こどもに伝える | つばめにのって ~肺腺癌との闘い~  番外編でチョコレート膿腫

つばめにのって ~肺腺癌との闘い~  番外編でチョコレート膿腫

2010年11月、母が肺癌宣告を受け、
ここから、これまでの恩を返す時間が始まりました。

そして2012年4月7日、母は永遠の眠りにつきました。

この経験がどこかで誰かのささえになれたらと思います。

番外編で、チョコレート膿腫のことも書いています。


時間は前後するけれど・・・


先日の最後のカンファレンスを受けて、

子供にも話さなくてはならない時がきたと思った。


母の孫にあたる私の子供・・・

私が仕事を続けていられるのも

母がずっと子供をみていてくれて

保育所の送り迎えもしてくれたおかげ。


それだけ一緒の時間が長かったので

子供はおばあちゃんが大好きだ。


子供はおばあちゃんが病気なのは知っている。

その病気が「がん」だということも知っている。


でも、どれだけ深刻な状態なのかは知らない。

2月に入って、インフルエンザが流行りだしてからは

病棟への子供の立ち入りに制限がかかったため

しばらくおばあちゃんに会っていない。


おばあちゃんは入院しているけど、

これまでの手術も抗がん剤治療も

元気になって退院してきていたから

今回もそうだと思っていた。




「おばあちゃんのお見舞いにいこう」


カンファレンスの翌日、そういって子供を車に乗せた。

これまでは病院に行ってはいけないよと言われていたのに

急にお見舞いに行こうだなんて、なんで?

そんな顔をしていた。


出発後、しばらくして・・・


「おばあちゃんの病気は何か知ってる?」


聞いてみた。


「うん、がん!」


「どこのがんか知ってる?」


「肺。」


「がんって、どんな病気か知ってる?」


「・・・・うーん・・わかんない」





「あのね、がんってね、

もともとは自分の体を作っている細胞なの。

人間の体は目にはみえないけど、

毎日新しい細胞を作って、古い細胞と入れ替えてるの。

その新しい細胞を作る時に、ちょっと信号を間違えて作っちゃうことがあって、

ちょっと信号を間違えた細胞は、

普通なら体の中の監視役が違うやつがいる!って気付いて

やっつけられてしまうのだけど、

その監視をスルッと免れて、増えちゃうと

それが、がんって呼ばれる細胞になるの。


正しい細胞は、それぞれの役目を知ってて

胃のお仕事したり、腸のお仕事したりするのに、

信号を間違えた細胞は、なにもお仕事しないの。

ただどんどん増えていく力は強いのね。

仕事をしないのに、どんどん増えるから、

体のなかで、正しい細胞がいる場所がなくなってしまう、

だからやっつけなくちゃいけない。


そのやっつけることがおばあちゃんが今まで病院でしてきた

手術だったり、強いお薬なのね。


でも、間違えた細胞も、ちょっと信号が違うだけで、

もともとはおばあちゃんの正しい細胞と一緒なのね、

だから、間違えた細胞をやっつけるお薬は

おばあちゃんの正しい細胞もやっつけてしまうことがある・・・

髪の毛がなくなったり、気分が悪かったりするのは

そのせいなの。


おばあちゃんはがんなんかに負けたくないから

痛い手術も、しんどい苦しいお薬もがんばった。

とてもとてもがんばったの。

とてもとてもがんばったけど・・・

がんの細胞はなくならなかった。


・・・おばあちゃんの病気はもうなおらないかもしれない・・・

もしかしたら、おばあちゃんは死んでしまうかもしれない・・・」



ここまで話して、涙が出てきてしまった。

できるだけ冷静に、落ち着いて説明するつもりだったのに

ぽろぽろと・・・・こぼれてしまった。


子供は少し涙目で・・・

でもじっと話を聞いていた。



「それでも、おばあちゃんはがんばってる。

 負けないよってがんばってる。

 おばあちゃんは強いね。

 強いけど、少しだけ疲れることもある・・

 今からお見舞いにいくけど、

 いつもどおりね、いつもどおりに明るい顔してね。

 ・・・・明るいっていいながら、おかあちゃんが泣いてちゃだめだね。

 涙拭かなきゃね・・・」



子供はうなずいて・・・

その日のお見舞いも含めて、これまで、ずっといつもどおり。



母の命の期限が見えることはとても悲しいことだけど・・・

このことで命の大切さを学んでほしい。


私は偉そうなことは言えない。

看護に疲れて子供にあたる事もあるし

家事の手も抜くし、慌てふためいたり、落ち込んだりする。

全然完璧じゃない。

でもそんな私をみて、全力で誰かを大事に思うこと・・・

そんなことを実感して、

何かを感じ取ってくれてたらいいと思う。