カゲロウプロジェクト想像小説。透明アンサー。 その2。 | 墜落症候群

墜落症候群

墜ちていくというのは、とても怖くて暗いことのはずなのに、どこか愉しい。

 翌日。良く分からないが隣の席から視線を感じる。

 俺はこれまで特に意識した事はなかったのだが、俺は教室の窓際かつ最後尾の席だ。そしてその隣は昨日何故か絡んできたカガリの席だった。

 昨日の印象から言って、カガリは積極的に関わり合いになりたい人種ではない。というか、打ち明けてしまえば人付き合いは苦手だ。対応の正解がないから。

 俺はカガリの熱視線をうまく躱しつつ、授業を聞くでもなく聞いていたが(中学校のテキストは入学から10日で、3年分終わらせたので)、放課後になると遂にカガリは物理的な行動に訴えでた。

「ねえ!」

 俺の机をバン、と叩くカガリ。俺はそれを気に留めず、机の中身を鞄に入れると、鞄の口を閉めた。

「ねえ、女の子が見ているっていうのに、何で露骨に目を逸らし続けるワケ?!」

 そこまで露骨に見えたか。俺はあくまでさり気なくやっていたつもりだったのだが。これだから対人関係というのは。

 俺が立ち上がり、昨日と同じく家に帰ろうとすると、昨日と同じようにカガリが俺の腕を掴んだのだった。

「……ちょっとこれを見て」

 見てというので見た。それは昨日返却されたカガリの期末考査のテスト用紙だった。

「国語。カガリ。56点」

 ついでに読んでみた。

「何で音読するの?!」

 頭を殴られた。軽くではあったが。俺は世の理不尽さにため息を吐いた。


 その後、俺の机の上にはカガリの期末考査のテストが次々と並べられた。どれも俺には取る事が不可能な点数であり、平均点は50点に満たないだろう。

 特に数学のテストは限りなく0に近い点数を示しており、その付けられたペケに込められた荒々しさは、0点を突き抜けてマイナスに至ろうというかという程の勢いであった。担当教師も怒り心頭で採点したと見える。

「これは何だ」

「私の期末考査のテスト用紙」

「それは見れば分かる」

「じゃあなに?」

「俺が聞きたいんだが……。これは何なんだ? 俺に桁の低いテストを見せたかったのか? 俺は100点しか取った事がないから、親切にもバラエティのある点数が付けられたテスト用紙を見せたかったのか?

 カガリ……大変勉強になった。確かに人間は100点以外の点数も取る事が出来るんだな……。

 帰って良いか?」

「どうやら殴られたりないようね……」

 ウィットの効いたジョークのつもりだったのだが。これだから人間関係は難しいね、やれやれ。

「それじゃあ、いい加減に本題に移れ。俺に何の用だ」

「わ、私の……」

 俺の突然の切り返しに戸惑ったのか、カガリはどもった後、数秒沈黙して呼吸を貯めた後、

「私の家庭教師になってくれない?!」

 叫んだ。

 何も叫ばなくても良いだろうに。おかげでまだ下校していない生徒の視線を彼女と俺は一身に浴びていた。

 もしカガリの依頼が「周囲の視線を釘付けにしたいの!」だったとしたら、たった今依頼は達成した事になるな、とくだらない事を俺は考え、ため息をひとつ吐いたのだった。


 流石にあの状況で、俺も教室にあれ以上残りたいとは想えず、カガリも赤面して黙り込み、埒が明かないのでカガリに大体の住所を聞くと、俺の家と方向がどうやら同じだったので、俺は道すがら彼女の話を聞く事にした。

透明アンサー。その3。


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