第1回:吹けよ風、呼べよ嵐
FUJISAWA誘致で裏金 所沢市長授受を認め辞任
全国にアミューズメントスポットを抱えるFUJISAWAグループの元役員が、有害廃棄物の廃棄処理場建設などを有利にするため、埼玉県所沢市の市長選候補者に対して、建設会社に工面させた裏金から計約3000万円を手渡したと証言したことが明らかになった。このうち現職の元木幸三市長は、本紙の取材に対して、金銭授受の一部を認め、辞意を表明する意向を示した。
依田圭介(よりた・けいすけ)は新聞一面の大見出しに目を落とし、ため息をついた。
求人広告を取り扱う会社の営業職である依田は、つい数か月前に、あずま川沿いにできた巨大な廃棄処理場での200人規模の求人を取り付けたばかりだった。求人形態や業種からして、毎月数十万単位での掲載が続くことは間違いないはずだった。
しかし、まさかの裏金問題。FUJISAWAグループ内部から情報がリークし、所沢市長が認めたとなると、これは処理場そのものの存続が危うくなることも…と新聞記事は伝えている。
200万の求人は既に掲載済み。この一瞬のフィーバーが、来年の営業予算に計上される。依田は早くも来年のことを考え、憂鬱になった。
1年後、この仕事を続けているのだろうか…。
所沢市役所は駐車場まで取材陣でごった返していた。朝からテレビのニュースは裏金問題でにぎわい、市庁舎の上空には取材用のヘリまで出動していた。
所沢市役所の北側にある駅前通りを渡った目の前に、所沢パークタウン商店街がある。
商店街とは言っても、所沢パークタウンというURの住人のためだけに存在するようなこじんまりしたものである。初めて来る人には「商店街」と言っても信じてもらえない。
地元の人でも、「所沢パークタウン商店街」と言うより「市役所の目の前の埼玉りそなのATMのあるところ」と言った方が、はるかに伝わりが早い。
こんなところに喫茶店なんかあったっけ?
航空公園駅を出た依田は、半信半疑で所沢パークタウン商店街に足を向けた。なんとなく、焼肉屋とぎょうざの満州と蕎麦屋くらいはあったような気がするが、喫茶店があった記憶がない。
ぎょうざの満州のとなりにある小さな喫茶店、と教えられてもまったく見当がつかなかった。
しかし、あった。
ぎょうざの満州の並びに日本料理屋があったのも意外だったが、満州とその料理屋にはさまれるようにして、小さな入口のドアがあり、ドアの外側に手作りらしき木のプレートがさげてある。
喫茶うらめし
OPEN
どう見てもとなりの日本料理屋のお勝手口のような扱いなのだが、確かに独立した店舗として存在している。これまで一度たりとも気付かなかったことの驚きと、そしてドアのガラス部分から中を覗いてみて意外に繁盛していることに二度驚いた。
ドアを押して入店する。
ドアの内側の小さな鐘が鳴る。
右側に対面式のカウンターキッチンがあり、カウンター席が3つ。左手前に4人がけのテーブル席がひとつと、奥にふたりがけのテーブル席が2つ。
その奥の調理場やトイレを含めて12畳といったところか。
一番奥のふたりがけが空いているのみで、あとは埋まっている。
カウンター内でコップをふいている女性が店主だろう。四十代前半くらいか。リネン素材と思しき淡い色のサマーセーターにパンツもエプロンもすべて淡い生成り。確かに、カフェでもバーでもなく、「喫茶」が相応しい気がする。
「いらっしゃい」
母親のような笑顔で迎えられ、依田は、それだけで居心地の良さを感じた。
「ええと…初めてです…」
言ってしまってから、あわてて「一人です」と訂正した。
奥のふたり掛けを自分で指さし、向かおうと思ったときに、店主が声をかけた。
「ごめんなさい。いっぱいだから、少しだけ待っていただける?」
いっぱい?ということは、奥のテーブルは予約済ということか。
4人がけにはOLと思われる女性が3人で談笑している。隣のふたりがけもOLだ。カウンター席には、手前と奥に男性会社員、間には私服の年配女性が掛けている。
ほどなく、カウンター奥の席で食事を終えた男性客が席で会計を済ませ、店を出た。
「お待たせして、すみません」
店主がカウンターの食器などを片づけながら促し、依田は空いた席に座った。
背中にあたる無人のふたり掛けには、特に「予約席」のような札はない。客がトイレに行っているふうでもない。
まあいい。すぐに座れて良かった。
店主がメニューを差し出した。A4サイズ片面だけのシンプルなメニュー表。
「今日のランチは豆腐バーグとビシソワーズです。デザートの、ケーキが売り切れちゃって、焼き菓子しか残っていなくて、申し訳ないです」
メニュー表には、一番上に「今日のランチ 800円」と書いてあり、その下に軽食と、飲み物のリスト。
「じゃ、ランチで、ドリンクは…アイスコーヒーにしようかな。」
そこまで言い終えて、初めて気付いた。
メニューの一番下に、薄い文字で気になる表記がある。
「うらめし 2000円/10分程度」
うらめし?
お店の名前と同じ「うらめし」か。
裏メシ・・・?
裏メニューってことかな?
