壁紙を変えろ | New 天の邪鬼日記

New 天の邪鬼日記

小説家、画家、ミュージシャンとして活躍するAKIRAの言葉が、君の人生を変える。

050704吠える
「天使シリーズ」より

 21歳の女性Hさんからこんなメールがきた。

こんにちは。
自分が生きていたいと思うには
どうすればよいのでしょう。
生きていたいとは思っているのです。
しかし、行動に現れず、言葉にもなく、胸をはれないというか、もどかしい感じです。
私は生きたい!生きているんだ。
生きなければいけないんだと
思わなくてはいけないのでしょうか。
死にたい。と言っているうちは
生きたいと言っているのと同じだと
よく言いますが、確かに誰かに救いを求めているのだと思います。
でも、明日が来て欲しくないと毎日思います。
一秒後がなければいいと思います。
なぜ、自ら命を絶つことを止める人が多いのでしょうか。
私は適応障害、摂食障害、境界線パーソナリティー障害と診断されています。
べてるの家が出している本の中に、
「一人ぼっちで勝手に治ると、病気のときよりも始末が悪い」
とあるようですが、私もそう感じます。
根本的な部分が変わったようには思えないし、自分がどうありたいか訳が分からなくなります。
むしろ病的であった頃の自分の方が正常で、勝手に治ってしまったときの方が狂っているのではないかと思い、不安にかられます。
誰かに伝えたかったのでメールしました。
私には伝える人が今はいないんです。

 そこでオレはこんな返事を書いた。

なぐさめはいえないけど、薬物中毒、自殺未遂から生還した者のたわごととして聞いてください。(役には立ちませんよ)
まず病気というハードルは、越えられる勇者にのみ与えられた勲章であること。
病気を治せるという意味でなく、病気から「学べる」人しかこのハードルは与えられません。(「生きがいの本質」PHP文庫参照)
そこから動けないうちは、そこでしか学べないものを思いっきり学べということでしょう。
もし、それを変えたいと心から願った瞬間、動きます。
人間には恐るべき野性が眠っています。
野性は自己治癒能力も完璧にもっています。
その野性に気づかず、野性を殺しているのは自分自身と環境です。
人は関係性のみで生きてます。
自分と背景(環境)がうまくいかないのなら、自分が悪いのでなく、背景との組み合わせが悪いのです。
同じ背景で自分を変えるのは不可能です。
壁紙を変えることです。
そこから逃げることです。
オレは28歳のころ、借金をかき集めニューヨークからハワイに逃げ、薬物中毒を断ち切ることができました。
金がないのはわかってます。
「のち10年分の治療費、生活費を前借りさせてくれ」とか、
なんとか10万円かりられれば、バリ島で1ヵ月、
15万ならインドやチベットで1ヵ月、
20万ならメキシコで1ヵ月、(「オラ!メヒコ」角川文庫590円参照)
25万ならペルーやアマゾンで1ヵ月、(「アヤワスカ!」図書館で借りて)
暮らすことができます。
できるだけ言葉の通じない遠い国がいいでしょう。
できるだけ困難な状況のほうが野性が目覚めやすいからです。
べてるに住むのもいいですが、1ヵ月くらい滞在しても15万くらいかかってしまいます。
日本の常識が通じるところでは野性が目覚めにくいし、そのていどの治療だと、家に帰るとまたもどってしまう可能性もあります。
Hさんには、Hさん自身も気づかないとてつもない野性が眠っている。
最初の一歩はものすごく怖いですし、自殺以上の勇気が要ります。
しかし見知らぬ国の空港に降り立ったとたん、少しずつ、確実に、野性は目覚めます。
異国でのたれ死にする方が、日本で自殺するより、安く上がりますよ。
オレにはこんなことくらいしか言えません。
人生相談は苦手ですが、旅のことならベテランです。
もし本気で旅立つ気になったらもっと具体的なアドバイスをします。

 Hさんから返事がきた。

こんばんは、Akiraさん。
メールありがとうございます。
すごい泣いてしまいました。
泣いた後、旅立とうと決めました。
まだどこに行こうかというのは決めていません。
ですが、一番行きたいところはブラジルインディオのところです。
日本人が少ないところに行きたいです。
まだ頭の中がぐるぐるしていて自分はふわふわ状態です。
何を伝えたらいいのかよく分かりませんが、とにかく、
Akiraさんの言葉はとてもありがたかったです。感謝です。
とりあえず、旅立つということだけ決めました。報告です。
同じこと2回も言ってますね。ナハハ。
うーん、このメールをどう締めればいいのか分かりません…。
今日は「生きがいの本質」を古墳のすそで読み、昼寝をしてきました。
では。(引用ここまで)

 ニーチェが「ツァラトゥストラかく語りき」で「神は死んだ」と宣言したのは19世紀の終わりだが、実際に人類が神を殺しはじめたのは3~4000年前だ。
 「二院生型精神の分析における意識の起源」でジュリアン・ジェインズは「紀元前1250年のメソポタミア文明」と特定している。
 中東での絶え間ない戦争を勝ち抜くためには、「神の座」である右脳から、「文明の座」である左脳への主権委譲がおこなわれた。
 文明が複雑化すればするほど左脳は忙しく立ち回り、右脳の神は眠りこけるばかりだ。
 ふと眠りから覚めると、あまりにも居心地の悪い現代社会ができあがった。
 右脳に眠る神とは、Hさんへの手紙で書いた「野性」のことである。獣は役立たずの穀潰しとして貶められ、危険な存在として檻に閉じこめられる。
 ちょっとでも獣を散歩に出せば、「キモイ人」と白い目で見られ、わけのわからん病名を貼りつけられ、暴走させると刑務所や病院に幽閉される。
 20歳のころのオレも獣を殺そうと必死だった。自分だけが狂っていると思い、獣を殺しきれない自分は劣等人間だと恥じた。
 言葉も習慣もまったく通じない外国を旅して困惑した。苦境を助けてくれたのはほかでもない獣だったからである。
 こんな最強の味方をオレは今まで殺そうとしてたのか。背景がちがえば、野性を生かせるじゃん。
 そう気づいて以来、オレは取り憑かれたように旅をはじめ、今でも野性が死にかけると、本能的に旅に出る。

 もしも君が今の場所に居心地悪さを感じるのなら、
 自分を変える必要はない。
 壁紙を変えろ。