DAIKIN 空気清浄機フラッシュストリーマ光クリエールACM65TG-W
¥39,799
Amazon.co.jp


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


誰もがその光景に言葉を失ってしまった。


 スルスルスルスル


 ゴム製のキャタピラであろうか土埃をたてることなくそれは静かに突き進んでいた。


「ねえ、あれ何?」


 仕事帰りのOLらしき二人組みの片割れがもう片方に小声で囁く。


「し、知らないわよ。でもどっかで見たような……。あっ!」


「なになに?」


「ほら、この間、ヨドカメに一緒に行ったじゃない?」


「ええ、あんたの今度の彼氏がタバコを吸うから……。あっ!」


 二人は顔を見合わせて……


『空気清浄機だ!』


 同時に叫んだ。


 そう、それは確かに『空気清浄機』であった。


「で、でも……。あれ、スピーカーだよね」


「うん、……たぶん」


 空気清浄機が街中を闊歩しているだけでも十分非常識なのだが、なぜかその空気清浄機の両脇には見るからに高性能そうなスピーカーがしっかりと取り付けられていたのだ。


 スルスルスルスル


 そんな周りの様子を無視して空気清浄機は進み続け、やがてそれは大型チェーンのカフェへと入っていった。


「いらっしゃ……ませ?」


 出迎えたウェイトレスが突然入ってきた空気清浄機とその後に続く大量の客に声を上ずらせる。


 誰もがこの以上の状況を確かめずにはいられなかったのだ。


 まるで何かを探すかのように店内をうろつく空気清浄機、だがやがてそれは一組のカップルのテーブルの前で停止した。


 重苦しい雰囲気の佇むそのテーブル、どうやら別れ話の真っ最中らしかった。


 ♪♪♪~♪


 空気清浄機のスピーカーから柔らかい音楽が流れ、本来なら吸い込むはずの吸気口からアロマオイルを含んだ優しい香りが漂う。さらに正面のパネルには美しく雄大な景色やかわいらしい花畑などどこか心を和ませる映像が絶妙なタイミングで映し出されていた。


 すると興奮していたそのテーブルの破局したカップルは落ち着きを取り戻し別れ話は修羅場を乗り切ってしまったのだ。


 さらにその空気清浄機は店内を回り、駄々をこねている子供や仕事でミスをして落ち込んでいるサラリーマンのテーブルを回り同様の手口で宥めたり勇気付けたりして回ったのだ。


 ピー、ピー、ピー


 スルスルスルスル


 突然電子音が鳴り空気清浄機が店の外へと出て行く。


 当然のように人々は長い行列を作りその後を追いかけていった。


 やがて住宅街に入り、空気清浄機は一軒の家に辿り着く。そしてその家の門には『天乃原研究所』 という木製の看板が掲げられていた。


 空気清浄機の帰宅に気付き一人の男が玄関から出てきた。


 この男が『天乃原研究所』の所長である天乃原不動(あまのはらふどう)だ。


「なんだ、君達は?」


 不動が鬱陶しそうに行列を見る。


「あの~。こ、これはいったい?」


 あのOLが不動に問い詰める。


「何って、貴様、いい歳をして空気清浄機も知らんのか?」


「空気清浄機は知っているわ! なぜ空気清浄機が街中を歩いて喫茶店で別れ話を仲裁(?)したり、子供をあやしたりしているのかって聞いているのよ!」


「ほう、喫茶店か。なかなか目の付け所がいいな。ちゃんと使命を果たしているようだな」


 満足げに肯く不動。


「ちょっと、無視しないでよ!」


 ヒステリックな声を上げるOLに不動が大きく溜息をつく。


「ふう~、なんだ、貴様、そんなこともわからんのか? ならばこちらからも問おう。空気清浄機の役割とはなんだ?」


「そ、それは……汚れた空気を綺麗にする……こと?」


 あまりにも堂々とした不動の態度にそんな当たり前の答えさえ不安になるOL。


「わかっているではないか。こやつのおかげでその荒れていたり、棘棘していたり、暗く沈んだその場の空気が浄化されたのであろう。ならば空気清浄機としてなんら問題あるまい」


「いや、『その場の空気』って言うのはものの喩えで……」


「何を言っている!」


 不動が激高する。


「喩えであろうと何であろうと空気と名の付く以上、空気清浄機にはそれを浄化する権利がある。他人に決められた枠の中でしか仕事を果たせない空気清浄機の悲しみが貴様にはわからんのか! だからわしはこやつの向上心を満たすための機能をつけてやったのだ」


 ピー、ピー、ピー


『博士、バッテリーとアロマオイルの補充をお願いします』


 空気清浄機が悲しげな音楽とともに不動に訴えてくる。


「おお、そうだな。今すぐ補充してやる。存分に自らの使命を果たしてくるが良い」


 不動がアロマオイルのカセットとバッテリーを取り替えると空気清浄機は再び『空気』を浄化するために旅立っていった。



 2019年8月30日


 マッドサイエンティスト天乃原不動の向上心に対する理解により、空気清浄機は初めて自らの枠を乗り越える力を手に入れた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


はい、天乃原不動、またまた登場です。


一家に一台、あったら便利ですよ。


◎関連作品

 『ああ、マッドサイエンティスト』

『ああ、マッドサイエンティスト~その2~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その3~』

『ああ、マッドサイエンティスト~その4~』

 『ああ、マッドサイエンティスト~その5~』

 『ああ、マッドサイエンティスト~その6~』

 『ああ、マッドサイエンティスト~その7~』

 『ああ、マッドサイエンティスト~その8~』
 『ああ、マッドサイエンティスト~その9~』

 『ああ、マッドサイエンティスト~その10~』

 『ああ、マッドサイエンティスト~その11~』