「リアリティのダンス」はアレハンドロ・ホドロフスキー監督の23年ぶりの新作映画だ。「ホドロフスキーのDUNE」の公開に続けて公開されたこともあり、ひそかなホドロフスキーブームが起きようとしている。と思う。過去作もレンタルとかに出ればいいのに。

ストーリー:1920年代。軍事政権下のチリ。ウクライナから移住してきたホドロフスキー一家は父親の商才によってそこそこの立ち位置を確保していた。だが、息子のアレハンドロは周囲の子どもたちからはピノキオと呼ばれるなど孤立していた。同じく父親もチリ人でないことをカバーしようと思うばかり軍事主義者となり、消防団などの活動に積極的に参加していたが、コンプレックスを感じており、母親は息子のアレハンドロを自身の父親だと信じ込んでいた。そんな中、父はチリの大統領を暗殺しようと決意する。

ストーリーはあまり意味をなさない、というくらい不思議な映画だ。かなり独特な作品であり、アート的な作品といえるかもしれない。だが、「闇のあとの光」と違ってホドロフスキーが何らかの意図を持って作っていることが感じられる。シーンシーンの好き嫌いはあるにしろ、こだわりを持って作られた映像であるということは伝わってくる。

ただ、やっぱり意味はわからないところが多いし、前半の父親が出かけるまでの間はかなり面白くない。悪趣味な映像が続くし、ちょっとよくわからなかった。

だが、父親が大統領暗殺のために旅立ってからはなかなか面白い。その後は父親の物語と、アレハンドロと母の生活とが交互に描かれる。父親の物語は独特だが、ちょっと「ビッグ・フィッシュ」を彷彿とさせる(って言ってもさらに独特バージョンだけど)ロードムービー的な楽しみ方が出来る。

アレハンドロと母の物語はよくわからない話だが、最初はアレハンドロに父親を重ねていた母の愛がどんどん深まっていくのを感じられる。

どこまでが実話なのかは全くもってわからないが、人によっては強く心を動かされるところもあるかもしれない。そのくらい各エピソードが強烈で、映像もかなり作りこまれている。

ただ、ホドロフスキー自身が登場し、アレハンドロの気持ちをナレーションするのはあまり良い演出だとは思えなかった。特に「ホドロフスキーのDUNE」を観てからだと一気に現実に戻されてしまうし、何か余計な気がする。というか、ナレーションで補完するなら全部のシーンを解説してくれ!と思うくらい変な映画なので、ナレーションが入っている部分も観客の想像に任せれば良かったと思う。

かなり変な物語なので、デートとかにはおすすめしないし、変だという前提で期待せずに行く方がいいだろう。映像は面白いし、観る価値がないとは思わない。人によって評価は大きく分かれる映画だろう。ただ、ホドロフスキーの映画は他にも観てみたいと思った。

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