図説 不潔の歴史/原書房
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不潔の歴史、というか、衛生の歴史といったほうが正しいかな。


でも、絶対不潔の歴史の方が売れますよね。ええ。


思いっきり「図説」とありますけれども、これは図説とは呼べません。

図説って、図で説明するものでしょう?

おそらく10ページに1つ図があるかどうか、という状態。


ということはあれど、内容は面白いからまあ、よし!


「図説」がつくと=入門書 と思っちゃっていいと思いますが、

内容はなかなか専門的。

なのですが、注釈がないので専門書ではありません。


内容的には専門的なのだけれど、読みにくいというわけでは決してなく

全く衛生に対する知識がなくても大丈夫。

まあ、そんなないですよね、普通。


著者はアメリカ人なので(たぶん)、日本のお風呂についてこういう風に見るんだ、なんてことも知れて楽しい。


「古代ローマの人々にとっては、体をきれいにするのは社交の機会で、現代の日本人、トルコ人、フィンランド人にとっては依然としてそうなのだ。」


う――――ん。入浴=社交の機会 なのでしょうか?本当に?



「スキンシップという言葉は、いっしょに入浴することではぐくまれる親しい関係を好意的に示す、日本語の表現だ。」


え、そうなの?スキンシップ=和製英語ではありますが、これって入浴なの?

スキンシップの意味合いはなんか違うと思うけど・・・


「(続)日本では、同じ職場の人々が、就業中扱いの休息の一環で、集団で入浴することがよくある。」



これって、社員旅行・・・・ですよね?

ないよ、今時。


なんて突っ込みを入れるのも楽しみの一つ。


前半はご想像の通り、古代ローマがやや多め。


当時は石鹸ではなくストリギリスという金属のもので汚れをこすって落としていたのですが、

なんと、有名な運動選手や剣闘士は、このストリギリス掻き落とした汗とオイルと汚れを小瓶に入れてファンに売っていた・・・・・そうです。おえっΣ(゚д゚;)


さらに、それをクリーム代わりに顔に塗る女性もいたとか。(!!!!!)



浴場は単に汚れを落とす場所ではなく、不倫関係にある男女の密会の場所にもなっているそうで。

なんか想像ができません。



その後は皆様ご存知の通り、不潔の時代へ。

香水は体臭を隠すため。

毛穴から悪い黴菌が入ると考えられていた。。。というのは有名な話。

だから、逆に垢で毛穴が覆われていた方が安心できるわけですし。


17世紀を生きたルイ13世は、生後9ヵ月になって初めて櫛が通り、5歳になって初めてぬるま湯で足をあらわれ、産湯を使ったのは、なんと7歳になった時・・・・!



今と嗅覚が絶対に異なるんでしょうね・・・悶絶しそう。

歴史関連書によく出てくる逸話ですが、

マリ・ド・クレーヴのシュミーズの話も載っていました。


彼女が踊った後さっぱりしようとシュミーズを履き替えました。

それを控えの間に置いておくと、そこに偶然やってきたのはのちのアンリ3世アンジュー公。

彼女のシュミーズをうっかりタオルと間違え、それで顔を拭いてしまいました。

アンジュ―公、それで一目惚れならぬ一嗅ぎ惚れ。(キモチワルイ)


・・・・なんて話はほかにもあるようでして、

オーストラリアの娘に言い寄っていた若者は、踊っている間ハンカチを脇の下に忍ばせておいて

そのハンカチでほてらせた娘の顔を拭いてあげたそう・・・・・です。


おかしいのが、フェロモン臭に参ったのかなんなのか、娘はたちまちこの若者に夢中になったそうです。

やっぱり鼻、どうかしてるよ。






ところどころ文学が出てくるのが嬉しい限り。

まさかのシェイクスピアも登場。


ホメロスの『オデュッセイア』も登場。

そうですよね、確かにこの作品では入浴・・・っていうか、湯浴み?とにかく身体を清めるということが頻出していました。

やはり一番印象に残っているのは、帰ってきたオデュッセウス(老人版)が身体を洗ってもらう時に足の傷を見られて・・・・うんぬん、という箇所。


ううむ、衛生と言いますか、体の清め、入浴というのもちゃんと着目して読んだら面白そう。

文字通り「清める」のだから。

文学での雨や、川で泳ぐようなことは必ず意味があって、

身体の清めなんて、まさしくそうですもんねぇ。




驚いたのは、ハリエット・ビーチャー・ストウが出てきたこと。

奴隷制、南北戦争関係書には出てこないことが皆無な彼女ですが、

まさかこんな本に出てくるとは。

(ストウ夫人:『アンクル・トムの小屋』の作者。リンカンにあなたがこんなに大きな戦争を引き起こした小さなレディですね、みたいなことを言わせた人。個人的に、ストウ夫人もリンカンも好きじゃない。)


どうもハリエットとその姉妹は

なぜか豚の皮膚をこするとそのような効果があるのかという実験を行ったようで、

結論は、摩擦の刺激によって器官が活発に動くようになるため、こすった方はこすらないほうよりも餌を減らしたのに約15キロも体重が増えたから、


人間も肌の手入れをすると年間の食費が節約できる!


に至っています。


で、なぜ豚?というと、豚と人間の皮膚は似ている・・・・と思ったから、らしく。

まず、こういう実験するならば、同じ分量の餌にしないとだめだと思うの。



以下、読んでいて気になった本たち。


香水―ある人殺しの物語 (文春文庫)/パトリック ジュースキント
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やっぱり?やっぱりこれは読むべき?


前々から読みたいとは思っていたんですよね、映画は見たし。あ、もちろん、アラン・リックマン目当てで。


あのラストのドン引きシーンがちょっと……嫌だったのですが、原作はどうなってるんだろ。



すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)/ハックスリー
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『テンペスト』の超有名なミランダの台詞からとられたタイトルの本書。

思いっきり皮肉なタイトルになってます・・・・・・ね。

でも、間違っちゃいないと思うんだよなぁ。『テンペスト』の世界も「すばらしき新世界」なんてものじゃないんだから。


これもまた、清潔すぎるユートピアを鋭く風刺したもの、とされているので

面白いかもしれません。