有罪×無罪 | アドベンチャーゲーム研究処

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アドベンチャーゲーム(AVG・ADV)の旧作から新作まで、レビュー+紹介を主として取り上げるブログ。(更新は不定期)
取り上げる範囲は家庭用のみです。

【概要】
 2009年5月21日に国内での裁判員制度開始と同時に発売された裁判員をだいざいとしたアドベンチャーゲーム。販売元のナムコ内製の作品で、監修に元検事を呼ぶなど全体的にゲームとしては現実に近い流れのストーリーとキャラクター設定を採用している。それに合わせてビジュアルもかなり泥臭く仕上げており、結果「なんだか地味」というイメージを持たれてしまい、セールス的にも地味なものになってしまった。総ボリュームは10~12時間程度。市場価格は出荷が少なかったこともあって現在はそこそこ高値で維持している。



【システム】
 基本的には選択肢分岐型のアドベンチャーゲームだが、裁判員制度を題材にしたこともあって、この手のゲームにありがちな分岐になる理由が分からないゲームバランスではなく、裁判員の主張に「肯定」「否定」「スルー」の3択から1つを選び(ゲーム側の用意した時間の許す限りリトライ可能)推理することで話が分岐する、分かり易い分岐ゲームとして仕上がっている。そのため、最終的に他の裁判員も同じ意見に導くことになり、「討論する」ゲームというより「自分の推理を説明して相手を納得させる」という方向性を採用した作品と言う例えがしっくりくるか。
 ただし裁判パート(原告や被告の証言を聞き情報を集めるパート)でも分岐点が存在しており、慎重にプレイしなければ裁判員の主張を幾ら正しい方向に持って行っても、真実にはたどり着けない、つまり言えばDSでは珍しい「はまりポイント」が存在していて、周回プレイも意識している。それだけを聞けば話が分岐する作品と言うことで「難易度が高そう」と思われそうだが、真実にたどり着けなかった場合は「ヒント」として分岐する部分を教えてくるので、つまる事はまずないだろう。まあ、逆に言えばゲーム的な囓りごたえは…微妙。

 チャプターごとにスタート可能で、文章スキップも装備と繰り返しは容易。複数セーブやバックログも完備。インターフェース面はかなり良い。

【ゲームテンポ】
 基本的には文章を読み進めて行くタイプのゲームなので、ゲームテンポで気にするべき部分はムダな描写でプレイヤーにストレスを与えているか否かという点が重要になるのだが、本作の場合はそこはかなり丁重に作られており読むべき文章はかなり抑えている。こういう目に見えない部分での作り込みはしっかりしている点も、本作が地味と言われる由縁なのかもしれない。
 ただし、システムでも書いた様に周回プレイも意識しており、場合によっては「はまりポイント」に行き着くことになるので、1プレイではクリアするのは困難。なので、少なくとも1回~2回は正しい分岐にさせるため繰り返しプレイをすることになるのだが、スキップ速度が微妙に遅いため、チャプターごとにスタートできるとはいえ、その点でのテンポの悪さは少し気になる。また、「はまりポイント」にはまった場合は、どうせバッドエンド行きと分かりつつプレイすることになり、ちょっと面倒という印象を最後まで拭えなかった。

【ストーリー】
 流れはリアルな裁判員制度を意識しており、脚色は加えられているものの基本的には裁判の過程もドラマもキャラクターも地に足についている。ただしリアルに拘りすぎたのか、毎回裁判の流れがかなり似ており、話を進めると飽きてくる可能性もある。実際、裁判の流れが変わるのは最終話のみだったりする。対策として、裁判員として呼ばれるキャラクターを毎回変えているのだが、どうもステレオタイプという印象のキャラクターが多く、ストーリーの描写も話し合いよりも証言の情報確認が主な為、裁判員のキャラクターが書き切れていないという印象は拭えない。これなら1話削るか何かした方が良かったのではと思わずには居られなかった。
 個人的に一番気になった点としては、裁判員との話し合いでは情報確認が主という点。どうもこのゲームでは、討論を行ったうえで新事実が発覚する~…という『逆転裁判』や映画で言えば『12人の怒れる男』の様な裁判もののステレオタイプな展開ではなく、推理をして他の裁判員を導くことに重点を置いたおかげか、反論するよりも「情報の確認を促し、新事実が発覚する」という流れが非常に多く、どうも“自分で気づいた”というよりも、ただ単に一つの事件を見直しているだけ。という展開が多く見られた。勿論そうでない部分もあるのだが、どうあれストーリー的なカタルシスは薄い。裁判員制度という題材としては偉く「尻すぼみ」なその展開はとても残念だった。

【ここが○!】
・必要な情報のみに絞ったテキストで、文章を読む面倒さは薄い。
・繰り返しプレイへの、敷居が低い。
【ここが×…】
・スキップが遅い。
・真相が分からなかった場合、後は“消化試合”な流れになる。

【総評】
 有罪か無罪かの判断をプレイヤーに任せた異質なアドベンチャーゲームなのだが、かなり丁重に仕上げている。が、その題材選択やら現実味を重視したビジュアルを採用したため、売れる作品(=入り込みやすいゲーム)では間違いなくない。実際「面白そうだけど定価では買わない」という方も多かったのでは。まあドラマ的には、現実に沿った為かなりドロドロした話が多いので、シリアスなミステリーゲームをDSでしたい。という方にはかなりお奨めな一作ではある。見た目とは裏腹にかなり親切な作品なので初心者でもクリアは容易なはずだ。

【得点】
6/10