LFL訴訟の行方(9)SDSとの戦い〈後編〉 | アディクトリポート

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2008年4月16日の夜。

半蔵門のホテルのロビー脇のレストランで、LFLのファン渉外兼マーケティングコンサルタント(とでも訳せばいいのか、前者は「ファン・リレーションズ」後者は「マーケティング・スペシャルティ」)のスティーヴン・サンスイートと食事していた。
サンスイートとは、SWコレクションを通じて、1984年来の友人。
1995年からLFL勤務の彼は、この夏のCJ(セレブレーションジャパン)打ち合わせのために来日していた。

私:「あわただしいんですね。もう帰っちゃうの?」
サ:「いや、カリフォルニアに戻るんじゃなくて、イギリスだよ。アンドルー・エインズワースが、ストームトルーパーは自分がデザインしたから、商品化の権利は自分にあるとか抜かしやがって、その裁判さ」

なるほど、逆ギレしたエインズワースは、地元で有利なイギリスで、LFLを逆に訴えたわけだ。
↓法廷に立った当日のアンドルー・エインズワース。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-エインズワースナウ

この頃には、エインズワースが逆訴訟したことを知っていたが、彼が量産だけでなく、ストームトルーパーのデザインをした(とか、そもそもデザインする能力があった)と言う話は、とても信じられなかった。

例証するために、現在SDS(シェパートン・デザインスタジオ)が販売している、SWキャラのヘルメット各種を見ていこう。

↓ストームトルーパー(左から、撮影当時の実物/商品ヒーロー/商品スタント)
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-トル3
↓タイファイター・パイロット(左から、撮影当時の実物ヘルメット/商品ヘルメット/撮影当時の実物ヘルメット+胸パネル/商品ヘルメット+胸パネル)
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-タイ商品群
↓インペリアル・ネイビートルーパー〈帝国宇宙軍士官〉(左から、撮影当時の実物ヘルメット/商品ヘルメット)
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-ネイビー
↓インペリアル・ガンナー〈帝国軍砲手〉(左から、撮影当時の実物ヘルメット/商品ヘルメット)
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-ガンナー
↓レベル・トルーパー〈反乱軍兵士〉(左から、撮影当時の実物ヘルメット/商品レベル・フリート〈反乱軍外交艇警護団〉/商品レベル・ディフェンダー〈反乱軍防衛隊〉/商品レベル・ガード〈反乱軍警備兵〉)
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-反乱軍
↓レベル・パイロット〈反乱軍パイロット〉(左から、撮影当時の実物ヘルメット/商品ヒーロー・バイザー色アンバー/商品スタント・バイザー色グレー)
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-パイロット反乱軍

制作当時のモノクロ写真と製品の比較から、なるほどSDSは、これらをたしかに映画に供給した工房であり、同じ製法でレプリカ商品を製造できるということは、よくわかる。
この手の写真は、LFLの写真資料庫でも見たことがない。

さて、これらのうち、反乱軍パイロットに関しては、米軍のヘリコプターパイロットのヘルメットを改造しただけなので、デザイン権を主張できない。

残りのヘルメットについても、平面段階(つまり紙に書いた絵ー二次元・2Dー)でのデザイナーは、マクォーリーやジョン・モロだと特定されている。
↓第1作『スター・ウォーズ』が衣装デザインの初仕事だったジョン・モロ。アカデミー衣装デザイン賞受賞。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-モロ

ストームトルーパーの2Dデザイン
↓マクォーリーによる頭部デザイン4種
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-2Dトル
↓全身デザイン。左がマクォーリー。右がモロ。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-トルモロ

それでエインズワースが、ストームトルーパーの3Dデザイン、つまり立体版の原型を造形した原型師なのだと主張しているのも、そんなはずは絶対ないのは明らかな上で、なるほどそう主張する動機はよく理解できた。 

「そう主張する動機」というのは、せっかく商売として軌道に乗ってきたSDSの各製品の版権を、LFLに取り上げられたらたまらないうえに、長年ほったらかしにしていたくせに、いきなり訴訟までして商売のじゃましやがってという、LFLへの逆恨みが根底にあるため。

冒頭のサンスイートとの会話でも、エインズワースの名前が出たから、こういうやり取りになった。
私:「そっちが裁判で勝ったのに、まだSDSのサイトじゃ売り続けてますよね。賠償費用を払うためでしょうかね」
サ:「いや、あいつに2000万ドル(約20億円)なんて、払えるはずがない」

ってことは、LFLとしては賠償金は元からあてにしておらず、とにかくSDS商品の販売を差し止めたかったらしい。

サンスイートはこう続ける。
「質も悪いんだよ。メキシコかどっかで量産してて、材質はベコベコ。長持ちしないしね」

心の中で、「でもあの〈まさにホンモノ〉の外形は、材質がヘボかろうが、何ものにもかえがたいけどな」とは思った。
ある時を境に、サンスイートは会社の顔である事情も手伝い、どんなにできが良くても、正式に版権を得ていない品には手を出さない一方で、いかに見劣りしても、LFLと正式に契約を結んだ商品なら喜んで買いそろえるようになった。

そのサンスイートが、こう続ける。
「この裁判でエインズワースが勝ちでもしたら、えらいことだよ。あれはオレがデザインした、なんてやつが次々に現れて、そのキャラのグッズの権利や映画の興収からの分け前を要求されちゃうんだから。うちとしては、絶対負けるわけにはいかないよ」

ふと思い出して、私はこう訊いた。
「前にもリー・サイラーが、ウォーカーで似たような訴訟を起こしましたよね?」
「ああ、あれは(ジョンストンのデザインを見ながら)、あいつが後から描いたんだろ!」

