十一月二十三日、本日は新嘗祭の日です。


新嘗祭は、宮中祭祀の中でも最も古く重要な祭典です。


天皇の御本質は祭祀王であることですから、天皇陛下はこの新嘗祭を御自身で行われ祈られるのです。


最も重要な祭典ですから、実は前日から準備が始まっています。


以下、「宮中祭祀 連綿と続く天皇の祈り」よりご紹介します。


鎮魂祭 十一月二十二日


鎮魂祭は天皇陛下を始め皇后陛下、皇太子同妃両殿下の御魂を鎮祭し、御寿の万歳長久をお祈り申しあげる呪的な祭儀であり、新嘗祭の前の番に綾綺殿(りょうきでん)にて行われます。この祭儀は古く初代神武天皇の御時に物部氏の祖、宇摩志麻治命(うましまぢのみこと)が十種の神宝を以つて天皇の鎮魂をしたのをはじめとします。また律令にも「仲冬寅日鎮魂祭」と定められたものであります。中世に杜絶したものを光格天皇の寛政九年(1797)に再興され、白川伯王家で行われて来ました。昭和二年(1927)に神祇官、五年(1930)からは宮内省で行われました。これには陛下のお出ましはありません。


この日、掌典職によつて綾綺殿(近世の京の御所では小御所を祭場)に祭場を設けられ、玉体の守護神である神産日神、高御産日神、玉積産日神、生産日神、足産日神、大宮売神、御食津神、事代主神の八神と大直日神をお迎へして掌典長以下が祭儀を奉仕し、神饌を供します。ついで楽部により鎮魂歌が奏され、祝詞が奏上された後に、まづ陛下の鎮魂が行はれます。その御儀は「けーひー」の警蹕(けいひつ)とともに御所より受けた御衣(白衣一疋)箱、御玉緒が入った箱が渡御されます。掌典長は八度手を打つことを四度繰り返す八平手(やひらて)といふ大変丁重な拍手をします。その後神楽歌が奏される中、掌典が箱から御玉緒を取り出し、糸結びを十度行ひます。古代人は魂は放っておくと体から遊離して行くものと考へてゐました。しつかりと結び止めておく呪術が必要なのでした。「玉の緒」とは古語で命を表す言葉です。次に御衣の箱を開けてゆらゆらと振動の神事を十度行ふ儀があります。また内掌典が宇気槽を十回鉾で突く神事を奉仕します。終了すると警蹕とともに天
皇陛下の御箱が入御、ついで皇后陛下、皇太子殿下、同妃殿下の鎮魂が同様になされます。その後大直日歌、倭舞が奏され、祭儀は終了します。倭舞は大和地方に発生した歌曲に舞を付けた国風歌舞です。


このやうに鎮魂祭は、陛下の御霊力を鎮め、さらに振るひ立たせ、倍増する神秘的な祭儀であります。なほこの鎮魂祭にお使ひになる御衣は、皇后陛下が御養蚕所で御自ら御飼育なさつた蚕からの絹で織られた羽二重で、御祭儀のあとは陛下の御祭儀用の白衣の御小袖に仕立てられ、お召しになられる由であります。