5月16日

先日隣の街に行ったら、広場で偶然「蚤の市」に出くわした。私が素
通りできないのは古本である。どんな本が並んでいるか眼を通さな
いと気がすまない。

田舎の街のことであるから、本の内容が偏っている。郷土に関した
書籍が多い。こういう本をコレクションしている人が居る。

次に多いのが、大戦に関するものである。ドイツ人には、戦争の体
験があたかも昨日のように鮮やかであるからこの手の本が結構売
れる。ドイツ人は体験をこれでもか、これ でもかと反芻する。ところ
が日本人は、過ぎたことはさっぱり忘れてしまう。

動物、植物、写真集、芸術に関する本も並んでいる。こういう本が
田舎の「蚤の市」で売れる本の傾向である。文学や政治、歴史、
経済という本は極端に少ない。

面白いのは、とんでもない本に出くわすこと。1950年代初期と
いえば、ドイツが復興に取りかかる時期に当たる。この頃の本は
紙質も悪く、印刷もお粗末。時代が窺われる。本が買えない人
のために、貸し本屋が繁盛したのもこの頃だ。

貸し本屋のスタンプの付いた本がある。内容はキッチの恋愛物、
西部劇、宇宙冒険物など。今の人間はこういう内容には見向き
もしないと思うが、当時はこれを 大の大人が読んでいたわけだ。

何しろ戦後の物の無い時代、娯楽に飢えていたから、結構人々
の癒しになったことだろう。たいした価値のある本とはいえない
が、逆に青春を懐かしがるコレクターが居ても可笑しくない。

何某という者の伝記が並んでいた。家に帰って調べたら、住民
が2800人の程度の隣の隣の小さな村の出身で、1837年アメ
リカに移住し、カリフォルアのストックトンと言う街の創設者である
ということが分かった。カリフォルアで金が発見されて、荒野に
いきなり街ができたらしい。

19世紀のドイツは後進国で貧しかった。政治的、経済的理由か
ら、この周辺の人々も大挙して新大陸に渡った。因みに、アメリカ
人はドイツ人の先祖を持つ人間の比率が総人口の15パーセント
で圧倒的に多く、アイルランド、イギリスの比率以上だそうである。
驚いた。

切手、コインを売る店で、東ドイツのコインを二つ買った。これが
今日の「蚤の市」の全収穫。私は切手もコインも気休め程度の
コレクターで、プロとは程遠い。

当時の西ドイツの貨幣と比較して、東独硬貨の質は極端に悪い。
こんなところに両ドイツの経済力の差が顕著である。1990年、
東西ドイツが統合された際、東ドイツの市民が、西の紙幣を持
って涙を流して喜んでいた姿が眼に浮ぶ。

コレクションというのは絶対必要物ではない。無ければ無くて
すむ。持って、眺めるだけで嬉しくなるのがコレクション。考え
ようによっては、困った持病と同じ。

まあ、、、小遣いで間に合うコレクションだから大目にみてもら
おう。