浅田 次郎
椿山課長の七日間

だから、イヤだったのに。

浅田次郎は読んでみたいな、と思う本がいっぱいあるけど、ずっと敬遠していたんだ。何故かと言うと、ずっと以前だけど週刊文春で「壬生義士伝」が連載されていた時読んでいて、毎週毎週泣かされていたのだもの。泣ける小説が嫌いな訳でもないのだけど、浅田次郎には泣かされすぎる。グスグズに泣いてしまうんだなー。


浅田 次郎 壬生義士伝 上 文春文庫 あ 39-2


「椿山課長の七日間」は、46才で突然死したデパートの婦人服売り場に勤める課長の椿山和昭が、やり残したことが多すぎると、美女の姿となり現世に戻ってくるお話。コメディっぽいストーリーかなと思って、それならそんなに悲しいお話じゃないかもと手にとってみた次第。だが、やっぱり・・・人の情に、愛に、勇気に、散々泣かされてしまったのだ(T-T)


人が死んで、気が付くと冥土への道を歩いていて行き着く先は「スピリッツ・アライバル・センター(通称SAC)」というお役所である。ここで現世で罪を犯した者は講習を受けて、反省ボタンを押せば極楽に行けるという夢のようなシステムになっている。椿山は指摘された自分の罪にも納得が行かないし、最愛の若い妻や小学生の息子、呆けた父親のことも心配で、現世に戻る事を申請して認められる。他にも、ヒットマンに標的を間違えられて殺されたヤクザの親分は、子分たちのことが心配で往生できない。本当の親を探して会いたい男の子も、現世に戻ることになる。


椿山は39才の美女「和山椿」となって、家族や、デパートの部下、昔のガールフレンドに会いに行く。デパートでは「初夏のグランド・バザール」の初日、課長である椿山が責任者として、過大な売り上げ目標に向かって戦いが始まったばかりであったが、この夜に倒れてそのまま死んでしまったのだった。売り上げ目標が達成できたかどうかが、気になる椿山、自分がいなくてどうなっていると、心配だ。部下の嶋田をつかまえて、問いただすと売り上げは目標を110%クリア、「どうしてこんな事ができたか、わかるか」と嶋田。「課長の弔い合戦なんだ。自分も女子店員たちも派遣の販売員も部長も、みんな課長が大好きだった。課長が命を賭けたこの予算をどうしても達成したかったんだ。デパートマンの供養なんてそれしかないんじゃないか」

面と向かって(部下の嶋田は椿山本人とは夢にも思ってないが)こんな事を心から言われるなんて、どうだろう? 感無量ではないか?(T-T)


椿山は美女の姿を借りて、生きてる時には分からなかった家族の一面や、昔のガールフレンドの本当の心の内、みんなの口から語られる自分自身の客観的な姿に気づき、そして家族への愛や周りの人々への心からの感謝を持つ。ああ、心打たれてまた(T-T)


間違って殺されたヤクザの親分は、もちろん自分の死に納得などできないし、実の子ども同然に躾けて仕事を教え、可愛がってきた子分たちの行く末を案じて、それぞれに会いに行く。親分を慕う子分たちの切ない哀しみと、他人の姿をしながら密かに励まして、別れを告げる親分の大きな愛情にまたまた(T-T)


本当の両親に会えた男の子のけなげさと、それを手助けしたとても高潔で立派な椿山の父とクレバーな息子のエピソードにだって(T-T) 

とにかく、最後まで泣きながら読んだ、素晴らしくも切ない愛のお話であった。



夕食:貝柱の出汁のお粥 かに玉 ほうれん草の(軸の)お浸し

試飲:Beaune 1er cru Teurons 2001 Paul Pernot  香り立つ

反省:うーん、インクジェット用ハガキとウチのプリンタは相性が悪いのか?


Beanue teurons