高知ライブレポート5完結編 | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

 最後の高知レポートでは意外な結末が待っている。
 大仕事を終え、最高の満足感を胸に盗賊スタジオへ帰った。もちろんそこにはユキジイ特製のマクロビオティック料理がまっている。繊細な味つけといい、豊富なバリエーションといい、すばらしい愛情料理だ。盗賊さんのまわりには一芸に秀でた強者たちが集まる。ひとりひとりが深い思いやりをもち、しかも相手を縛らない自由な雰囲気に満ちている。
 そんな至福の時間を破壊したのはまたYだった。
 みんなが外のテラスにキャンドルを灯し、なごやかに歓談していると、Yがわりこんでくる。
「悪いものがこっちにむかってる。あんたら殺しにくるんよ。早くはいれ」
 またYかよと、みんなうんざり顔で答えた。ヤオさんが言う。
「おれたちはもう少しここにいたいから、なかに入りたいんなら自分で入れば」
 Yの瞳孔は開き、口の端に乾いたよだれのあとをつけ、ぼさぼさの頭でにらみつける。
「あたしはあんたらを守らなくちゃならないの。あんたらを殺そうとする者をあたしが殺してやる」
 本当に殺人とか犯しそうなほどの迫力だったという。
 しかたなくみんななかにはいり、ヤオ&リエ&盗賊という夢の共演がはじまる。ジャンベという共通言語をとおして濃密な会話が交わされる。緻密で大胆で心地よいリズムにみんなが酔いしれていると、Yがやってきて仁王立ちする。
 「そっちいっちゃだめ」、「それは悪い方向」などと、彼らの音に口出しするのだ。しまいには例のチベタン・ベルを叩き出し、一期一会のセッションを妨害する。
 オレは毎朝仏壇を開けるとき、毎夕仏壇を閉めるとき、友人の大介がチベットで買ってきてくれた同じチベタン・ベルをチーンと鳴らし、死んだ両親たちに祈るのが習慣だ。この音を聞くと心が安まり、神聖な気持ちになる。ところがYはそのベルを憎しみとエゴとこめて乱打する。ばちは使い物にならないほどささくれ、ボロボロになっている。Yがベルを叩くたび、死んだ両親が傷つけられているようで胸が張り裂けそうになる。

 ヘンプギャザリングでコラボレーションしたストリート書道家ハマジのパフォーマンスがはじまった。
 ヘッドホーンをつけたハマジが正面に座り、半紙と筆をはさんだ向かい側に客が座る。ハマジが顔をあげ、すべてを見通すように澄んだ目で約5秒ほど客を見る。火花のようなインスピレーションで、今その人に必要な言葉を一気に書き上げる。
 文字の勢いも美しいが言葉の内容には驚かせられた。たとえばオレにはこんな言葉が贈られる。
0510はまじの字
 A4のスキャナーからはみだしたが、「アキラの弱い部分も、見せてあげて。苦しいを伝える。楽しいを伝える。アキラを伝える。それで良い。」と書いてある。
 さっそくハマジの言葉に影響され、今回の高知ライブレポートは自分の苦しみも包み隠さず書いている。ライブスタッフもつぎつぎに痛いところをつかれ涙を流している。しかも本人の意識しない部分をつきながら、大きな包容力で包みこむやさしさがある。なんせギャグの塊である救急隊員盗賊さんを泣かせたのだからハマジの透視能力は天才である。
 むむ、くやしいぞハマジ。オレだって書道家の意地がある。
 いざ、リベンジ!
 ひととおりみんなが終わったあと、オレがハマジの席に座り、ハマジがオレの客になる。ハマジの動きを完璧にまねて、しかし左利きのオレはむっちゃ汚い字でこう書いた。
「はまじは、はまじのままでいい」
 みんなから爆笑が起こり、盗賊さんが「その手があったか」としきりに感心している。
0510はまじリベンジ
 がっはっは、ざまあみたかハマジ。おまえがつぎに目指すのは「アホぢから」だぞ。するとハマジから昨日こんなメールがきた。

馬鹿になりたい。アホになりたい。もっともっと自分を出したい。もっともっと変わりたい。
そう思ってる時期のAKIRAさんからの言葉でした。
うれしかった。
出逢えてよかった。
ありがとう。
ヘンプでの書道コラボ。一生に一度あるかないかの体験。
オープニング予定が延期でAKIRAさんとのコラボに♪
すべてのタイミング。すべてうまくいっている。
あの時間・あの空間・
楽しかった。
うれしかった。
高知ライブもTAKEちゃんも揃ったフルメンバーで、最高でした♪
「Hello my mam !」
僕は保育園児の頃。お母さんに逃げられました。
だから正直お母さん憎いです。愛する事なんてできません。
でもどっかで感謝してる部分があったんだろうか。この歌を聴いてると涙が出てきた。
人前でめったに泣かない自分が泣いている。
きっと泣きたかったんだろう。
アンコールあり~の笑いあり~の横浜あり~の なんつって。。笑
いろんな凝縮(希釈5倍)された空間。
音楽っていい。
ONSENSっていい。
AKIRAさんって素敵。みんな素敵。杖はステッキ♪なんつって。笑 2連発。。
今回たくさんの人出逢えました。
AKIRAさん・規加さん・トシさん・イワセさん・ゆうすけ・はるか・TAKEちゃん・YAOさん。RYUさん・リエさん。他みんなみんな。
あれもこれも・AKIRAさんとさんちゃん(コズ)のおかげ。
ほんとにありがとうです。
僕は春に旅に出るコトを決めました。
ゴールは東京(トシ&ゆうすけのとこ)。徒歩かチャリかで。
そのときは日光にも寄ります。よろしくです。
僕変わります。
アホになります。(以上ハマジ)

