セブンの女 1 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1993年から1994年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


“カタン,コトン,カタン,コトン,カタン,コトン”
あもんは真夜中に走る貨物列車の音で目が覚めた
寝よう、寝ようと思うほどに妄想は膨らみ
繰り返される過去の歓楽と今の悲哀があもんの頭を混乱させていたのだ
今日の出来事に過剰な感情移入をしてあの時は興奮していたが
未だに忘れていないからこの出来事は
あもんにとって人生の分岐点だったのかもしれない


あもんは海田高校を卒業し福山大学に入学をした
多くの朋が地元に残る中、あもんは遠い福山で一人暮らしを始めたのだ
“応援団のあもん”として人格を形成し多くの朋と多くのモノを創った
しかし応援団を卒業した今、“今のあもんは何者なのだ?”という疑問符が頭から離れなかった
夢がある訳じゃない、創りたいものがある訳でもない
ひとつの山を登りきった登山家は新たな山に挑むか二度と登らないかを迷うという
この時のあもんは間違いなく後者であったのだ
“ただのあもん”それがこの時のあもんの代名詞だったのだ


あもんが新たなる拠点として借りたのは魚谷アパートであった
マンションでは無くアパートであった
家賃は2万円台にもかかわらず2DKという広さであった
しかしこの広さが孤独という恐怖を導いていった
家に帰ると電気が着いていないという寂しさから始まり
“ただいま”も“いただきます”も言えない日々が繰り返された
近くに走る山陽本線の電車の音が更に孤独の恐怖を増殖させていったのだ


しかし、あもんにはアミという彼女がいた
同じ海田高校生であったアミに対し何も考えずに遠い福山へ行くと決めたあもんであったが
偶然にもアミも福山大学に入学したのである
アミもあもんの宿の近くで一人暮らしを始めた
そして自然とお互いの宿で泊り合いそこから一緒に大学に通った
学部が違うにも関わらず一緒にいた
学校が終わってもほぼ毎日一緒にいた
買い物に一緒に行き夕御飯を一緒に食べ、一緒に寝ていた
そんな生活が2ヶ月ほど続いた





ある日、アミがあもんに言った

『あっくん、話があるんじゃけど…』
『ん?どしたん?』
『あっくん、ウチらもう、つき合うのやめよ…』
『え!なんでなん!オレ、なんか悪かったんか?』
『悪いトコロがあるんなら、言ってくれや!直すけん』
『ううん、そんなところないけん…』
『オレのこと嫌いになったんか?』
『いや、そうじゃないんよ…』
『じゃったら、なんでじゃ!』

あもんは徐々に声が大きくなっていった
『他に好きな人ができたんか?そいつは誰じゃ!』
『じゃけ~そんなんじゃないんよ』

アミはあもんと目を合わさず淡々と話していた
『そんな答えじゃ納得いかんけんの!!理由を言ってくれや!理由を!!』

アミは小さな声で話し始めた

『ウチ、寂しかったんよ』
『あっくんと一緒にいても寂しかったんよ』
『なんでかは分からんけど、寂しかったんよ』
『じゃけん、ようけ考えたんよ、』
『そしたら、分かったんよ』


『あっくんのこと、好きじゃなくなったって』

『なんじゃ~そりゃぁああ~そんなん、理由になるか!』
あもんは段々とキレ始めた
『嫌いではないのに好きじゃないってなんなんや!』
『好きか嫌いかどっちかじゃろ』
『はっきりせいや!!』


『じゃけん、さっきから言っとるじゃん!』
『あっくんはウチにとって、普通の人になったんよ』


『じゃけん、その理由を言ってくれや!!』
あもんは次第に涙が流れ始めた

『そんなん、理由なんか分からん…』
『ただ、ウチは好きじゃない人とは付き合いたくないだけじゃけん』


その言葉を最後に彼女は何も言わなくなった
あもんはひとり彼女の前で泣いていた
泣いているあもんに彼女は声もかけずずっと前に座っていた
“カタン,コトン,カタン,コトン,カタン,コトン”
何度も貨物列車が通っていった


『分かった、もうええわ、帰ってくれ』
あもんのその言葉にアミは返事もせずに帰っていった


アミとの付き合いは高校2年の頃からであった
お互いが初めての体験であった
将来について語るのは恥ずかしかったが
少なくともあもんの未来予想図にはアミがいた
高校を卒業しこれから実際に描こうとした未来に
アミがまずあもんの傍から居なくなった






『オレはいったい何なのかを探しに行く!』
そんなかっこいい事を言って広島から離れたけど
目の前にあるのは孤独の恐怖だった
“カタン,コトン,カタン,コトン,カタン,コトン”
列車は今日も走っている
しかし、あもんはこの列車に乗ることができない
行き先だって決まっていない
キップを買う理由もない
線路を走る勇気もない


真夜中に走る貨物列車の音に
眠れない日々が続いた




続く