……完全にルーカス側の頭の仕組みになっている。
まあ社員だから、あたりまえだけど。
もっとも、サイラーはたしかにチキンウォーカーの元デザインを描いたから、彼の主張はある部分までは正当だったけど、エインズワースの場合は、明らかに主張に全面的にウソがある。

彼がストームトルーパーの立体造形をしたなんてことは、ありえない。

上の製品群を見れば、ストームトルーパーと、(その顔面部を反乱軍パイロットのヘルメットを左右分割したものに貼り付けて、頭部のトサカで増した横幅をカバーした)タイファイター・パイロットをのぞいて----
↓おおざっぱに言えば、こういうことです。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-方程式
----SDSのオリジナル造形で、複雑な曲面で構成された、いわゆる見事な彫刻作品ってのは存在しない。

ストームトルーパーの頭部立体造形は、一流の彫刻家=造形師にしかなしえない仕事で、たかがポリやプラ成型と量産の職人ごとき(=エインズワースのこと)に、できる仕事ではない。

1作目のマスク造形でも見事だった、ダース・ベイダーやC-3POの原型師と同等か、それ以上のスキルを持つ者の仕事に違いない。

ところが、こういうことに心血を注ぎ、はからずもエインズワースも見出した、前出のスターウォーズヘルメットドットコム
でさえが、C-3POの立体造形はリズ・ムーア、ダース・ベイダーはブライアン・ミュワーが原型師と特定できていながら、どういうわけかストームトルーパーの原型師を探し出せないでいた。

エインズワースは、そこにつけこんだ。
サイラーが、より確実な裁判の勝利と、より多くの権利獲得を目指して、AT-ATまでも自分のデザインと主張したように、エインズワースもでっちあげのストーリーを持ち出してきた。

彼曰く、
「子供の頃から工作が得意で、友達が語るストーリーに登場するキャラクターを、立体に起こしてあげては喜ばれた。ストームトルーパーのデザインは、そんなマスクの1体が元になっている」
……あほらしい!

私自身は、トルーパーの造形は、3POを担当したリズ・ムーアだと推測していた。
体に各パーツを着こませる手順や構造も同じだし、3PO、ベイダーに共通する、ある特長も備わっていたからだ。

その特長とは、日本の特撮・ヒーローもの子供向け番組に登場するキャラクター、俗に言う怪獣だとか宇宙人だとか怪人に、明らかに影響を受けた造形になっていることだった。

C-3POの場合は、劇中に登場した決定版ではなく、何パターンも試された試作粘土原型の中に、こんなやつがあった。
↓この粘土原型(左)は、「ウルトラセブン」(1967)のキュラソ星人(右)によく似ている。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-キュラソ

ダース・ベイダーの(ヘルメットを除いた)顔面やコスチュームが、「変身忍者嵐」(1972)の血車魔神斎(ちぐるままじんさい)に似てるって言うのも、昔から特撮ファンならよく知ってる話だ。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-ベイダーズ

そしてストームトルーパーは、「イナズマンF(フラッシュ)」(1974)のマシンガンデスパーに、とてもよく似ている。もしかしたらベイダー=魔神斎なんかより、シンクロ率ではダントツだ。
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-デスパー

なんでSWほどの大作アメリカ(制作・撮影地は半分ほどイギリス)映画に、日本の特撮キャラが、作品の脈絡もなく唐突に借り出されているかは、また別の機会に譲るとして、話をサンスイートとの会話に戻すと、たしかにホラ吹き野郎のエインズワースが裁判に勝つのは、絶対に阻止しなければならない。

だけど彼がデザインしたのではなく、元ネタはマシンガンデスパーですよと示せば、今度は別のパクリ訴訟につながりかねない。

とりあえず、こう訊いてみた。
「ストームトルーパーの元ネタって……」
サンスイートはすぐに遮る。
「ああ、ルーカスは日本のアニメだとかなんだとか、山ほどパクッてるって話だろ。それはわかってる」

どうやら、私でお役に立てることはなさそうだ。

しかし、エインズワースの暴走を快く思っていない者、彼がストームトルーパーをデザインしたなど、とんでもないホラ話だと言う証拠をつかんでいる者がいた。

彼の名はブライアン・ミュワー。
C-3PO担当のリズ・ムーアが仕事場のあるオランダに帰った後、3POコスチュームの仕上げに従事し、そのままダース・ベイダーの頭部造形を引き受けた男。
リズ・ムーアは、1976年に『遠すぎた橋』撮影中の交通事故で他界。
そのためストームトルーパーの造形を手がけながら、それが自分だと主張できっこなかった。

ミュワーは、ムーアが造形したストームトルーパーの粘土原型と、そこに居合わせたルーカスの写真を持っていて、これをネットに公開、エインズワースの証言をくつがえした。
その写真が、これだ!
オレにやらせろ! 作家浪人Addicto救出プロジェクト-秘蔵


これでエンズワースは証言の一部を撤回。
裁判はまたもLFLの勝利、と思われたが。

イギリスというのはおかしな国で、自国や自国民の権利を守るためには、理屈のとおらないことでも見逃してしまいがちだ。
たとえばイギリスに本部のあるギネス協会。
世界最大のスター・ウォーズ・コレクターは、スティーヴン・サンスイートに決まってるのに、記録されてるのは、コレクター界じゃ悪名とどろく、イギリス人のホラ吹き野郎、ジェイソン・ジョイナー。

今回の裁判も、「キャラクターの権利は、作品の権利者でなく、デザイナーにこそある」という陳腐な判決で、(だからエインズワースは、ストームトルーパーのデザイナーなんかじゃないんだったら!)エインズワースに軍配が上がってしまった。

しかたなくLFLは上級審に控訴中。

というわけで、この「SDSとの戦い」は、話としてはとりあえず終了だけど、まだ本当は続いてるのです。

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