長崎生まれのイギリス人作家カズオ・イシグロは『わたしを離さないで』も有名ですが、この『日の名残り』でブッカー賞を受賞しています。

カズオ・イシグロは初めて。現代イギリス小説を読むこと自体が何だか久々な気がします。

 結論から言うと、凄く良かった。

 タイトルからして・・・・素敵です。原題 The Remains of the Dayで、邦訳が『日の名残り』。タイトルのつけ方・・・うまいなぁ。

 この物語の本当に最後の最後の結末にこういう台詞があります。

 「人生楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。」

 ここでいう””日の名残り”とは、すなわち夕方のこと。人生のうちの、夕方。

 結末から紹介してしまいましたが・・・

 主人公は高齢の執事、スティーブンス。今はアメリカ人の主人ファラデイに仕えているが、何十年もの間その館 ダーリントン・ホールの持ち主ダーリントンに仕えていた。

 たまには息抜きを、とファラデイに旅行を勧められ、一度は断ったものの人手不足に悩むダーリントン・ホール。結婚を機に辞めていった元女中頭ミス・ケントンからそんなときに手紙を貰い、人手不足が解消するかもと思い直し、旅に出ることに・・・・。

 主人公 スティーブンスの回想録になっています。

 現在の主人ファラデイにも当然の如く忠実に仕えているけれど、アメリカ人の彼にはイギリスでは常識と思われることがすんなり理解できない。

 30年もの間ダーリントンに仕えたスティーブンス。

 彼の父もまた、執事であり仕えていました。

 その彼の父親が息を引き取ったとき、スティーブンは特に重要な食事会の真っ最中。

 そばにいてあげたい、という欲求よりも仕事を全うすることを選びます。

 父親も執事だったんだ、きっとわかるはず。わかってくれるはず。父だったら、息子に仕事を選ばせるだろう・・・

きっとそう思ったんでしょう。

 そして、最愛の父の死よりも、客人の足の痛みを優先させます。

 執事にとって、感情を外に出すのは愚かなこと。意見を求められても、さりげなく、うまくかわさなくては。

 口外など、もってのほか。

 自分の感情など、二の次で、とにかく仕事。

 そもそもイギリスはジェントルマンの国です。

 アメリカ人との対比も凄く感じられます。

 辛い物語では決してないし、ナチスがちらっと登場するけれど残虐なシーンなどが出てくるわけでもなく。

 でも、妙に読んでいて胸が痛くなります・・・。

 読んだ感想をひとことで言うと、愚か。本当に、愚か

 スティーブンソンの考え方もとても共感できるし、本当に良い執事で、こういう執事が求められたんだろうなと思いますが・・・・

 ひとりの人間として考えると、やはり人生損しているというか。

 頑なにとにかく感情を出さなくて、感情を出さないことがそんなに美徳なの?と問いかけたくなる。

 自分の殻を閉ざして、必死に守ろうとするけれど・・・守るものって何か違うんじゃないの?

 品格、品格、とにかく品格を。

 何か言うたびに、何かしら言い訳が入る。でも、これが人間的で憎めないのですがあせあせ

 この小説のテーマをひとことで言うならば、品格とは何かだと思います。

 日本でも~~の品格、とかいう本がやたら売れたりしましたが、何でも品格をつけたらいいってもんじゃないし、そーいうのってあんまり好きじゃない・・・・。

 この本を読んでいて「何かに似ている」と思ったのですが・・・その”何か”がどうしても出てきません。

 ここ数日ずっと考えていたけれど、なんだろう・・・?

 私はとにかく人間的な人、そしてその反対の人。もしくは、その両面を持ち合わせている人。

 そして、「愚かだ」と感じること・・・そんな本が結構好きなのかもしれません。

 自分が登場人物にそう感じることが出来れば、自分が同じ道に進むことを防ぐことが出来ますし。

 

 訳者は土屋政雄さんなのですが、かなりいい訳です。

 まさに「執事」な感じ。堅いけれどとても柔らかい、礼儀正しい日本語になっていました。

 アンソニー・ホプキンズ主演で映画化もされています。ちらっとだけ観ましたが、台詞もちゃんと正確でなかなか良かったですラブ今度ちゃんと観たいなー


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