自転車のこぎ始め 浦和vs京都 | サッカーの都

自転車のこぎ始め 浦和vs京都

■プレビュー
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-09----------08-
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-----07--06-----
-05----------02-
-----04ー-03-----
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11 原口 元気
10 エジミウソン
09 山田 直輝
08 ロブソン・ポンテ
07 阿部 勇樹
06 鈴木 啓太
05 細貝 萌
04 田中マルクス闘莉王
03 坪井 慶介
02 山田 暢久
01 都築 龍太
 
 ホームの浦和は、ナビスコ1試合を含めて公式戦3連勝中。SB平川忠亮とFW田中達也が欠場。スタメンが予想された三都主と高原はベンチ、原口と細貝という若手が先発を務める。
 
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-10----09----08-
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-----07--06-----
-05----------02-
-----04ー-03-----
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-------01-------
11 パウリーニョ
10 安藤 淳
09 ディエゴ
08 渡邉 大剛
07 シジクレイ
06 佐藤 勇人
05 染谷 悠太
04 李 正秀
03 水本 裕貴
02 角田 誠
01 水谷 雄一
 
 アウェーの京都。増嶋のケガは回復していないようで、角田の右SB固定。これによりドイスボランチをシジと勇人で。練習中に負傷したという林の代わりに、安藤を二列目起用。
 
■自転車
 プレビューにも書いているが、浦和は昨季(以前も含める)から大きな改革を断行している。 3バックを捨て、自らポゼッションするサッカーへと変貌しつつある。
 2007年には3バック、時には両WBが戻り5バックになり、ポンテ+ワシントンという「2人で得点ができる」という「完全分業制」でアジアを制覇した。しかしその翌年の2008年は「ACLやCWCの疲労が重なったこと」「ワシントンの退団」などがあった。エジミウソン、高原という新加入FWはワシントンとは異なるタイプ。フィットしきれず、無冠に終わった。
 
 そこで「モダン・フットボールを展開できる、ドイツ屈指の戦術家」という触れ込みで、フォルカー・フィンケ監督がやってきた。
 自らポゼッションするサッカーは、戦術を浸透させるのに時間がかかる。それは「自転車のこぎ始め」と似ている。浦和は、開幕戦を「アウェー・鹿島戦」という“大きく角度のついた坂道”に直面する。結果は0-2と完敗――ではあったが、その内容には「チャレンジ」が含まれていた。
 
 そして、現在は「こぎ始め」の時期が終わろうとしている――もっと時間がかかると思われたが。あとは風に身を任せるだけ。浦和には「ホーム・サポーターの声援」という追い風がある。

■逆風
第8節:角田、勇人、大剛、(林)
第26節:水谷、水本、大剛、シジクレイ、勇人、(安藤)、(角田)
 
 昨季のリーグ戦の対戦で、浦和戦に出場したメンバー。()は途中出場。
 昨季は駒場開催だったが、今季から埼玉スタジアムにしてくれた(おそらく浦和からすれば、京都相手に集客面で不安なのだろう)。
 
 ホームには追い風だが、アウェーには当然「逆風」。最もブーイングを背中に受けたであろう水谷は、比較的冷静に見えた。しかしエレガンスが売り(言っているのは当ブログだけ?)の李は、明らかに浮き足立っていた。失点シーンも絡んでしまったし、FWをフリーにする場面も何度かあり、パスミスもあった。今までの出来を考えれば、雰囲気に呑まれていることは明らかだった。
 
 そして安藤。昨季はどちらかというと「二列目の選手」という印象であり、今季は守備で奮闘していると捉えていた。個人的には二列目の方が活きるんじゃないかと思っていたが、雰囲気に呑まれたかミスが多すぎた。クロスは精度を欠き、カウンターでもパスミス。当ブログでも「今季は安藤!」と推しているだけに、敢えてこの試合の「Most Disappoint Player(最もガッカリした選手)」を与えて、次節以降の奮起を期待したい。
 
■浦和の質の高さ
 京都は浦和に、あるいはフィンケ監督に、頭を下げて教えを請うべきかもしれない。そのくらい、浦和のフットボールは面白かった。京都は今季「more than just victory(勝利以上のものを)」をスローガンに掲げているが、実践していたのは浦和だ――ホーム・アウェーを抜きにしても。 
 
 坪井・闘莉王のCBがシンプルにはたき、中盤・前線の選手(特に原口)がよく動いてパスコースを作る。京都は4-2-3-1、パウリを残してゾーンのような形で、中盤をコンパクトによく守備組織を形成できてはいた。しかし、浦和はその間を何度も動き直してパスを引き出す。
 「パスが成功するか、ミスになるか」は「出し手だけの問題ではない」ということがよく分かる。京都の選手は囲まれると苦し紛れに前に大きく蹴り出すが、浦和は近くへサポートに駆けつけパスを引き出していた。
 また浦和はショートパスを主体にして、アクセントにロングボールを使う理想的なもので、浦和の得点シーンは正にその「ギャップ」を突いたものだった。エジミウソンが2度目にゴールネットを揺らした時、染谷へのファウルで取消になったが、あれは贔屓目に見てもノーファールだろう。
 
 京都にはトラップミスなどのミスも目立ったが、浦和はそういうシンプルなミスが少ない。そのような信頼(=前線でのキープ力)があるので、中盤・後方の選手は安心して上がれる。ボランチやサイドバックの積極的なオーバーラップは、このような環境から“自然に”生み出されていた。
 
■単発の京都
 元々、個の能力・技量においては、京都は浦和に劣る。それなのに走り負けていたり、ハードワークで負けているようでは得点は運任せ。相手の攻撃を受け止めるのも、「ミス待ち」に見えた場面すらあった。
 
