セブンの女 6 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1993年から1994年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あもんにはお金が必要であった
ローンで衝動買いしたXJR400の返済が毎月あるからだ
毎月家から数万の仕送りがあったがそれは生活費で消費をしていた
よって、あもんはバイトをすることに決めた
バイト先はバイクをいつもそばに置けるガソリンスタンドにしようと思った
近所のガススタを訪ねてはみたがバイト求人はないとのことだった
しようが無いので近場から一軒ずつガススタを訪ねてみた
そして、松永町の外れにひとつのガススタに聞いてみた

『あの~ここでバイトしたいんですけど…』
中年太りで頭の薄いおじさんが答えてくれた
『あ、いいよ~明日から来んちゃい』
『福大生か、好きな時に来てもいいよ』

一見怖面のこの店長はあっさりとあもんの面接を終わらせた
あもんはキグナス石油でバイトをすることにした
好きな時間でイイという言葉に甘え
あもんは講義が無い時は全ての時間をバイトに費やした
学校とバイト先の往復、そして日曜日にはバイクを乗った
そんな毎日が続いていった




$あもん ザ・ワールド


数週間が経った頃あもんの働くガススタに新入生が入ってきた
夏であったが中途採用で入ってきたのであった
彼の名は“京ちゃん”と言った
京ちゃんとは同い年であったため話が合い
京ちゃんがあもんのことを“あっくん”と呼ぶまでには時間がかからなかった
京ちゃんはこの松永町の地元の子で高校中退後自衛隊に入隊をした

『なんで?自衛隊なん?』
あもんは京ちゃんに聞いた
『え、自衛隊に入ったら戦車に乗れると思うて』
『ええ、そんな理由?』
『まぁ、それとちょっと、こっちにおれんようになってな~』
『何があったん?』
『高校入ってすぐ暴走族に入って遊んでたんじゃ』
『オレの親父ってマル暴の刑事やっててな…オレが捕まったせいで更迭されたんや』
『もちろん、ぶち殴られて、そんで家を出たわけじゃ』


京ちゃんの人生は同年代にもかかわらず修羅場であった
『自衛隊っていえば“右向け左”っていう漫画読んだわ~あの漫画って事実に基づいて書いてあるって聞いたけど、あっとんかね?』
『あははは、オレも読んだで、半分ぐらいはあっとるかな!』
『やっぱり、年中男同士で床を合わせるけん、そっち方面もいてな~』
『あれは初めが肝心なんや、初めにビシッと言えばええんや』
『でもやっぱり中にはそれが言えん奴もおる。そんな奴が狙われとるんじゃ』
『そうか~やっぱり欲求不満になるんか?』

『そうそう、よく先輩に風俗に連れていかされたで~でもオレなんか不潔に感じてイヤじゃったわ~』
『あっくんも行ってみればいいじゃん。何事も経験じゃで~札幌にいい店があるで!』
『サッポロって北海道じゃん!そこにおったんか?』
『ああそうじゃ~でも辛かったで~雪の中の災害復旧』
『やっぱ楽して金が貰えるほど世の中は甘くないと思った』
『でもいっぱい免許とれたけん、上司と喧嘩して止めたわ』


京ちゃんはあもんと同じ年の割には大人っぽく見えた
『XJ乗っ取るんじゃね~ぶち、かっこええじゃん』
『今、バイク乗っとるん?』

『ああ暴走族もすぐ飽きてレース始めたんじゃ、原付でじゃけど』
『瀬戸内海の島に生名島ってとこあるんじゃけど、そこにサーキットがあって行きよる』
『でも金がかかるけん、すぐ近くの園芸センターで遊びよるんじゃ』
『最近は母ちゃんの車乗ってグリーンラインで遊びよるんじゃ』
『あっくん、今晩行ってみん?』

あもんは京ちゃんとグリーンラインに行くことになった

あもんは決して走り屋では無い
スピードに対してあまり快感を得るほうでは無く
のんびりツーリングで気になった所に寄り道するのがスタイルである
しかし当時はバイク免許取り立ての時期
車遊びにバイク遊びに興味があった
自分のバイクで遊ぶ自信が無かったからあもんは
京ちゃんの車「ファミリアハッチバック」に乗って夜な夜なグリーンラインに行くようになった


