ぶなしめじのセシウム濃度とリスクの考え方 | 三浦半島における放射線情報 (tokokのブログ)

三浦半島における放射線情報 (tokokのブログ)

横須賀を中心とした三浦半島における放射能汚染状況を話題したブログです。3月に起きた原発事故以降、ひたすら環境放射線の計測を続けています。三浦半島だけに限るなら、公園・幼稚園の空間線量、土壌放射能、農作物など、誰よりも手広く測定を行っているかも。

 鍋の季節を前にして、横須賀市内のスーパー長野県産ぶなしめじ12パック(約1.2 kg)を購入しました。
( 今年2月に測定したときは1パックしか買わなかったので、検出下限値がやや高めの不検出→ リンク )



 農林水産省による、キノコの菌床用培地の指標値が今年の4月1日から施行され、そろそろ普段食べている菌床栽培のキノコがどうなっているのか調べてみようかと思っていたところ。

 なお菌床用培地の指標は、放射性セシウム濃度で最大200 Bq/kgとなっています。これは「乾燥菌床培地から生シイタケ
への移行係数が0.5 であり、これ以下であれば一般食品の基準値(100 Bq/kg)を越えることはないだろう」ということを基に定められたものです →リンク
(ぶなしめじの菌床培地はおがくずと米糠・ふすまなどの栄養材で、菌床シイタケよりも移行係数が低いことが分かっている)

-- 事故以前のぶなしめじのセシウム濃度


 測定結果を見る前に、事故前はどの程度の汚染状況だったのかまとめてみます。出典は
坂内らの論文です→ こちら

 この報告によれば、2000年10月~12月に市場に出回っていたぶなしめじ(新潟産2品、長野産3品)の放射能濃度は、
 セシウム137 平均 0.09 Bq/kg
 カリウム40  平均 100 Bq/kg (5品の標準偏差 12 Bq/kg)
でした。いずれも生試料に対する放射能濃度です。
(セシウム137については、その濃度分布の傾向から幾何平均を取っている)

 また、ぶなしめじの年間摂取量は0.68 kg ですので、事故前のぶなしめじを食すことで取り込む放射性カリウム・セシウムの量は、セシウム137が年間 0.06 Bq、カリウム40が年間 68 Bqであることが分かります。

 
以上の結果から、ぶなしめじを1年間摂取することによる成人の内部被ばく線量を計算すると、
 セシウム137による内部被ばく  0.0012 μSv
 カリウム40による内部被ばく    0.42 μSv
となります。 

 なお、この計算にはICRP Pub.72の実効線量換算係数を用いていますが、この係数には消化管から放射性物質がどのように取り込まれ、どこの組織・器官にどの程度の期間留まり、どのような経路で排泄されるか等が考慮されています。そして放射性物質が体内に存在する期間に放出される放射線(ベータ線とガンマ線)による被ばく線量(Sv)を、その摂取量(Bq)から見積もることができます。

 したがって、
事故以前のぶなしめじを食べることでも放射性物質の取り込みによる発がんのリスクがゼロであったわけではなく
 0.42 μSv(放射性カリウム)+0.0012 μSv(放射性セシウム)
のリスク(成人:1年間摂取)があったと理解することが重要」かと思います。
そう考えると、放射性セシウムの有無は、カリウム40のサンプル毎の濃度バラつき(10%程度)の範囲内であると言えそうです。

-- ぶなしめじのセシウム濃度(測定結果)

 前置きが長くなりましたが、ぶなしめじ12パック分の測定結果です。試料を風乾した後、105度の定温乾燥器で乾燥させ粉砕したものです。乾物重量比は9.323%でした。124.6g 分を容器に封入してGe半導体検出器で58時間測定しました。




その結果、
 セシウム134:  0.47±0.07 Bq/kg(生)
 セシウム137:  1.16±0.12 Bq/kg(生)
と求まりました。検出限界値は両核種ともに約 0.3 Bq/kg(生) です。

微量の検出となりましたが、一般食品の基準値(100 Bq/kg)を下回る量です。セシウム134が検出されているので、この分は事故の影響、また、同位体比を考えるとセシウム137も 0.8 Bq/kg 程度は事故由来。というわけで、事故以前よりも若干ですが放射性セシウムの濃度が増えていることになります。

 行政による検査結果を見てみると、京都市の流通品検査で5月7日に長野県産シメジから Cs-134:0.6 Bq/kg、Cs-137:0.76 Bq/kg という結果がありますので、このくらいが長野県産のブナシメジの濃度なのかもしれません。
(ちなみに栃木県産のぶなしめじはもう少し高め)


-- 現在のぶなしめじ を食したときのリスクは?


 ぶなしめじに含まれるカリウム40の量が事故以前と変わらないものと仮定して、今回測定したぶなしめじを1年間食した際に取り込む放射性カリウム・放射性セシウムの量は、
 セシウム137: 年間 0.79 Bq、
 セシウム134: 年間 0.32 Bq 
 カリウム 40: 年間 68 Bq
であることが分かります。
これから、年齢別の実効線量換算係数を用いて、各年齢階層における内部被ばく線量を見積もると以下の様になります。

  1~ 2歳 2.9 μSv(カリウム40)+0.015 μSv(放射性セシウム)
  2~ 7歳 1.4 μSv(カリウム40)+0.011 μSv(放射性セシウム)
  7~12歳 0.89 μSv(カリウム40)+0.012 μSv(放射性セシウム)
 12~17歳 0.52 μSv(カリウム40)+0.016 μSv(放射性セシウム)
 17歳以上 0.42 μSv(カリウム40)+0.016 μSv(放射性セシウム)

 というわけで、確かに事故以前よりも放射性セシウムの濃度は増えていますが、放射性物質の内部被ばくのリスクとしては、どの年齢階層においてもカリウム40の濃度変動(10%程度)に埋もれてしまう程度のものです。
 
 以上、長野県産のぶなしめじ(菌床)を食べる際のリスクについて長々と書き込んでしまいました。きのこ摂取によるリスクについて考える際に役立てば幸いです。
 もちろん、それでも放射性セシウムの摂取は少しでも避けたいとお考えの方は、無理してきのこを食べる必要はないかと思います。リスクに対する考え方は人それぞれだと思いますので。