~『お前の隣が俺じゃなくてどーするんだよ』
『俺、今、すげー幸せ』
『よそ見しないで俺の事だけ見てろよ?ま、よそ見なんてさせねぇけど?』
『ずっと一緒にいような.....○○....愛してる』~
今までの悠月さんの表情や言葉を、後から後から思い出してしまう。
そしてあの夕暮れの海、握った手の温かさ。
悠月さんの香り、感触。
すべて私の手の中に残っているのに。
(悠月さん、悠月さん、ずっと一緒にいるって言ったよね....?........神様、どうか悠月さんを連れて行かないで下さい.....お願いだから、連れて行かないで.....この先何も望まないから、どうか悠月さんを死なせないで)
後から後から涙が溢れてとまらない。
洗面台の上に私の涙がボタボタ落ちている。
さっきから最悪のことしか考えられない私。
この手から悠月さんのぬくもりが消えてしまう事ばかり......こんなんじゃダメってわかってるのに。
その時、すぐそばから私を呼ぶ声が聞こえた。
「○○ー?......○○?!こんなとこにいた!ちょっと.....大丈夫...っ」
風子だった。
編集長に悠月さんのことを聞いて駆けつけてくれたらしい。
私のボロボロの泣き顔を見て、思わず彼女は口を閉ざす。
そして、顔を歪ませると、私を抱きしめてくれた。
「○○.....私もついてるから。大丈夫だよ、悠月さん生命力あるから。あんたがいるんだからすぐに元気になるって」
風子のその元気が今はありがたくて、泣きはらした目で私はやっと少し笑う事ができた。
「あーあ、もうヒドイ顔。あのね、メイク道具とか着替えとか持って来たから。○○のことだから泊まり込むかもって思ってさ。まずはそのヒドイ顔、どーにかしなさい?悠月さんに嫌われるよ!」
「風子.....ありがとう.....そうだよね、ちゃんとしてなきゃ笑われるよね」
「そうそう、それでこそ○○!」
私は泣きはらした目を水で冷やして、風子に手伝ってもらいながらメイクを直すと、みんながいるところへ戻った。
_____
数日して、事故を聞き付けた報道陣が病院に押し掛ける騒ぎになっていた。
皐月さんはそれに対処するために出て行った。
(外はすごい騒ぎになってるんだろうな.....)
まだ悠月さんは集中治療室にいて誰も会う事が出来ない。
どんな状態でもいいから早く悠月さんに会いたい......
いつもそばにいるよって、手を握っててあげたい。
今の私には祈る事くらいしかできなくて、でも、祈らずにはいられない。
それは皐月さんたちだって同じ。
仕事がある人は交代交代で病院に来る事になったらしい。
今は未来くんがそばについててくれた。
「○○ちゃん?ノド渇いてない?これ、よかったら」
そういってカフェオレの缶を差し出してくれる。
その心遣いが嬉しくて。
本当にみんなが気を使ってくれて、心が温かくなる。
「ありがと、未来君」
「こんなことお安い御用だよ。ああっ、また○○ちゃん、ウルってる?もう.....そんな顔してちゃ、ゆづくんが起きた時びっくりしちゃうよ?」
「あはは、同じこと風子にも言われちゃった」
そう言って泣き笑いの顔を見せて、更に私は続ける。
「なんかね、本当にこんな状況で、みなさんによくしてもらって、嬉しくてありがたいなぁってすごく思うの。それに、こんな風にみんなが悠月さんのこと考えていろいろ動いてくれてて....ほんと愛されてるよね,悠月さんて」
「○○ちゃん.....ゆづくんは元からみんなに好かれてたけど、○○ちゃんと付き合うようになって、少しずつ変わってって、もっと応援したくなったっていうところ、あるんだよ?」
「悠月さんが少し変わった?」
未来君は優しい笑顔でうなずく。
「ゆづくんは元から俺様だけど、○○ちゃんと付き合う少し前くらいから、なんか素直に自分のことを出せるようになっていったみたいでさ。いいカッコばっかじゃなくて、ちゃんと素のゆづくんをいつでも出せるようになってって、きっとそれは○○ちゃんが引き出したんだろうなぁってみんなで言ってたんだ」
「......ふふ、悠月さんて愛されキャラだよね」
するとふふっと未来君も笑う。
そこに皐月さんがやってくると、頬笑み合ってる私達を見て笑顔になる。
「二人ともどうしたんですか?△△さんの久しぶりの笑顔が見れてなんだかホッとしますね.....」
「あ、皐月さん、報道陣はどうだった?」と未来君。
「なんとかな.....心配するような事はないよ」
そこへ担当医が姿を現した。
(つづく)