仕事柄、本人確認のために御他人様の自動車免許証を拝見させていただくことが時々あるのですが…

免許証の裏面に「臓器移植の意思表示」を記入されていらっしゃる方に、
まあまずお会いしたことがありませぬ。
(↑この、下半分のところね)


まれに、
「3.私は、臓器を提供しません。」
に、◯を書いているヒトがいて、
そのヒトに対してですら
「あなたはなんてスバらしいヒトなんだ!」と思えてしまう。
(少なくとも「臓器移植についてキチンと考えてくれている」ってことだもんね)
それくらいに、免許証の裏面に記載されているのは住所変更か氏名変更ぐらいしか見かけないのです。



平成29年度に内閣府が実施した調査によると、

自動車免許証に「臓器移植に関する意思表示欄」があることを知っている人
「50.2%」
これを「たったそれだけ?!」と思うか、
「えっ!そんなに?!」と思うか、
(僕は前者だったけれどね)
しかも、
「自動車免許証」のみならず、
「保険証の裏面」や「臓器提供意思カード」のいずれも知らなかったという人
「17.7%」
これを「たったそれだけ?!」と思うか、
「えっ!そんなに?!」と思うか、
(僕は後者だったけれどね)

そもそもが、全国の3000人を対象にアンケートを行って、約1900人からしか回答を得られなかった調査だから、果たしてこの結果が「実際と近似」であるかどうかはわからない。
(一般的には、アンケート調査は誤差を少なくするためには2000人分の母数が必要といわれています)
とはいえ、
多分、日本人の2000万人程度は、
本当に「臓器移植なんかにはまったく関心がない」のだろうし、
半数以上の日本人が「(臓器移植は)自分とは関係の無い、どこか遠い世界での出来事」だと思っているのだろう。


「自動車免許証」等に臓器提供の意思表示をしていない理由についての項目では、
「臓器提供や臓器移植に抵抗感があるから」と答えた人
「19.9%」

ということは、残りの8割の日本人は「抵抗がある」わけではないんだ。
(ちょっとムリヤリだけれど…)


日本医学の「臓器移植技術」は世界最高レベル。
しかしながら、
「人口あたりの脳死臓器提供率」は先進国中で最下位。
「キリスト教」系の欧米諸国で実施率が高いのは納得される方も多いだろうけれど、
死者復活の教義から、死体に傷をつけることを好まない「イスラム教」国家である「イラン」や、
「死体を傷つけてはならない」という儒教の考えから、つい最近まで「土葬」(火葬も死体を破損することになる)が主流だった「韓国」とか、
そういった国々でさえ、日本と比べたら10倍以上の「臓器提供率」なのだ。

実はこれら「高率国」と「日本」とでは、「移植の制度」が異なるらしい。

日本では、
「臓器提供をしても良い」という意思を確認できた場合にのみドナー提供を行う「オプティング・イン」
の考えを採用していて、

臓器提供高率国では、
「臓器提供をしないという意思表示」をしない限りはドナー提供を行う「オプティング・アウト」
という考え方を採っている。

僕は「制度のあり方」として、よりドナー側の意思を大切にしている我が国の手法を尊重したいのだけれど、
こんなにも「実施率」に差がでるのであれば、
そしてその理由が人々の無関心に起因しているのであれば、
「オプティング・アウト」の導入検討も必要なのではないかとも思う。


日本の人口は、韓国の人口の約2.5倍

肺移植には、
一人のドナーの肺を一人のレシピエントで使用する「両肺移植」と、
一人のドナーの肺を二人のレシピエントで使用する「片肺移植」と、
があって、単純比較はできないのだけれど、

仮に、2016年韓国で実施された肺移植件数89件を2.5倍してみると、
「223件」
同じ2016年に日本国内で実施された肺移植件数49件の実に4.6倍となる。


我が国における「肺移植待機患者(レシピエント)数」は、
2016年:309人
2017年:349人
2018年:353人

毎年の「肺移植実施件数」は、
2016年度:59人
2017年度:57人
2018年度:60人

年と年度の違いはあるけれど、
つまり、毎年250~300人くらいのレシピエントが「待機」となっている、
ということがわかる。

これが、韓国と同レベルの実施率となればどうだろう。
2016年の日本における肺移植実施件数が223件だったのであれば、
同年の待機者数は309人だったのだから、
この年に「待機」となるレシピエントは86人。翌年、新たに追加されるレシピエントが50人程度だとすると、残りあわせて136人。

つまり、我が国の待機レシピエントは、2年でクリアできる計算となる。

肺移植を受けるためには、
実際には血液型だとか、体格差だとか、様々な要件があって、そう簡単には「マッチ」しないのだけれど、

それでも、
計算どおりにはならないにせよ、
現状の待機日数は確実に短縮されるだろうし、「移植が間に合わなかった」という悲しい事例も激減することだろう。

待機レシピエントが減るのであれば、年齢用件や移植要件とかで「レシピエントにすらなれないでいる患者」だって救済されるかもしれない。


ところで、
年末恒例の「赤い羽根共同募金」
バブル期直後をピークに、
募金額はひたすら「右肩下がり」なのだそうな。
経済的余裕とか、いろいろと理由はあるのだろうけれど、
人々の「ココロの余裕」が「右肩下がり」ということはないだろうか?

でもさ、
東日本震災とか、西日本豪雨とか、今年の相次いだ台風被害とか、
その度に多くの募金が集まり、大勢のボランティアが集まった。
みんなが「なんとかしなきゃ!」って思った。
だから、まだまだ大丈夫だよね。



今年(2019年)の肺移植件数は11月末の時点で既に70件。
昨年度と比べて、確実に増加している背景には「脳死移植制度に対する理解の拡がり」があるのだと思いたい。

前述した、
「脳死臓器移植に抵抗があるわけではない」8割の日本人が、もっと「身近なことだ」と認識してくれたら、
「臓器移植に抵抗感がある」2割の日本人が、正しい知識を持ってくれたら、

11月末現在、
379人の肺移植待機患者の命を、
全臓器での待機患者ならば14,006人の命を、
救うことができるのです。

あなたが気づかずに過ごしている中で、
今日も臓器提供が間に合わず、亡くなっていくレシピエントがいるのです。

どうか「見殺し」にはしないで欲しい。

僕は「日本人の善意」を信じています。