【夢小説/眠らぬ街のシンデレラ】Eyes on me②(國府田千早)
inspired by Superfly「Eyes on me」
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「失礼します」
顔を出したのは、ゲストの都筑瞳子本人で、千早さんを見つけるや否やニッコリと笑って部屋に入ってきた。
「今日、ご一緒させていただく都筑瞳子です。國府田くん、久しぶり」
「瞳子.....」
彼女の名前を呼んだ千早さんは、懐かしそうな顔をしながら握手をした。
都筑先生はテレビでみるよりも、もっときれいで、その柔らかい雰囲気が安心感を感じさせて、どんな人をも惹き付けてしまうんだろう。
着ている服装も洗練されていて、女性から見ても憧れるタイプの人だった。
(この人が都筑瞳子.....やっぱり本物はすっごくキレイ.....っていうか、千早さんは都筑先生を瞳子って呼ぶんだ....)
「久しぶりよね。あれから.....もう7年ぶり?」
「ああ......久しぶりだな。キミはずいぶん活躍してるみたいだね?」
「そんなことないわよ。國府田くんこそ、テレビでよく見るわ」
すると彼女は私に向き直ってまたニコッと笑う。
セミロングの柔らかそうな髪が私の方へ振り向くと揺れた。
「はじめまして。私、医師の都筑瞳子と申します。國府田先生とは同級生で....」
「あ、存じ上げております!先生の出演される番組ももちろん見てますし....」
「あら。それは光栄だわ。それであなたは?」
「あ!失礼しました。今回の國府田先生の本を出させていただく出版社のものです。△△と申します」
そういって私は彼女と挨拶をかわした。
千早さんがかつて愛した.....女性と。
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都筑先生と挨拶をしたあと、どうやって会見場まで来たのか、あまり覚えていない。
気付くと私はボーっと記者席の椅子に座っていた。
見るとマスコミの数がさっきよりもずいぶん増えている。
都筑瞳子が千早さんのイベントゲストということで、彼女に興味のあるマスコミもやってきているらしい。
すぐそばから記者たちの小声が聞こえた。
「都筑瞳子と國府田千早は同じ医大の同級生だそうだ」
「彼女は学内でもマドンナ的存在だったみたいじゃないか」
「國府田先生もモテてたらしいからな、あの二人、つきあってたりしてないのか?」
「いや、とある筋から聞いたところによると恋人同士だったらしい」
興味本位だけで語られる千早さんの過去。
なんだかいたたまれない気持ちになった。
すると隣に人が座る気配がする。
見ると、それは廣瀬さんだった。
「よぉ」
「あ.....廣瀬さん。今日、イベントゲストでしたっけ?」
「まぁな。あれ?お前、なんだよ、ずいぶん冴えない顔してんじゃないのよ。千早さんの本が出るってのに」
弱いとこをつかれてしまった。
「なに、しょげてんだ?」
私はさっきの千早さんの控え室でのことを話した。
元カノである都筑瞳子が今回ゲストで来てる事、二人の雰囲気がとてもいい感じだった事。
二人の間に流れる空気感に圧倒された事や、今でも彼女を見つめる千早さんの目は優しくて....そんなことさえ、なんだかモヤモヤして。
「まぁ、いろいろと感じるところがありまして。疲れるとロクなこと考えないなって。私もこれでも大変なんですよ」
「大変って.....つまり、お前は都筑瞳子に嫉妬してだけだろ?焼け木杭に火がつかねーかって」
そう言って私をチラっと見て廣瀬さんは言う。
なにも言えないでいる私に、ニヤッと彼が微かに笑う。
「図星か.......お前ね、千早さんはお前だからつきあってるんじゃねーのか?」
「私だから.....?」
「そうそう、失敗したりいつもアタフタしたりして仕事頑張ってる前向きなお前をだよ。ゴージャスな見た目じゃねぇが、一緒にいると楽しいからだろ?千早さん、いつもそう言ってるぜ」
「でも.....都筑先生を見てるとレベルが違うっていうか、きっと彼女なら話もあうんだろうなぁって.....すごく釣り合ってるっていうか、医者同士、住む世界も似てるわけだし、元カノ、だし」
「お前ねぇ.....」
呆れたような声で廣瀬さんが私の顔を覗き込む。
「そうやって見た目と聞きかじったことだけで判断しようとするな。これだから頭で仕事する癖がついてるやつは....」
ブツブツと何か言いながら、廣瀬さんはポケットから何かを取り出して、私に押し付ける。
「な、なんですか、これ?」
「キャンディかなんかだろ。さっきこのイベント関係者にもらったんだが、俺は食わないし、お前は糖分でも取って頭休めとけ」
「はぁ....なんか廣瀬さんとキャンディなんて、ものすごくミスマッチですね」
「ははっ、かもな」
私はもらったキャンディの包みを見ながら言う。
それは女性向けのラッピングでビタミンCやら美容にいいものが入ってる商品らしい。
(廣瀬さんがこんなの持ってるの、ほんと似合わない....)
改めて、廣瀬さんとのミスマッチに思わず笑みがもれた。
「なーに笑ってるんだよ、コイツ」
そう言って廣瀬さんは私の頭をこづく。
「あっ、すみません、つい....」
「やっと笑ったな.......お前さ、あんまり笑顔が少ないと千早さんが心配するぜ?」
「あ......」
「まったく。お前に必要なのは、頭で考える事じゃなくて、ここで感じる事だ」
廣瀬さんは「ここ」と心臓のあたりをポンポンと叩いて言う。
「頭で考えてもわかんないもんはわかんないの。腑に落ちるってよくいうだろ?元カノのことなんて忘れろよ。お前が好きなのは誰なんだよ?まったく。自分の気持ちを大事にしろ」
言い返せないでボケっとしている私をニヤニヤして見ながら、私の頭をポンポンと叩いて廣瀬さんは立ち上がる。
「悪い。そろそろ俺も行くわ」
「あ、わざわざありがとうございます。キャンディ、後でいただきますね」
「そんなもんより、直接、千早さんに会って、存分に甘えさせてもらった方が一番効き目がありそうだけどな。ま、話し相手が欲しければ、いつでも相手になるぜ?」
廣瀬さんはニヤッと笑いながら手を振って席を立った。
そんなにしょげてみえたのかな、私。
いつもカジノでは廣瀬さんにからかわれてばかりで、あんまりまともに話なんかしたことないのに。
その時、イベント開催を告げるアナウンスが聞こえた。
(つづく)