ガヴァネス―ヴィクトリア時代の〈余った女〉たち/川本 静子
¥3,675
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どこで知ったのかは覚えていないのだけれど、こんな本があると小耳に挟み、

借りてきました。


ガヴァネスとは、住み込みの家庭教師のこと。


フェミニズムだったら凄く関係しそうですし、

ヴィクトリア朝・・・だから実際私の専攻にはあまり関連はないのですが

単に興味があったので。



ガヴァネス(governess)はガヴァナー(governor)の女性名詞であり、知事(governor)が女性である場合には女性知事(governess)となる。しかし女性の場合でも知事(governor)とも呼ばれる――by ウィキペディア


ちょっとスペルを知らなかったのですが、あ、ほんとだ。

ただ「ガヴァナー」っていうのは聞いたことがありませんでした。<古>特に皇子や貴族の子弟の家庭教師、なんですって、へー。

知事のほうはTOEICによく出てきますけどね。


ガヴァネスと聞いて想像するのは、ジェーン・エア』

かなり好きな作品ですが、読んだころはガヴァネスというものを知らなかったので今読んだら全然違う感想を持ちそうです。

あぁ、だからイギリス小説でのはじめての美しくないヒロイン、なんだなぁ・・・・。



この本にも『ジェーン・エア』は登場します。

第1部が「現実のガヴァネスたち」で、第2部が「小説の中のガヴァネスたち」


ガヴァネスの関連書はまだまだ少ないかな??

あまり見かけないので。


当時レディたちにとって「リスペクタブル」と見なされたガヴァネス。



女性の地位がまだまだ低かった時代。

戦争で適齢期の男性が減り、女性が余る。


娘たちを入れていた寄宿学校の状態がよくなくて結核で死ぬものが少なくなかったために

裕福な親たちはガヴァネスを雇って自宅で教育したらしいです。



結婚できなかった女性が面目を保って唯一つくことの出来た職業がガヴァネスだったのですが

面目を保って、に?マーク。





レディだけど、お金を貰わなきゃ食べてはいけない。

レディだけど、レディじゃない。

雇い主とも、召使とも同じ立場ではないという、かなり過酷な状況だったらしいです。

でも、お給料はめちゃくちゃ安くて、召使と同レベル。


『年十五ポンドでレディとしての服装をいかにしてまかなうか』

という本までも出版されていたそう。




女が働いたら、いろいろ言われる、っていうのに

『風と共に去りぬ』を思い出しました。スカーレットは2番目の夫フランク・ケネディが商才のない男だったために自ら働きますが、周りからかなり言われるんですよね、女なのに、って。


しかもそのせいで黒人の男に襲われてしまい、それで更に歯車が狂っていく――


大衆小説だといわれているけど、あー、やっぱり大好き。



話を戻しますと

「女性が余っているならば、船に乗せて海外の植民地に送っちゃえばいいじゃん」

という提案でもっとも知られているのがW.R.グレッグです。


「男が足りないんなら、男が逆に多いところに行けばいいだろう」

という発想で北アメリカだとか、オーストラリアに移住を、ってことです。


「なぜ女は余っているのか?」という論文で

五十万人の未婚女性を植民地に移住させれば、余った女性問題は解決可能だと主張したそうです。


イギリスにいる未婚女性は150万人。

50万人は植民地で必要とされ、

あと50万人は家事使用人として、人の役に立ち、かけがえのない人間として幸福な仕事につくことができる。

実際に何とかしなければならないのは、残り50万人である。


ですって。

いやいやいや、論理はわかるんだけど・・・・どーよ、それ。


やはりすぐにバッシングを受けたそうですね。

刑罰を思わせる処置だし、まるで、これじゃ奴隷船のよう。


ちょっとこの提案には驚きました・・・・。





ガヴァネスは恋愛対象としてはとても相応しくない相手なので

能力はあっても美しくない女性が好まれました。



実際に、サッカレーの『虚栄の市』

ガヴァネスを校長先生が推薦する場面で

この生徒は18歳で、「とても感じのよい器量」なので不向き。

この生徒は29歳で顔には天然痘の痕がいっぱいあり、足が少々不自由な上に赤毛で少し斜視、だからガヴァネスにもってこいだ!


といったことを言っている場面があります。

(『虚栄の市』は読んでないし、読む気もないんですが・・・この箇所はよく見ます)


を読んではいないのですが

この部分だけは何度か目にしています。




想像以上に興味深い1冊でした。

第2部で、三流小説だけれどガヴァネスにおいては重要だからと取り上げている小説があります。


著者(川本氏)のつっこみがいい。

仰るとおり、作者の意図とは反して逆の意味になってしまっている。


実は、川本氏は・・・・ヴァージニア・ウルフの『波』の翻訳された方。

原文も私には合わないけど、まず、訳があってないね・・・・

と思っていた方だったのですがこれはかなり気に入りました^^