『この曲、ぶちええで、知っとる?なんか速くなった気がするんじゃ』
京ちゃんがカセットテープをカーラジに入れた




あもんと京ちゃんはグリーンラインを走った
ちょっと曲がるでと言った京ちゃんはいきなりサイドターンを始めた
車が直角に曲がっていく
不意を突かれると頭が窓にぶつかるものである
好調にグリーラインを走っている京ちゃんは
ヒールトゥを一生懸命練習していた
これがなかなか難しいものであるらしい
あもんはバイク乗りであるがイマイチこの遊びには興味が無かった
景色の見えない夜にクルクルまわる車で楽しむことは無かった
この時車の免許を持っていなかったあもんは決まって京ちゃんの助手席に乗っていた
京ちゃんとは実に話が合いお互いに馬鹿を言い合って楽しかったのだ


あもんと京ちゃんはグリーンラインの駐車場で一服をしていた
そこに白い車がタイヤを鳴らせながら入ってきた

『おぉハチロクじゃん』
車にさほど興味の無かったあもんでも知っているカローラレビンAE86であった
『あのハチロクオレの友達コージじゃけん、紹介するわ』
京ちゃんが言った
こちらに気付いたハチロクはあもん達の隣に車を止めた
『おい!京ちゃん、カズがSiR2買ったらしいで、あいつ金も無いくせに』
『あいつは昔から新たしいモノ好きじゃけん、でもFFゆうのが気に入らんわい!』
『今からはFRが無くなっていくんかの~』

そう言ってからやっとコージはあもんに気付いた
『おお、お前があもんか!京ちゃんから聞いとるで!』
『なんか、応援団の親衛隊長やっとったみたいじゃん!』
『かっこええの~ワシは高校行ってないけん、長ランとドカン履いてみたかったわ~』
『第30代だったらしいで~』
『おお~伝統があるのう~ワシらの族はワシで終わらせてしまったけん』

ツリ目で茶色い前髪を伸ばしサイドを刈り上げていたコージは笑いながらあもんに話しかけた
コージは京ちゃんがいた暴走族のリーダーをやっていたらしい
興味のあるモノはすぐ食いつくタイプで
族をあっさりと解散させハチロクを買ったらしい
流石にリーダーをやっていただけあって包容力のある性格で面倒見がいい
コージを慕う仲間はこのグリーンラインにはたくさんいた
しかしリーダーのくせに時折無茶をするタイプであり彼には止めるヒトが必要であった
高校当時は京ちゃんがその役目を果たしていたらしい
その点、あもんと京ちゃんは気があったということであった



『京ちゃん、アクセルターン極めたで!』
『マジでか!ハチロクならできる思うとったけど…』
『あもん、乗ってみるか?』

訳も分からずあもんはハチロクに乗った
ロールバーで固めていた車内ではレガロの赤いシートが目立っていた

『あもん、行くで~よう捕まっときや』
そういうとコージはアクセルを開いた
キュルルルルルル~
見事に回転し始めたハチロクを見て周囲にいたギャラリーは歓声を上げた
あもんは助手席でロールバーを掴み叫んだ

『おぉぉぉおおお!脳ミソが置いていかれる~~』
『あはははは!あもん、おもろい事言うの~』
『あはははは』

コージは車を止めてあもんと一緒に笑った
この時のコージの無邪気な笑顔は同性ながらも魅力的であった


それからというもの
もう一人の仲間であるシビックSiRⅡに乗るカズとも一緒に遊んだ
カズは福山駅左回りが好きなちょっとナンパな奴であったが
カズも愛嬌のある笑顔をしていた
京ちゃんは同性のくせにあもんのことをあっくんと呼ぶ

『あっくん!遊ぼーや』
それを聞いたあもんはいつしか忘れていた小学校の思い出を垣間見た気がした




続く