学位論文書くときのコツ | 王様の耳はロバの耳

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ゆがんだかがくしゃのたのしいにっきだよ

M2の人は修士論文で大変みたいですね。
人格崩壊したり、失敗したりする前に、なんとなくコツのようなものを列挙してみることにします。
とりあえず学部の人も博士の人も関係あるかもしれないけど、修論に絞って書いてみます。
(ちなみに章立ては基本的な科学論文と同じ章構成になってますが、学位論文の場合、これにこだわる事はありません)

・目次はとっとと書き終わる
 本当は10月ぐらいには書き終わって先生に同意を得ておきたい事項。
 もしいまごろ論文の構成を変えているなら、すぐに目次を見直すべき。
 ぜんぜんページ数の配分とかぐちゃぐちゃなときとかは今のうちに見直してしまおう。

 たいてい書きすぎの項があるはず。

・大作を書こうと思わない
 そんなに大作書きたいなら、学位論文書き終わってからにしてください。
 さらに、その学位論文、PDFにして研究室のHPに置けますか?
 もしそういう「誰に見せても恥ずかしくない論文」が書けるなら、以下を読む必要はないでしょう。

・1章2章から書かない
 書くなら4章5章から書きましょう。
 なぜかというと、工学系の場合は「やったことベース」に書くしかないから。
 やったことがそんなに多くないのに(or多くかけないのに)、理論やバックグラウンド、序文ばかり大きいのはちょっと恥ずかしい。
 特に5章の「結果のまとめ」ができてないのに、バックグラウンドや理論はかけませんよ。

・参考文献を最後に書かない
 参考文献を「最後に取り掛かればいいや」と思っていると、締め切り間際になって非常に重要な論文に出くわしたりしてあせります。
 普段からZOTERO(http://www.zotero.org/)を使って集めておくか、2章を書くときに一気に必要な件数をそろえてしまいましょう。

・先生との別れ方を考えておく
 島本和彦風に「どりゃああ」とか言いながら先生の顔に叩きつけてスキー旅行に出かける…!
 とか(↑は冗談ですが)いろいろ考えながら論文を書くといいです。
 研究というのは永遠に終わらないものなのです。だから終わらせ方を学べ、ということ。
 最後の最後で主査の先生にからまれて卒業遅れそうになる人とかは普通にいますので(笑)。
 いかにして円満に卒業できるか、そのために頭を使いましょう。 
 ちなみに普通の工学系修士の学生で就職が決まっている人は、M2の冬が「もっとも大学と先生が嫌いになる」瞬間のはずです。

・付録は充実
 プログラム、ソース、実験データ、図解、ビデオ、パワーポイント、関連ソフトのインストーラなど「卒業後に先生に呼ばれないように」というコンセプトで、
 論文と平行してしっかり整理して整理しておいて、提出と同時にCDROMに焼いてしまうと、スキー旅行に行きやすくなります。
 反対に、論文書き終わっているのに、まだプログラム直してたりすると、卒業式までなぜか研究室で徹夜してたりすることになります。

・先生の立場も考えよう
 「修士は早く出す、博士はその逆」…これは大学院指導教官の学位に関する基本戦略です。
 「就職が決まっている修士の学生が卒業遅れ」…これは教官の指導能力もしくはコミュニケーション能力の不具合を意味します。
 「就職が決まっていない博士学生が卒業遅れ」…これはその学生が非常に優秀で、先生が離したくない、ということを意味します(もちろん単にダメ学生も同意)。
 『先生が卒業させてくれない…』と嘆く前に、まず先生の立場での最適戦略を考えましょう。
 その上で自分が何をするべきか。

・時には折れる
 科学の道は真実への道です、しかし無限に続いています。
 「自分の信じる科学」を突き通して、先生と喧嘩してしまう…なんてこともないことはないです。
 今あなたにとって大切なのは「卒業すること」です。指導教官と喧嘩することではありません。
 結果を捏造するといった反則行為をのぞいて、細かな記述や図解の注釈、仮説のコンセプトなど
 「自分が折れさせすれば穏便に片付く問題」は、以下のように片付けましょう。
 (1)まず先生の言ったことを筆記、そして確認。
  まとめてメールや紙に書いて復唱する。この時点で先生が非を認めることもあります。
  先生だって人間なので、たくさんの論文を短期間に見ていると、「右を左に→左を右に」といった修正をしてしまうこともあります。
 (2)直した上で自説を提案してみる
  指摘された点を完璧に直して、1発OKならそれでいいです。修正点をPOST-ITに書いて表紙に張っておくとなおよし。
  でもここで「納得がいかないポイント」があるなら、よりよいバージョンとして「自分がすっきりする書き方」で書き直しましょう。
  ここで先生に頼りきりになると、あっというまに「迷宮落ち」しますので注意。
 (3)自説・自分の論文にこだわらず、単なる1ページとして書き直してみる。
  特に「言い回し」を指摘されたときに多いのですが、実は図解が足りないだけだったのに、
  「この言い回しをどうにかしてもっとわかりやすくできないのか?」と言われて腹を立てている学生が時々います。
  しかし先生としても「ここにもう一枚、図を書いてくれ」とは言いづらいものです、すでに大変なので気を使うのです。
  でも、手書きで描いた図を持って『こんな図を入れてみたらどうでしょう?』で片付いてしまうこともあるんです。
 (4)自分の「科学に関する妄想」は捨てる
  これは最終段階ですが…。まず、あなたは長時間の執筆で疲れています。
  自分が信じている「科学への理想」は妄想…と思いましょう。
  結局、あなたが主張していることも、先生が主張していることも10年もたてばいい思い出ですし、
  50年もたてば笑い話にもならないでしょう。ここは生き延びて、笑い話にすべきです。
  もしあなたのプライドがどうしても許さないなら…!先生の見ていないところでBlogに書いておくか、
  TeXのコメントに恨み辛みを書き綴るか、もしくは「著者・自分一名」で学会にフルペーパーを投稿すべきですね。
  初任給と初ボーナスで特許申請してしまうというのもいいストレス解消かもしれないです。

