おまたせー!
10日間にわたる四国ライブツアーから今帰ってきました。
いやーとにかく高知県はスゲかった。今回ほどドラマチックな旅はもうないだろうつーくらいにね。
体も頭もくらくらなのに、高知の新しい友だちや、参加してくれた仲間や、11日間も日記を待ってくれたみんなのことを思い浮かべると指が勝手に動いてしまう。
こうなったら倒れるまで洗いざらい書くしかないぜ。
27日(火)
出発の前夜9時にドタキャンがあり、急きょもう一人の同乗者をネットで募集した。
このままではフェリーと交通費35000円の穴が開く。ただでさえ赤字覚悟のライブなのにこの痛手はでかすぎる。
毎分ごとにメールをチェックしても申し込みはこない。夜中近くになり、絶望のふちに沈んだところに、電話があった。
「こんばんは~Yです。誰もいかんかったら、あたしがいくわ。あんたらといったほうがおもしろいし」
Yはオンセンズ・スタッフのなかでも「母親的存在」だ。名古屋から四国へバスで行ったほうがぜんぜん安上がりなのに、わざわざ東京に来て、オレたちといっしょにフェリーでいくという。口にこそ出さないが、オレたちを心配してドタキャンの穴を埋めてくれたのだ。Yは本当にありがたい存在なのだ。
28日(水)
東京のお台場に集合した。オレとタケちゃんは日光から楽器を積んだワゴン車で、ユウスケは東京から、Yは名古屋から新幹線で、規加(ミカ)はなんと札幌から飛行機でやってきた。
午後6時ごろフェリーに乗船し、いざ四国へ出発だ。
18時間の旅を終える直前にとんでもない試練が待ち構えていた。タケちゃんが真っ青な顔を電話を切る。
「家庭の事情で、すぐ帰らなければなりません」
公のブログでは書けないほどタケちゃんの人生最大の試練だった。
「……ってことは?」オレの声も震える。
「申し訳ありませんが、ライブには出られないでしょう」
ここでオレまでパニクってはいけないので、冷静を装って励ました。
「だいじょうぶ、ライブのことはオレにまかせてくれ。どんな悪条件でもみんなを感動させるから」
困難に直面したときこそ、人間の真価が問われる。さあ数々の危機をくぐってきたオレの腕の見せ所だぜ。
みんなを集めて緊急ミーティングを開いた。規加は会計を引き継ぎ、ユウスケはオレのヘルプ、Yは全体のマネージメントと、タケちゃんが担っていた役割を分担した。
29日(木)
デッキから材木置き場が見えてきた。
13時半、フェリーが徳島港に到着し、ターミナルビルの玄関でアイヌ民族の儀式カムイノミをおこなった。すると一匹の鷹が山のほうから飛んできて、頭上を旋回する。
「チカップ・カムイ(アイヌ語で鳥の神様を意味する)よ、タケちゃんの家族と、タケちゃんと、我々をお守り下さい。この旅が、ライブがすばらしいものになりますよう力を貸してください。カムイ・ピリカ・チコ・プンキネ・イエ・カルカンナ(美しい神様にわたしは心から祈ります)」
徳島港からタケちゃんを空港に見送る。
さいわい規加はタケちゃん号と同じワゴン車に乗っているので、運転を任せた。四国はでかい。徳島から高知まで高速で3時間。須崎東で降り、「黒潮本陣」という温泉で高知ライブの主催者コズ、スタッフのメイとナッチが迎えに来る。
「あれ、タケちゃんはまだお風呂?」コズが訊く。
「ちょっと事情があって徳島空港から帰ったんだ」
「……また冗談ばっかり、もしほんとだったらあたし死ぬよ」
事情を話してるとき、コズの顔から血の気が引くのがわかった。いちばんパニくってるのはオレなのに、思いっきり無理して平静を装う。
「だいじょうぶだって、ヘンプ・ギャザリングはオレひとりでせいいっぱい歌うし、コズやハマジのジャンベもある。高知ライブにはきっとタケちゃんも帰ってくるよ。そんな気がするんだ」
「でも……タケちゃんなしのONSENSなんて考えられないよ」
「いいかコズ、不在ってのはある意味、存在よりも強い存在なんだ。オレ、両親も猫たちも死んじゃっただろう。いない者たちはより大きな存在でいる者たちを守ってくれる。少なくともオレははらわたの底からそれを信じてる」
コズの捨てられた子犬みたいな目がオレを見つめかえした。
「わかった、信じてみるよ」
ヘンプ・ギャザリング主催者のひとりケンケンの家にむかう。
合併を終えた四万十市の海沿いにあるケンケン宅には主催者とスタッフ、イベントに出店する人たちや高知の重要人物たちが総集合していた。
空海の時代からお遍路を受け入れてきた土壌があるせいか、高知のスタッフは「もてなし魔神」ばっかだった。海のようにオープンな笑顔で迎え入れられる。集団を無理にまとめあげようとせず、強要や指図など一切せず、いかにみんなが自由にふるまえるかをいちばん大切にしてくれる人たちだ。
オレがインディアンやインディオやアイヌから学んだ人間の基本、「分かち合う」ことを驚くほど自然にやってのける。精神論や愛などを語るではなく、まずは肉体から食べ物を分かち合う。ゆでたての海エビ、つぶつぶの麹入りさつまいも味噌汁、カニとエビのパスタ、小鯛の塩焼きなど、見ず知らずのオレたちに最高のもてなしをしてくれるのだ。
「ちょっと散歩してくる」
といって出ていったYがなかなか帰ってこない。世界を半周放浪したYが迷子になってしまった。
「あいつならどこで迷子になってもここへ帰ってくるよ」オレは言う。
ちょっと心配だったが、Yの野性を信じているオレは外に探しにいく。名うての旅人Yは偶然スタッフに出会い、もどってきた。
ケンケンの家から20メートルほどで海にでる。砂浜で流木を集め焚き火をする。満天の星だった。ふうっと首を反らすと流れ星が見える。
女子には土間の上の部屋が与えられ、20人ほどの男子は雑魚寝する。
集まってきた人々と笑顔であいさつしていたものの、オレはどうしようもない不安を抱えていた。
この2年間ボーカルだけに徹していたオレは、自分の作った曲とはいえ、今からギターのコードをおぼえられるのか?
だめだ。
オレは今までたくさんの人に支えられていたんだ。
あえてひとりになりたかった。
オレは誰もいない場所を探し、物置で倒れこむように寝た。
タケちゃんのいないあさってのステージを本当にひとりで成し遂げられるのか?