PSP『TRICK×LOGIC』 | アドベンチャーゲーム研究処

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アドベンチャーゲーム(AVG・ADV)の旧作から新作まで、レビュー+紹介を主として取り上げるブログ。(更新は不定期)
取り上げる範囲は家庭用のみです。

【概要】
 「出題編」と「解答編」が分離した推理ドラマ『安楽椅子探偵』を意識して企画され、ヒラメキ発見ミステリノベルを冠に発売されたオムニバス形式のミステリーノベルゲーム。『かまいたちの夜』の我孫子武丸が監修・シナリオに担当したことから、麻耶雄嵩や大山誠一郎などの京大のミス研出身者が参加し、更に元ネタドラマの脚本を手がけた綾辻行人と有栖川有栖の共同シナリオが収録されるなど、作家陣の豪華さが話題となった。また、後半部分は1週間ごとに1話ぶんの「出題編」が配信され、プレイヤーに解答を募集する「推理バトルキャンペーン」という特殊な企画が用意されていた。プレイボリュームはゲームデザイン的に個人差が激しいため、不明。少なくとも1パッケージで10時間以上は必要。開発はチュンソフトで、『忌火起草』の監督や『かまいたちの夜』の作曲で知られる中嶋康二郎がディレクション、『風来のシレン』シリーズで知られる長谷川薫がキャラクターデザインを行っている。

TRICK×LOGIC Season1TRICK×LOGIC Season2

【システム】
 まず出題編となる事件発生前後を描いた中編小説を読み、読後に小説の劇中で伏線やミスリードなどトリックのキモとなる部分が赤字で浮き上がり、それを上手く組み合わせることで「ナゾ(=疑問)」を生み出し、更にその「ナゾ」から「ヒラメキ(=答え)」を生み出して殺人の方法やアリバイの方法を指摘する、いわゆる「読者への挑戦状」型のストーリー分岐がゲーム性ではないデジタルノベル寄りなミステリサウンドノベル。ストーリーによる推理の誘導がないため純粋に「プレイヤーの推理」が要求される反面、ゲームから要求される組み合わせと自分の推理した組み合わせとギャップがある場合、「正解が解っている」にも関わらず、それっぽいところを総当たりになってしまうゲームデザイン上の欠点が存在し、「推理」するというより当たりを着けてひたすら「小説に聞き込む」ゲームになっている面もあるため、システムで好みの別れるゲームかと思われる。
 全面的にバックログに対応しているが、ナゾやヒラメキが生まれた際はなぜか非対応。小説は終盤には100ページ以上のボリュームがあるが「しおり」機能対応。キーワードのストックなどに対応。スキップも可。セーブもロードも随時可。更にはヒント機能アリ。こう言うと必要とされている大まかな部分は収録されている気がするが、どれも細かい部分で手に届いて欲しい所に手に届かない印象。

【ゲームテンポ】
 ゲーム性となる部分と、ストーリーとして進行する部分が明確に分かれている上に、小説を読み終えてからの「トリックや整合性の思案」という立ち止まった思考が求められるためストーリーとゲームをからめた意味での「テンポ」は存在しない。ただしシステムでも挙げた通り、総当たりになりがちなゲームデザインはテンポの悪さとも言えるため、そういう意味では「テンポは悪い」が、本作の場合はそのストレスも魅力と言える。ストーリーのスピードは可もなく不可もなくだが、後半はアカシャの難易度が上昇するためミスリード狙いの記述が増え、思考する項目も増えるため、連続してプレイすると少し少し疲れる。インターフェース的には、ボタンのレスポンスはかなり早いのだが、ロード時間の関係でスキップやボイスに微妙な待ち時間ができてしまっていることがあるので一長一短。

【ストーリー】
 物語の構造としてはゲームの「ブリッジ(メイン)ストーリー」と、劇中劇であり犯人当てを要求される中編小説「アカシャ」の二部構成。多人数体制で作られたアカシャの小説陣はトリックのアプローチ方法が豊富で毎回推理のプロセスも変化するため「犯人当て小説」としては優秀なのだが、逆に「犯人当て小説」を先に持ってきてしまったがために動機の説明やドラマ性はほぼないため食い足り無さ残る。また同じ原因でアカシャとブリッジストーリーの繋がりが希薄になってしまっているため、次に進めたくなる動機作りとしては不足がある印象。
 アカシャパートではキャラクターと「仮説」を討論するのも面白味の一つだが、汎用性を高めるためなのか人物設定はベタで『逆転裁判』の様に口げんかの様に論破するのではなく、事実確認をしつつ推理を言い合うタイプなのでそっち方面を求めるのは危険。全体の演出はこれといって特徴はないが、アニメーションや効果音は地味にではあるが効果的に作用している印象。声優は一部に問題あり。

【ここが○!】
・プレイヤーの推理力が試されるゲーム性。
・細かな演出。
【ここが×…】
・詰まると総当りになってしまうゲームデザイン。
・総合的なストーリーのまとまり。

【総括】
 物語の流れから推理の誘導を受け必ず答えのある選択肢の中から正解をピックアップするというアプローチが殆どの近代アドベンチャーと、「プレイヤーの推理力」がどこまでも求められる本作は、既存のそれと推理を言い当てた時のカタルシスの毛色が異なりゲーム的な新鮮味はかなりある。新チャレンジの作品なのではっきりと明確に粗が多く、悪く言おうと思えばいくらでもできるのだが、それを引き換えに代替し得ないアプローチがなされているためあまり悪くは言いたくない。というのが本音。一応点数化はされているが、ゲームプレイは「ストーリーを楽しむ」というよりも「思考の過程」を楽しむものなので、オチがほぼないのを含めてかなり好みが分かれる作品なのは間違いない。

【得点】
6/10