「あの、“うらめし”って、裏メニューみたいなやつですか?」
店主は小さく「あ」と言って、目じりを下げた、
「お客さん、読めるんですね」
「“読める”って?」
「うふ。そのメニュー、読める人と読めない人がいるんです」
「は?」
「…というか、ほとんどの人には読めないんですよ」
依田は首をかしげた。店主は何を言っているんだろう。
「で、これ何なんですか?」
「読めるということは、あなたにもその資格があるということですから、試してみます?」
「試す、って?10分2000円って、マッサージか占いとかですか?」
「占い…そうですねえ、占いに近いというべきでしょうか。特別な人とお話をすることができるんです。お客さん、いま何か、悩みとか、相談したいこととか、ありません?」
「占いは、別に、信じてないし…。お金ももったいないんで、いいかな。」
「そうですか。じゃ、またの機会にご利用ください。とりあえず、ランチのご用意しますね。アイスコーヒーは先で良かったですか?」
「ええ…」言いながら依田は、漠然と考えた。今の会社にあと何年いられるだろうか。正直、空気が合わないと思う。社内の人間関係も居心地がいいというわけではないし、顧客との関係も特別いいほどでもない。「やりたい仕事」と胸をはって言えるかというと、そうでもない。今日だって、本当はこんな場所に用があるわけでもないのだが、なんとなく営業テリトリーに息苦しさを感じて、あえてテリトリーを離れて顧客からオススメされたこの店に昼食に来たのだ。
妻が間もなく産休に入る。
妊娠8カ月。あと2カ月もすれば、1児の父になる。そんな自分が、好きでもない仕事のために朝早く出勤し夜遅く帰ってきて、子どもに笑顔を見せられるだろうか。
「父さんみたいな立派な大人になるんだぞ」と言っている自分が想像できない。
辞めどき、というものがあるとすれば、それは今なんじゃないか。
2000円の出費は痛いが、占い師が「会社は辞めるべき」と言ってくれたら、思いきれる気がする。いや、誰でもいい。背中を押してほしい。
「あの、うらめし…10分でどのくらい占ってもらえるんですか?結構当たります?評判はいいんですか?」
依田は、店主がアイスコーヒーを差し出したタイミングで声をかけた。
「評判…そうねえ、何とも言えないかしら。厳密には、占いっていうよりも、相談に乗ってくれる、っていう感じなのよ。そのアドバイスをどう受け止めるかはあなた次第。言うとおりにやってうまく行ったという人もいれば失敗する人もいるし、アドバイスをもらって吹っ切れて、真逆のアクションを起こして成功した人もいるし」
「誰が相談に乗ってくれるんですか?店長ですか?」
「私じゃないわ。ヨシエさんよ」
「ヨシエさん?…は、呼んだらすぐに来るんですか?」
「そ。注文をいただいたら、すぐに来てくれるのよ」
「質問ばかりでスミマセン、ヨシエさんは何者ですか?占い師?それとも、カウンセラー?」
「何者かって言われると…そうねえ、私も詳しくは知らないんだけど、お母さんって感じかな。特に資格とかそういうのじゃないわよ。話好きなお母さんね」
「何ですか、それぇ?期待して損しちゃったなあ。よく当たる占い師かと思った」
「家族と話するときって、別に解決してくれるとは思ってなくても、なんとなく話すだけでラクになることってあるじゃない?子どもがお母さんに、学校であったことを延々話し続けるみたいな。そういう感じよ。大人になると、ただ聞いてくれるだけの人って少ないじゃない?」
「でも、キャバクラに行けば、おねーちゃんが何でも聞いてくれるじゃないですか」
「何でも肯定してほしいなら、キャバクラに行けばいいの。ヨシエさんは、甘やかす人じゃないから、ときにはお説教されることもあるわよ」
店主は嬉しそうな顔をして、思わず声が少し大きくなった。
となりの主婦らしき客が、なんのことやらいぶかしげな表情で一瞥をくれる。
お説教か…。小学校以来説教なんてされてないな…。
依田は腕時計に目を落とした。顧客とのアポまでまだまだ時間はたっぷりある。そのアポだって、どうせ無理矢理作ったアポイントであって、顧客から呼び出されたわけではない。今日の契約の見込みもない状況で、もんもんと一日を費やすくらいなら、2000円で説教されてみるのも悪くない。
「店長さん、うらめし10分で。ランチの前にお願いできますか?」
「もうヨシエさん、来てますよ」
店主は依田の背後に目を向けた。
「え?」
依田がその目線の先を追うと、自分の背後、誰もいなかったはずのふたりがけのテーブル席に女性が一人座っている。
「えっ!? いつの間に・・・!!」
自分よりあとに店に入ってきた人はいなかったはず。では、厨房側から出てきたか。または、トイレにいたのか。
「豆腐バーグ焼きあがっちゃいましたから、さ、どうぞ、ヨシエさんの向かいのお席にどうぞ」
店主が、テーブル席の空いている方を手で促す。
「いつから座ってたんですか?」
依田はもう一度振り返ることができず、店主に小声で聞いた。
「さあさあ、早くしないとランチが冷めちゃいますから。行った行った」
依田は鼓動が早まっているのを感じていた。
もうヨシエさんは来ているのだから、キャンセルはできない。
空席と思っていたところに突然人が座っていたことも驚いた。そして、ことによると今から説教が始まる可能性もあることへの緊張もある。
だが、何より依田の鼓動を打ちつけている原因は、タンクトップ姿のヨシエさんが、あまりにも筋骨隆々で、占いというよりは明らかに体育会然としている、その見かけであった。
依田はテーブル席に着くと、膝の上に手を置き、面接のような心境でヨシエさんに向き合った。
改めて思う。上腕二頭筋が、女子プロレスラーみたいだ、と。
(つづく)
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