・バックアップを取らずにマーフィの法則を語るな
 あまり知られていないことですが、大学の研究室でもっとも消費電力が高まるシーズンは1-2月です。夏よりも。
 普段でてこない学生も含めて、大学全体が不夜城になるだけでなく、PC全体がガリガリとフル稼働します。
 ハードディスクもたまりにたまったデータがあり、非常に不安定になります。立ち上げっぱなしで作業するのでスワップも多くなる。
 古い設備の大学などは(それが理由かは定かではないですが)、供給電圧が不安定になり、PCに不具合がおきやすくなります。
 たとえば不意のブルースクリーンなど。で、ハードディスクに傷がつきます。さらにそれを直すためにスキャンディスクやデフラグなどをみんな一斉にかけ始めます。
 さらに電源状況は悪くなり、スキャンディスクの最中に停電…!なんていう事態まで起きたりします。
 そう、元凶を取り除くためには「論文を書かないこと」…じゃなかった、「バックアップをとること」です。
 ハードディスクなんて論文書き終わったらごっそりフォーマットするか、そのまま新品買って置き換えればいいんです。
 USBメモリドライブなどだって最近は安いですから、毎晩大事なファイルをフルコピーするbatファイルを書いてバックアップしたってバチは当たりません。
 TeXで書いている人は、SVNを使ってサーバーなどにおいてしまうのもよいでしょう。

 もちろんDocで書いている人も、ホームページやGmailアカウントに添付で送っておくとかいろいろ手はあります。
 とにかくこの時期のアクシデントは起きるべくして起きます。
 「今日一日の作業がふいになった~!」といって嘆かないことです。
 そこのあなた!フォーマットかけてVistaRC1をインストールしている場合じゃないですよ!!それは現実逃避というものです。
 
・問題解決能力/問題発見能力
 「学部と修士卒の違いは何か?」と聞かれて答えるなら、それは「問題発見能力」なのではないかと思います。
 もちろんほかにもいろんな答えはあると思いますが。
 先生からの視点ですが、学部の研究には「問題の解決」をテーマにしていることが多いです。
 …で「その延長で研究をやっている」と思っている人は間違い。
 迷宮に入る前に、「問題そのものを発見する」というところに視点を移すべきです。

 『先生から言われたのでやりました』というスタンスは事実であっても、論文中で肯定してはいけません(読者や指導教官が赤面する)。
 「このような常識があるが、それが問題なのだ…!そして自分はこういう仮説に基づいて、こう解決した」…という方法論をとれないかぎり、
 修士として「2年よけいにやってきた」とはいえなくなってしまいます。

・『俺は書ける!』と信じること。
 年末年始、ぶっ通しでがんばっちゃったりした学生に多いんですが、この辺で突然心の調子が悪くなって、倒れてしまったりします。
 さらに風邪を引いたり、胃を壊したりして入院したりすると、本当に「物理的に」卒業が危うくなってしまいます。
 まだ正月に飲酒運転で交通事故を起こして卒業できなくなったほうが諦めがつきます。

 若いあなたはまだ気がついていないかもしれませんが、人間の体調というものはこのような精神的な緊張状態では、面白いほど簡単に崩れます。
 たとえば、消化器科の先生に聞いた話ですが、胃潰瘍もちは、誰かに嫌なことを言われただけで、その瞬間、胃壁が真っ赤になり、血管が浮き、口内炎のような炎症…つまり「胃に穴が開く」という状態になります。
 さらにそこに徹夜をしたり、スナック菓子やカップラーメン(塩と油の塊)を食事の代わりにしたり、コーヒーをがぶ飲みしたり、気晴らしにお酒を飲んだりしたら自殺行為です。
 そんな自爆行為をするぐらいなら、まず机の前で『俺は書ける!書ける!書いて卒業するぞおお!!』と叫んでみましょう。
 周りで聞いている研究室の学生もきっと勇気付けられるはずです。
 同様に「夜9時に寝て朝3時に起きる」(これは研究室が混んでなくていいという効果もアリ)、「とにかくシャワーを浴びる」なども効果があります。
 気晴らしをするなら健康志向で。自分を信じて!ということですね。

以上、今も徹夜でがんばっているであろう修士2年の皆さんにささげます。
がんばってね。