今、皮が剥けた状態の玉ねぎが目の前にある。
皮の内側にあった「玉ねぎ」は思いの他につややかで、
生まれたばかりの甥っ子のように初々しい。

しかし剥けた皮が挑戦的に私を見ている。
私は硬くなった皮を脱ぎ捨てているが、お前の方はどうなんだいと。
私は言う。
「ふざけるんじゃない。玉ねぎのくせに。社会の歯車にもなることができないお前に何がわかる。」

玉ねぎは相変わらず挑戦的に皮を剥いたまま私を見ている。
「玉ねぎか人間かがそんなに大事かい?ではあり得ない前提かもしれないけども、仮にお前が玉ねぎになったとしよう、明日から。その時、君は皮を剥けるとここで誓うことができるかい。」

私は言い返す。
「できないはずないじゃないか。誓ってやるとも、今ここで。神道だから多神教であるけども、ここの氏神様に誓って剥いてやる。」
「じゃあ、なぜ今できない。」

私は、台所に呆然と立ち尽くしてしまった。
確かに玉ねぎのいう通りだ。なぜ、私は今できない。

そう思うのが早いか、私は全身の衣類を脱ぎ捨てて全裸になって料理を始めた。
あぁ、やってやるともさ。やれないことはないはずだ。
私は天高くお玉を突き上げて、お玉の先から玉ねぎを鍋に落とし込んだ。
今日のレシピはカレーだった。

カレーの汁が跳ね上がり、私は「熱っ」と叫ぶのだった。

20131117ドトール

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