2010年/スペイン・フランス/107分
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
出演:カルロス・アレセス、アントニオ・デ・ラ・トレ、カロリーナ・バング、他
おすすめ度(5点中) → 4.2点
――― あらすじ ―――――――
檻に入れられた猿が暴れまわる中、外では人と人とが殺し合う狂気のサーカスが繰り広げられていた。―スペイン内戦。無理やり共和国側に参加させられた“がらくたピエロ”は、ナタを振り回し国民軍を次々と残虐に殺していった。ピエロの衣装のまま… 長い月日が過ぎ、時はフランコ総統時代。“がらくたのピエロ”の息子ハビエルはサーカス団で“泣き虫ピエロ”として働き始める。そこでハビエルは個性的なキャラクターの風変わりな面々と出会う。人間砲台男、象の調教師、ケンカ好きなドッグトレーナーたち。そしてここで、ハビエルは`怒りのピエロ’ セルジオと初めて出会うのだった。 顔が醜くゆがんだ2人のピエロ、ハビエルとセルジオ。サーカス団で最も美しく残酷な美女ナタリアをめぐり、怒りと絶望、渇望に煽られた彼らの命がけの戦いが始まる― (三大映画祭週間2012の記事より)
――― 感想 ―――――――
アレックス・デ・ラ・イグレシアはとても好きな監督。この人の映画は悪戯心に満ちているけど、一見ふざけたような描写のなかにも、ちゃんとした説得力を持っているような気がします。んで今作ですが、これがまたかなり強烈な映画でしたね~。傑作です!
時はスペイン内戦時代。ハビエルの父は、ピエロの格好のまま内戦に参加しナタで人々を次々と殺していった。追いつめられ囚われの身となった父をハビエルは救おうとするが、その時の混乱で父親はなくなってしまう。そんな父親はハビエルに「お前は泣き虫ピエロになるんだ」という。
▲ハビエルの父。この姿のまま戦争に強制参加させられるも、人々をバッサバッサ殺していきます。
そして月日は流れる。
成長したハビエルは、泣き虫ピエロとしてあるサーカス団で働きはじめる。
▲泣き虫ピエロのハビエル。表情がとても悲しげです。
▲彼はここで怒りのピエロであるセルジオ(左)と出会う。
セルジオはサーカス団のメインキャラクターで子どもたちにも人気があるものの、素行が悪い。
酔うと同僚であり恋人でもあるナタリアに暴力をふるうのだった。
んでハビエルはこのナタリアに恋をしてしまうんですね~。
▲ナタリア。
セルジオに散々暴力を振るわれるけど、彼のことは愛している。ナタリはちょっとした(いやちょっとじゃないな)被虐体質なんですね。散々暴力を振られても、セルジオに抱かれている時はとても喜んでいるんです。
▲セルジオに散々いびられても、いざ身体が交わるとナタリアはこんな感じに。
そーなんです。ナタリアはエロいんですよ。もう魔性の女なんですね。
でも彼女はハビエルにも好意をもって接してくるからさぁ大変。ハビエルはムラムラきてしまうんですよ。
そしてハビエルは、だんだんとセルジオのことが憎らしくなっていくんですね~。
そしてある日ついに、ハビエルはセルジオを殴打し、彼の顔をボロボロにしてしまうんですね~。
(この直前にハビエルはセルジオに暴力を振るわれているから、そのやり返しでもある)
この暴力沙汰により、ハビエルはサーカス団から逃亡。
▲ハビエルによって顔をめちゃくちゃにされたセルジオ。
花形の役者だった怒りのピエロが、前線で活躍できなくなり、サーカス団は露頭に迷ってしまいます。
そして逃亡していたハビエルは、森に隠れて獣のような生活を送っていたが
そこをフランコ総帥おかかえの大佐に拾われるのだった。
実はこの大佐こそが、ハビエルの父親が死ぬに至った元凶。つまり大佐は父の敵でもあるんです。逆にこの大佐は昔ハビエルのせいで片目を負傷した因果から、ハビエルのことを憎んでいるんですね。
今作の背景には、こーいった当時の政治状況が色濃く映し出されています。
内戦がハビエルの心に傷を作ったんです。その傷がなければ、ハビエルの凶行はなかったはず。
▲さて、セルジオが抜けたサーカス団は、今度はナタリアを花形にキャバレーで働いていた。
一方大佐に囚われ、人間の扱いをうけていなかったハビエルだったが、ある日覚醒。
彼は自らの顔を傷つけてピエロの顔を焼きつける(アイロンで顔をじゅーっとするんです。イタイ!)。ここに泣き虫ピエロは狂気のピエロへと変身するのだった。そしてハビエルは大佐を殺害、武装した状態で街をさまよいナタリアを求め歩くのだった。
▲狂気のピエロと化したハビエル。
▲彼は必死にナタリアを追い求めます。
▲逃げるナタリア。
▲ハビエルに囚われたナタリア。しかしここにセルジオが現れるんですね~。
ちなみにこの場所は、戦死者が埋まっている場所で壁一面に骸骨が埋まっている。
これは誰かの感想を読んでいてナルホド!と思ったことなんですが
ハビエルとセルジオのナタリアをめぐる戦いは、スペイン内戦の例えと見ることもできるんですよね~。
ラストでナタリアは死んでしまうんだけど、彼女を失ったセルジオは笑い泣きし、ハビエルはむせび泣くんですよ。命を賭してまで戦っても、2人は何も手にしていないんですね。残されたのは傷だらけの己の顔だけです。今のスペインという国も、そのような傷を抱えて存在しているんだな~と思うと、なんだか辛い気持ちになりました。