての~』
おじさんは奥さんにも話せない話をしてくれた



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おじさんのお勧めによりあもんは紀伊山地の奇岩を見に行った
それらはどれも驚きのたくましい岩であった
『最近の若者は個性がない』団塊ジュニアであるあもん世代は時にそう言われた
しかしあもんはそんなことを言う大人に言ってやりたかった
『個性があれば叩くじゃないか!』と
あもんはこれらの奇岩を眺め奇岩を尊敬した
彼らは何百年も奇岩と言われ続けている
それらの多くは自然に浸食され続けている結果なのであるが
彼らは決して消えることなく在り続けていた
『気持ち悪い…』と言われても『邪魔なんじゃ』と言われても
彼らはそこに在ることによって自分を生きているのだ
あもんは彼らに男を感じた
息絶えるまで自分の信念を貫き通してこそ
人は男として認めてもらえるのである


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あもんも男として認められたい
そう思ったあもんは熊野山中に架かる谷瀬のつり橋を渡ることに決めた
谷瀬のつり橋は日本有数の長さを誇る鉄線のつり橋で長さ297m,高さは54mもある
これを渡ったら男になれる気がしたのである
橋の途中でTV撮影をしている女子アナに会った
彼女は勇敢にも橋の中央で笑顔にレポートしていた
あもんが橋をユラユラ揺らせながらそこを横切っても
女子アナは笑顔で会釈さえしてくれた
あもんが橋を渡りきったその後に女子アナはゆっくりとあもんに向ってきた
女子アナは涙を流していた
そして、『もう!あんな怖い思い嫌や!』とカメラマンを激怒し始めた
あもんは女性の強さというものを感じた



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南紀を半周したあもんが次に目指すのは静岡である
その理由は静岡には日本一があるからである
日本一の山“富士山”に会わなければいけない
ただ一目会うだけでは無い
静岡側から眺め始め富士五湖を巡って舐め回すように望んでやったのだ
富士山は何処から望んでも美しい山容をしている
そんな日本一にあもんは嫉妬をした
そして“いつか天辺へ!いつか天辺へ!”と呟き始めたのだ
途中、最近よく耳にする上九一色村へ辿り着いた
しかしあもんはその宗教を無視するほど日本一に魅了されていた
テントのポールが折れてテントが張れない状態になっていたあもんは
急きょ本栖湖湖畔にあるペンションに宿の予約をした
お金が無かったから素泊まりにしてカロリーメイトをかじった
翌朝、夜明け前に起き日本一の寝起きを見てやった



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男は誰しも一度は天辺を目指す
天辺に辿り着くためには血眼になって戦うのである
時に友を裏切り肉親させも振り向かず天辺を登り出すのである
たとえ雪崩に巻き込まれてもいい
途中で息絶えてもそれが本望である
そこまでの強い意志がなければとうてい天辺に立つことはできない
そんな男の背中を見た女はどう思うのであろう
寂しさに耐えただひたすら帰りを待って
待ちに待って会えたのに
この男が何を成し遂げたのかも教えてくれない
そして男はまた旅立っていく
女はそれで幸せなのだろうか
だけどあもんは男である
男で生まれたからには男道を貫き通すのである
だからあもんはバイクに乗る
バイクで旅をして多くを体験する
その体験をスミ子に報告をする
あもんは一人前の男になった?と最後に問う


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日本一を見たあもんは無性にスミ子に会いたくなった
ひとつの旅の達成感からなのか良く分からないが会いたくなった
だから帰りは高速道路を走りまくり静岡から福山まで一日で帰った
路中、寂しくなったら長渕剛の歌を歌って気を紛らわせた






旅をすればするほどに欲が生まれる
もっと知りたいという“体験欲”である
あもんにとってそれはネバーエンディングストーリーである
そんなあもんに彼女はなんと言う?
スミ子はそんなあもんの旅話を聞きながら
『うん、うん、よかったね』
と微笑みながら頷くのであった
あもんとスミ子は丁度良い関係を続けていった

あもんは大学3年生になった






続く