 おいハマジ、早くも2連発ギャグ、スベってるぞ。

5日(水)
 朝からオレをはじめ何人かがお世話になった盗賊スタジオの掃除をはじめた。オレは掃除にしろネアリカにしろ強制したくないので、自分がしたい人がやればいいと思う。盗賊さんやみんなに対する感謝があれば、掃除も義務じゃなく楽しい遊びになる。オレはドアのさんに積もったほこりまできれいに拭き取った。
 Yは「みんな掃除しろ!」と怒鳴りながら、自分はソファーに寝っころがってチベタンベルを叩いている。
 みんながみんなベルの音でノイローゼになりそうだった。何度取り上げようとしても渡さない。Yいわく、「金属音に想いをのせるととどきやすい」と言うが、その想いは他人に対するものではなくYの「自分自身」に対する嫌悪だった。
 すべては鏡である。
 Yが言った「あんたたちを悪霊から守っているんだよ。よけいな口出しするな」も、「みんなトイレに入れ」も、「ベンチをを叩くな」も、「悪いものがこっちにむかってる」も、「そっちいっちゃだめ」、「それは悪い方向」も、「みんな掃除しろ!」も、全部自分自身にむけた言葉だというのが痛いほどわかった。
 全員がYのまわりからはなれていき、Yが近づいてくると席を立つ。ユウスケはトイレにこもって隠れていたという。人が離れれば離れるほどYは「私を見て」というエゴをベルにぶつけ注意を引こうとする。
 オレは自分でも禁断症状で発狂したことがあるし、発狂する友人たちをたくさん見てきた。北海道浦河にある精神障害者施設べてるの家にもたくさん友人がいる。
 あきらかにYの行動は典型的な分裂・躁状態だ。自分は絶対に正しく、他人はまちがってると、人の話を聞かない。自分の規範を他人に強要する。幻聴や幻覚を信じ、現実から逃避する。見えないものが見える優越感から他人の価値感を無視する。「愛してる」、「ありがとう」などを多発しながら、排他的、敵対的な行動を取る。ユーモアを忘れる。
 Yが見えないものが見えたりするのは当然である。恐怖や攻撃のときに出るノルアドレナリンが大量に放出され、脳の安定化装置である視床下部の働きがゆるんでいるからだ。
 見えないものが見えたり、その存在を感じたりするいわゆる「潜在能力」は特殊な能力ではない。誰もが無意識のうちにカンを働かせているし、ハマジもそれをつかって相手の深層心理を読みとる。オレも20年にわたる創作でそれらの能力を飼い慣らし、無意識から作品をつくってきた。
 問題は「What」(なにをもっているか)ではなく、「How」(その能力をどう使うか)である。
 オレは世界中のシャーマンや不思議な能力を持つ人たちを会ってきたが、本当に潜在能力を使いこなし、人々の役に立てているのはごく少数である。たとえばアイヌのアシリ・レラさん、アマゾンのパブロ・アマリンゴさん、インディアンのデニス・バンクスさんは、決して怪しい話はしない。大きなユーモアと愛情で人を包みこむ。
 Yの豹変は誰の目にも明らかだった。ユーモアを完全に喪失している。人々が楽しむのを邪魔する。指図、強要、仕切りたがる。しかも自分がどれだけみんなの調和を破壊し、どれだけ仲間に惨いことをし、どれだけ愛情をかけてくれる人に迷惑をかけてきたかを気づこうともしない。
 今のYは精神世界を「自己逃避」のためにつかう典型的な例だ。オレは精神世界かぶれの「ひとりよがりさん」を腐るほど見てきている。やつらを見分けるのはかんたんだ。
 「人に迷惑をかけるか、人を楽しませるか」それだけである。
 オレのなかでも葛藤があった。自信をもって連れてきた仲間Yの責任はオレにある。巨大な愛情を持って接してくれる盗賊さんはオレがどう行動するかを見守ってくれている。オレは何度もYを殴って正気にさせようと思ったが、Y自身が自分で気づかないとだめだと思い、ぐっとこらえてきた。
 人は一生かけて「許し」を学ぶ。
 しかしどこまで許していいのか? Yの傍若無人な振る舞いを許すのは本当に本人にとっていいことなのか? だいいち「許し」とはなんなのか?
 タケちゃんが青い顔をしてオレのもとにきた。
「Yがここを出て、最初に泊まったケンケンの家にみんなで移動すると言ってます」
 タケちゃんだって自分の問題で手一杯なのに、さらにYはエゴをゴリ押しするのか。
「みんな集まれー」
 Yが集合をかける。オレとタケちゃんがYの両脇に座ったので、しかたなくみんながYを中心に円陣を組む。
「ここは悪い波動があって落ちつかないので、四万十の海岸沿いにあるケンケンの家にみんなで移動します。あそこでドアが開いたので同じ場所にもどって閉めなければならないの」
 オレはYの背中をこすりはじめた。
「Y、おまえの気持ちはわかるよ。みんなもわかってるよ。コズやみんなが一生懸命走りまわり、組んでくれたスケジュールなんだ。ケンケンにも仕事があるし、四万十の家に勝手に移動はできない。オレたちは今日ここに泊まらせてもらい明日四国を去る。一度開いたドアは体を移動させなくても閉めることができる。おまえの心が動けばね。おまえはここに悪い波動があるというけど、オレたちはここで最高に心地よいバイブレーションを感じている。反発してるのはおまえだけなんだ。だいじょうぶ、ゆっくりゆっくり合わせていこうよ。ひとりでがんばる必要ないからさ、肩の力を抜いてゆっくりゆっくり合わせていこうよ」
 タケちゃんが反対側でYの手をにぎる。オレがYの背中をさするとなにか重いものがのっているような気がした。
「おまえがみんなを守っているんじゃなくて、みんながおまえを守っているんだということを知ってほしい」
「Y、あたしたちを信頼して」規加が言う。
「みんな、オレが連れてきたYがとんでもない迷惑かけちゃって……すいませんでした!」
 オレが頭をさげる。
「おれたちみんながYが好きだよ」ユウスケが言う。
 頭をたれたYの瞳から大粒の涙が落ちる。
「さあ、これはもう徳三(とくさん)に返そう」
 チベタンベルを取り上げると、意外にも素直に渡した。
「うんうん、みんなおまえを見捨てたりはしない。いつもの明るいYに返ろう」
 Yの背中からなにかがはなれた気がした。それはあまりにも劇的な幕切れだった。
 Yは顔をあげると困ったような顔で笑ったのだ。
 みんなが一瞬あっけにとられ、Yにつられて笑った。
「ハッピーバースデイ!」
 歓声とともにYの復活を喜ぶ。
「ええー! こんなマンガみてえなハッピーエンドってあり?」

