ほとんどありません。
したがいまして、前回は靑字で色分けした私の見解も、通常の黒字で記します。
『ゲド戦記』(2006)は、なにせ「安心と信頼のジブリブランド」だったため、興行成績は良かったが、
興行収入約76.5億円で、2006年邦画興行収入1位。
評価はさんざんだった。
だが世評の論調は、あてにならない。
「偉大な父、アニメ界の巨匠、宮崎駿」
「その不肖(=取るに足りないこと。未熟で劣ること。父に似ず,愚かなこと)の息子で、才能も経験もない宮崎吾朗」
↑2006年6月5日、公の場に初めて姿を現した吾朗(右)。当時38歳。
という図式がはじめからできあがっていて、その図式に沿ったこき下ろしにすぎないものが大半だったからである。
曰く----
「身の程知らずにもほどがある」
「そらみたことか。やめときゃよかったのに」
「お前はアニメをわかってない。父の爪の垢でも煎じて飲んで出直せ」
もちろん『ゲド戦記』は、アニメに限定せずともドラマ演出の極意を掴んでいるとは到底いえない代物だったから、
その意味で「吾朗はアニメをわかってない(=監督の器じゃない)」という評価は妥当だったが、
『ゲド』に前後する父・駿の作品だって、
『千と千尋の神隠し』(2001)
興行収入304億円、観客動員数2300万人越え。
『タイタニック』や『東京オリンピック』を追い抜き、日本国内の映画興行成績における歴代トップの記録を打ち立て、2011年現在もその座を維持している。
異国情緒が受けて、第75回アカデミー長編アニメ賞を受賞。
『ハウルの動く城』(2004)
興行収入196億円、2004年と2005年の興行成績第1位を記録。
『崖の上のポニョ』(2008)
2008年末までの興行収入は155億円、観客動員数1200万人以上。
たいがいなデタラメぶりと、乱雑にとっちらかった演出続きで、
メキメキと頭角を現し、とどまるところを知らぬ上り調子が続いた往事の作品と比べたら、
『未来少年コナン』(1978)
知る人ぞ知る番組で、初放送の関東地区の平均視聴率は8%、最高視聴率は第25話の14%。
『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)
興行収入 約6.1億円(推測)配給収入 約3.05億円
『風の谷のナウシカ』(1984)
興行収入 約14.8億円 配給収入 約7.42億円
『天空の城ラピュタ』(1986)
興行収入 約11.6億円 配給収入 5.83億円
全国動員 77万4271人
「本当に、あの名作群を世に送り出したのと、同じ人の作品なのか」と、目を疑うほどの凋落ぶりは、鑑識眼のある、まともな人が観れば一目瞭然だった。
「ジブリブランド」と「駿の作品」なら、中身がどうあれヒットする事実にあぐらをかいた、開き直りとも取れるズサンな内容に、なんとも辟易したのを苦々しく思い出す。
一番致命的なのは、創作動機(なぜこの作品をつくりたいのか)も、創作意欲(どんな面白い作品にしようか)もなく、単に営業上の理由だけでイヤイヤやってるのが、作品を通して「まともな観客」に伝わってしまうこと。
だからテキトーにだませる子供はともかく、「まともな映画観客」にとっては退屈だし、上映時間が長く感じられるし、話の中身に興味も持てず、観た後も印象に残らない。
観客が映画を観ても、「何が言いたいのかわからない」場合、
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作り手が「そもそも言いたいことがない」場合が大半。
だって言いたいことがあるのにそれが伝わらなかったら、作り手は猛烈に歯がゆい思いに駆られるはずだよ。
言いたいことがあるなら、それをわかりやすく伝えることに必死になるはず。
「判断は観客に委ねたい」とか言う場合、たいてい作り手自身が判断を放棄していることを、忘れてはならない。
ついでに言えば、寡作すぎる作家(例:スランプで17年も断筆していた)も、
作家の大切な資質である「創造性」とか「創作力」に欠けまくってると思うぞ。
有名作家の「何年ぶりかの新作発表」なんて、
「書かずにはいられない創作欲求のなせるわざ」のはずはなく、新たな稼ぎ口をもう一つ増やそうとしてるだけの「営業」なのがミエミエだし。
と書くと、「作家なんて誰でもそんなもんじゃないの?」と思う方もおられるでしょうが、こういう作家や作品って、
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「言いたいことがあって、それを受け手にわかりやすく伝えることを第一義に考えている(=創作動機も創作意欲も充ち満ちている)作家」にも、
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「わざわざお金を払って、作品を鑑賞してくださるお客様」にも、
失礼きわまりない話なんだよね。
話を宮崎父子に戻すと、息子の吾朗は、さすがに創作動機とか創作意欲のことまでは思い至ってないにせよ(=思い至っていたら、あんな『ゲド戦記』にはなってない)、幼少の頃からの筋金入りの宮崎(駿)アニメファンだったから、近年の父の作品が、昔の作品と比して明らかに魅力が乏しくなっていることや、
『もののけ姫』(1997)で引退を宣言しておきながら、
興行収入193億円、観客動員数1420万人を記録し、当時の日本映画の歴代興行収入第1位。
盟友、高畑勲の『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)の興行的惨敗で、
およそ20億円の制作費をかけ、鳴り物入りで封切られたが、配給収入は目標の60億円を大きく下回る7.9億円に留まった。
そうも言ってられなくなったり、
『ハウル』の監督に細田守がいったん決まっておきながら、
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ジブリの作風が今後宮崎色から細田色に塗り替えられて、会社が乗っ取られてしまうのを恐れたために、話がご破算になった経緯等を把握していたので、
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「宮崎駿カラーを忠実に引き継げる人間は、この世でただ一人、自分以外にはいない」と判断して、『ゲド』の監督に自ら名乗りを上げたわけ。
その決意は、『ゲド』の酷評で長年干された末の、2010年7月の『コクリコ坂から』準備中でも、頑として揺るぎない。
↑今回ほぼ唯一の、番組『ふたり』からの引用。
ということは、吾朗が監督に立候補する原因をつくった張本人は、他ならぬ父、宮崎駿だったことになる!
であるならば、父の駿は息子の吾朗に対して、
「お前、本気で監督になるとか言ってんのか? ふざけんな!」
とか(=吾朗なりに、真剣に事態を把握したが故の決断だったんだから)、
「アニメをなめんな!」とか(=アニメをなめてんのは、お前〈父・駿〉の方だよ!)言うべきじゃないような気が……。
これじゃあまさに、「親の心子知らず」じゃなくて、「子の心親知らず」である。
と、ここまで分析できると、最初の方で書いた吾朗の『ゲド』に対する世評、
「身の程知らずにもほどがある」
「そらみたことか。やめときゃよかったのに」
「お前はアニメをわかってない。父の爪の垢でも煎じて飲んで出直せ」
はことごとく、的外れな意見だったこともわかってくる。
5年を経て明かされた、(おそらく)当事者ですら気づいていない真実、いかがでしたか?
まだまだ続くよ。