以前読んだ「その女アレックス」には、二転三転するストーリーにとても驚かされ面白く読みましたが、かなり残虐なシーンもありこの作家のその他の本を手に取るのをためらっておりました(^-^; しかし、続々と文庫版が発行され書店の平台に並んでいるのを見ると、また読みたくなった次第。
「その女アレックス」の過去記事はこちら

本書の前に、作家デヴュー作の
「悲しみのイレーヌ」も読みました。「その女アレックス」に登場する魅力的なキャラのカミーユ・ヴェルーヴェン警部に最初に会える、「その女アレックス」の過去に起きた事件のお話しです。「その女・・」を読んだ方ならご存知の、警部の身に起きた不幸な事件について語られています。「その女・・」を先に読んだ身としては、その事が念頭にあるため、その事件がいつ起こるのかもうビクビクしながらページをめくることになりました。読む順序が逆だったならどうだったろうと、思いながらも、恐々読む体験もまたそれなりに。「悲しみの・・」には、既存の有名ミステリー(例えば「ブラックダリア」など)の残虐殺人現場をなぞるシーンが幾つも登場するので、こういう手はどうなんだろう?という疑問も頭に渦巻きましたが、、、最後に分かる真実と虚構の組み立てにはまた「おお!」と思わないでも無かったですが、自分の好み的にはもう一つかなと。

と、言いつつ、この作家は魅力的です。で、またまた手に取った本書
「天国でまた会おう」は、長編好きの自分には好ましい上・下2冊の文庫本。ええ、もう読みふけりましたとも!
冒頭、第一次世界大戦が終局を迎える直前の西部戦線で、兵卒アルベールは上官プラデルのとんでもない悪事に気が付いた結果、穴に落とされ生き埋めにされてしまう。窒息死寸前の彼を救ったのは同僚のエドゥアールで、必死に土を掘りアルベールが息を吹き返したところに着弾した砲弾で、エドゥアールはなんと顔の下半分を失ってしまった!

こんなショッキングなシーンから始まった物語は、いったいどんな展開をするのか想像もつきません。そして、終戦となり、命の恩人のエドゥアールの世話をしながら、ろくな仕事も無い復員軍人の貧乏暮らしを続けるアルベールと、戦没者の墓地造成の事業であくどく利益をあげるかつての上官プラデルの話が平行して語られます。
プラデルに対する復讐の物語だろうと期待しながらページを繰りますが、アルベールとエドゥアールの暮らしは絶望的でいったいどうなることやら、、、。

この元上官プラデルが手掛ける事業では、より大きな利潤を上げるために、戦死者に対する冒涜的な扱いの数々が描写され、戦死者を悼み遺族が祈るための政府の予算を食い物にする悪徳行為をこれでもかと読まされます。どこかで似たようなNPO法人があったなあと思いましたね。許すまじ、プラデル!

さてさて、この奇想天外なお話はこれ以上ここでは語りますまい。やはり、ピエール・ルメートル、ただ者ではございません。先の読めない、想像もつかない、面白い読書でありました。