 今回いちばん疲れた3人ということで、オレと主催者のコズ、Yで「春野の湯」へいく。温泉で体を弛緩させたYは別人のようだ。激ウマのタイ料理「博厨房」で飯を食い、ピースカフェのルミコさんにあいさつしにいった。
 盗賊スタジオにもどり、今晩は四国最後の宴会だ。
 盗賊さんは仕事でいなかったが、徳三、ジュンイチ、マットン、ハマジ、ルミ、メイ、ユキジ、カルロス、田中、オカバー、チャンミー、カルロス、ヤオ一家、ユウスケ、タケちゃん、Yなど、またもたくさんの人が集まった。
 オレが乾杯の音頭をとる。
「みなさんに多大なるご迷惑をおかけしたYが、完全復活しました。今夜はYを肴に思いっきりイジメましょうー!」
 急におとなしくなったYをつっつき、爆笑の夜だった。
 恒例になったタケちゃんのギャグパフォーマンスも見事に冴えまくり、みんな腹をかかえて笑いころげる。とくに徳三はバカウケしていて、「こんなすごいパフォーマンスは見たことない! ONSENSってすごい裏技をもってるんですね」

6日(木)
 東京から大島にむかうメイちゃんをのせてコズが徳島まで見送りにくるという。高知のインターチェンジ入口で、叫び声があがった。
「なんだあれは!!」
 道路わきに二人の人影が立ち、横断幕のようなもとを広げている。マットンとマーミーだった。
「ONSENS
 ありがとう
  BE HERE NOW」
 二人は誰にもないしょで2時間もかけてこの横断幕をつくり、高速の斜面をよじ登り、1時間半もずっとオレたちが通るのを路肩で待ちかまえていたという。タケちゃんもメイも声をあげて泣いている。奥の座席で爆睡していたオレはみんなに攻められたが、ひとりで泣いた。
 たまらん、たまらんぞ、皮肉屋のマットン、見目麗しきマーミー、せっかくライブでおめえらを泣かしてやったのに、最後にリベンジされたぞ。
「生まれたての~君に~完敗!」
0510ありがとう横断幕

 フェリーの甲板からながめると、待合室の窓から手をふるコズが遠ざかっていく。オレたちも動き出す船のデッキを移動しながら大きく手を振りかえす。もう涙も鼻水も垂れ流し状態である。
「ありがとうコズー、高知のみんなー、いつか帰ってくる、高知へ帰ってくる、みんなの笑顔に会うために」
 コズもフェリー埠頭も遠ざかり、青い大海原をながめながらタケちゃんが言った。
「この海に比べたら人間なんてちっぽけだけど、
 ひとりひとりの想いはかけがいのないくらい……
 尊いですね」
 すると1匹の鷹がフェリーの頭上を旋回し、港のほうへ帰っていった。