ローカライズを行う際、翻訳作業はほぼ必須です。

しかし、ディベロッパー社内にローカライズ先の言語が

堪能な人間がいるとは限らないので、そんな場合は

翻訳のみ外部委託することも珍しくありません。


ただその場合も、日本語版のゲームを渡して

「翻訳しといて」と頼むのではなく、あらかじめ

ゲーム内で使われているテキストを全部抜き出した

リストを用意し、それに一体一で対応させる形で

翻訳をお願いすることになります。


そして、このリスト作りが案外手間がかかるのです。


スクリプト等に直接打ち込まれているテキストは

比較的抜き出しやすいのですが、

グラフィックに直接描いてしまっているようなものは

全部目で見て洗い出さなければなりません。


ここで「抜け」があると後で追加発注をお願することになり

いろいろと面倒なので、なるべく一回で済ませたいところですが、

レアケースでのみ出てくるテキストなどは意外と見落としやすく、

リスト作りには細心の注意が必要になります。


また、できあがったリストの送り先は国内とは限らず、

むしろ翻訳先言語のネイティブにお願いすることが多いようです。


例えば北米で売るなら「英語のできる日本人」が翻訳するのではなく、

「日本語のできるアメリカ人」にお願いする……という感じです。

確かに、その方が生きた言葉にはなりやすいのですが、

日本の文化的知識がないと理解しづらいセリフだったり、

慣用句が直訳されて誤訳になったりすることも意外と多いので、

送られてきた翻訳を盲信しないことが重要です。


ちなみに、私の担当したプロジェクトでは

英独伊三国同時ローカライズが必要だったのですが、

英語以外の翻訳家は日本語が堪能ではなかったため、

先に英語翻訳だけ完成させてさらに重訳してもらうという

プロセスを経ていました。


このあたりは予算の都合だったりもするのですが、

英語版が間違っていると全言語間違ってしまうことになるので、

英語版の翻訳にミスがないかはかなりの神経を使いました。

(英→独、英→伊、のプロセスでの誤りは正直自分には検出できず、

 最終的には来たものを信じるしかなかったのですが……。)


さらに、翻訳の際気にしなければいけない問題が、

「制限文字数」の問題です。


日本語は、特にアルファベット圏の言語と比較すると、

必要文字数において効率の良い言語です。

そのため、翻訳によっていわゆる「字あまり」になってしまい、

規定のレイアウト内に収まりきらないという事態がしばしば発生します。


例えば、これは実際に起きた例ですが、


「損益分岐点」


という5文字の言葉が、訳すと


「Break-even point」


半角16文字になってしまい、

どうしたって同じレイアウト内に収まらないということがありました。

(具体的には忘れましたが、独語はさらに長かった記憶があります)


本来はレイアウトごと変えてしまうのが理想なのでしょうが、

ローカライズにはそんな時間もお金もかけられないことが多く、

この時は


「BEP.」


と略してごまかしました。

(BEPという略し方は一応一般にも使われる略し方らしいのですが、

場合によっては一般的に通じないような略し方でも

強引に 入れ込まざるを得ないことがあります。)


また、縦書きは(欧米向けの場合)基本的にNGなので、

この場合はもうレイアウトを変えるしかありません。


ですから、ローカライズの予定がとりあえずなかったとしても、

将来的な可能性がゼロでない限りは、ゲームのレイアウトは

極力横書きできっておく方が無難なのです。