難波潟 短き葦のふしのまも
あはでこの世を すぐしてよとや
                    伊勢
 
難波潟に生えている葦の、節の間みたいな短い間も
あなたにお会いできないのですね。
会えないままで、この世を過ごして行けとおっしゃるのでしょうか。
 
第18首から、19、20と難波の歌が続きます。
つれない男への恋しさの募る恨み言という点も
前の歌と同じですが、第18首が男性の想像なのに対して、
この第19首は、女性の詠んだ、生の女性の声です。
「伊勢」というのは、父親の藤原継蔭の役職「伊勢守(いせのかみ)」から
とって、そう呼ばれるようになりました。
いわゆるあだ名ですね。
伊勢は宇多天皇の中宮“温子”に仕える女房でした。
温子の兄、藤原仲平の恋人でもありましたが、
破局から傷心の日々を過ごしているところ、
宇多天皇に見初められ、皇子を生んでいます。
残念ながら、その皇子は幼くしてなくなってしまいますが、
天皇の退位後に、息子の敦道親王と結婚し、
生まれた娘の中務は、母と同じく三十六歌仙に選ばれています。
 
伊勢は、多情、多恨の女でした。
上記のほかにも、平貞文、藤原時平など、艶聞が絶えません。
その中でも、もっとも愛したのは、初恋の人藤原仲平でしょう。
この歌は、仲平の別れの手紙への返歌だといわれています。
男の薄情を責める歌。
葦の節の間のような短い間さえ会ってくれない。
語調はきついけれども、そこには女心の切なさ、
悲しみでいっぱいの胸の内がにじみます。
 
初めての恋愛だけに、伊勢は一途で純情だったのでしょう。
けれども伊勢の悲しさも、可愛さも、
理解し得るのは、同性なればこそ・・・。
仲平には重く、どこか恐怖も感じていたことでしょう。
女の純情を味わうのと、女の怖さを味わうのは
多くの場合、セットで神様から贈られます。
男性は、お気をつけられたし!ですよね。
 
YouTube みかりんの古典入門・百人一首其十九