 攻守で連動性を欠き(浦和が良いだけに一層そう感じる)、「パス&ムーブ」と「3人目の動き」がない。GKやDFからのロングボールは、闘莉王を背にしたパウリや豊田をターゲットという、鹿島戦でも指摘した「可能性の低いギャンブル」をしている。 
 
 ハードワークが足りないのか、ポジショニングが悪いのか、京都はセカンドボールをほとんど取れずに守勢に回る場面が多い。その結果、ボールポゼッションが約70:30の比率になったようだ。
 
■試合の流れ、エアポケット
 ハーフタイム明けには、ミスが多い安藤、まだ本調子でないパウリを下げて、林と豊田を投入した加藤監督。しかし依然として浦和ペース。
 
 転機は58分の交代。シュートチャンスにことごとく絡むも、惜しくも決められなかった原口を下げて、高原を投入。京都にはこれが助かった。あのまま原口がシュートを繰り返していたら、入っていただろうと思わせる動きをしていたからだ。スタミナ面でもあと10分くらいは行けたはず。これが「原口にゴールへの渇望感を与える」というフィンケの考えだとしたら、かなりの策士だが…。
 原口ゴールを期待していたであろう浦和サポーターは、ブーイング・口笛を鳴らし、高原コールをしなかったようだが…。
 
 チーム全体がプレスに行き、攻守の切り替えも激しかった前半の浦和。これで運動量が落ちたのか、動きの少ない高原に代わったからなのかは判断はつかない。
 
 京都はこの後の62分、シジクレイを下げて加藤弘堅をピッチへ。昨季はほとんどフル出場だったシジクレイは、下がる場面が珍しい。ピッチにお辞儀をして下がるところが、フットボールへのリスペクトを感じさせた。
 弘堅は右サイドハーフに入り、大剛を右サイドバック、角田をボランチへとポジションを動かした。これが奏功する。
 
 弘堅は対面したボールホルダーの細貝にプレッシャーをかけて、パスミスを誘発する。角田が奪い、弘堅が前へ。そのままドリブルで上がり、マイナス気味のクロスを送る。ディエゴを経由して、勇人が体勢を崩しながらGK都築をかわすシュートを放つが、角度が悪くクロスバーに嫌われた。
 
 この後も、大剛が弘堅を使ってワンツー、中央からペナルティエリアに侵入する。シュートの打ち損じは坪井に当たって、GK都築の横を通過するが、豊田が飛び込む前に山田暢がクリア。
 また79分には、左サイドからのスローインを受けた角田が前線にパスを通すが、豊田がこれをトラップしきれずチャンスを潰してしまう。
 
 浦和から少し流れを引き寄せたものの、京都が決めきれずに同点へ追いつく機会を逃してしまった。この後は、浦和が「鳥かご」のようにボールを回して京都を翻弄。さらに選手交代やサイドでのボールキープなど巧みに時間を潰されてゲームオーバー。
 追加点を奪えなかったが、内容としては浦和の完勝だった。
 
■「攻撃の」コーチを
 加藤久、秋田豊、森岡隆三。日本屈指の名DF3人が指導陣に名を連ねて、守備の構築を見せている。直接対決でマルシオ・リシャルデスを欠いていたとはいえ、今季の新潟との対戦で「零封」をしたのは大分と京都だけ。
 この浦和戦でも、もっと大差がついてもおかしくない内容だったが、GK水谷の好守もあり「失点1」に抑えた。またセットプレーで安心して見ていられたのは、昨季との大きな違いだろう。ポンテという名プレースキッカー、闘莉王らを高さと巧さを併せ持つターゲットを持つ浦和に相手にして、だ。
(ただ、中盤のプレスは利いているとは言えず、浦和のパス&ムーブに翻弄されていた)
 
 また鹿島戦や新潟戦では、後半は押し込まれっぱなしでラインはズルズルと下がった。しかし、この浦和戦では良いラインコントロールを見せ、5回オフサイドを奪ってみせた。その中の1回、前半終了間際の細貝がゴールネットを揺らした場面では、水本がうまくラインを上げた。
 そしてロングボール一辺倒ではなく、シジクレイが下がったり李が持ったりして、最終ラインからビルドアップしていた。これは良い兆候だと思う。
 
 その一方で、攻撃面でアイディアは少ないようにも。(浦和ら強豪クラブと比べて)個の能力差もあるかもしれないが、戦術面で何をしたいのかよく分からず、とにかく前に蹴ってボールを失う場面がとにかく多い。前述したように、パスの出し手の近くにサポートが少なく、パサーだけを責めるわけには行かないだろう。ディエゴからパウリへのスルーパスだけでは物寂しい。
 
 また京都サポの誰もが痛感しているであろう、クロスの質の低さ。実況・解説でも「シュートかクロスか判別がつかない」明後日の方向へ飛んでいったり、(味方の)誰もいないファーサイドへ流れてしまったり。判断の遅さから、浦和の守備の戻りを助けてしまったりも。また高さのある浦和守備陣に対して、グラウンダークロスやニアクロスを使うなどの工夫も見られない。
 サイドバックが本職ではないと思われる、浦和の細貝や山田暢には、クロスの質の良さ・オーバーラップのタイミングの良さが見られた。これは個の能力やポジション適性だけの問題ではなく、トレーニングの成果(あるいは質の高さ)ではないだろうか。
 
 京都は強豪クラブを目指すために、長期的視野で補強・育成をしているという。ここで「加藤監督は辞めろ」と言うつもりはないが、「攻撃・戦術担当の参謀」が欲しいと思うのが正直な感想。
 
 
 「more than just victory」――京都は勝利を得られなかったが、それ以上のもの(課題)を得られた一戦になったのではないか。
 
 「次に生かします」と自身のブログで語った弘堅、次節以降に期待を持たせてくれる。
 
  
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