<概要>
世界トップクラスのサッカーの研究を通じて、現代サッカーの戦術ポイントをわかりやく整理し、言語化したYouTuberにしてサッカークラブ運営者の著作。
<コメント>
サッカー解説の中では、説得力のある解説が多いYouTuberレオザフットボール(以下レオザ)の著作を読んでみました。著者自身、サッカー分析のきっかけのなったのが、ジョゼップ(ペップ)・グアルディオラ監督時代のバルセロナ。やはりあのバルセロナこそサッカーの最高峰だと今でも思っている私としては、嬉しい限りです。
しかも私も感銘した、バルセロナ・ソシオの羽中田さんが訳した、唯一グアルディオラが認めた以下の著書『ペップ・グアルディオラ キミに全てを語ろ』からの引用もされています。
それでは、なぜ著者があのバルセロナにびっくりしたのか?それは当時、名将ファーガソン率いるクリスティアーノ・ロナウド擁する当時世界最強のマンチェスター・ユナイテッドを、背の低い、アスリート的には明らかに劣っていたイニエスタ、チャビ、メッシなどを擁するバルセロナが完璧に打ち負かしたからです。
ところでレオザ氏は、最近は、サッカークラブ運営のための資金づくりのためか、YouTubeが商売優先になってしまい、番組単位がバラ売り状態で視聴者側としてはちょっと困った状況に陥っていますが内容については、的を得た解説が多く、ついついみてしまいます。
レオザ氏には、ぜひ一度ジェフの試合を観戦または、視聴していただいて、問題点を指摘してほしいと思っているのですが、そのためにはもっと注目されるような結果と内容が必要でしょうか。
とはいえ、実はジェフは、日本に名だたるジャーナリストで、「戦術リストランテ」シェフの西部健司さんや、セリエAの解説で有名なオフィシャルライターの堀江克己さんなど、サッカー好きのほとんどが知っているような専門家にファンになってもらっているので、そんな必要はないのかもしれませんが。。。。
さてサッカー超マニアの著者が世界中のトップのサッカーを分析して編み出した「8つの真理」とは何でしょうか?以下具体的にみていきたいと思います。
実は本書は「8つの真理」に分けて本書を組み立てているわけでななく、他の要素も組み合わせながら構成されているので、ちょっとわかりにくいのですが、私なりに「8つの真理」別に整理してみました。
⑴正体理論
確かにアンドレス・イニエスタのドリブルってこれですよね。マーカーに対して真正面を向いた形でボールキープし、相手を抜いていく方法。どっちかに体が傾いてしまうと次にどっちにいくか相手にバレてしまうんですね。
バルセロナの下部組織の場合は、子供の頃から「ボールを持ったらへそを相手に向ける」と教えているそうです。
⑵ポイント論
相手に正対したボール保持者からみて、具体的には「Y字のポイント」にボールの受け手に立つということ。旧日本代表監督オフト監督のトライアングル理論というやつと同じかもしれません。
3人がトライアングルの形になって、意図的に2方向にパスが出せるようにしておけば、パスがつながりやすいという理屈。かつレオザの場合は「マーカーの真正面に立つ」というのと組みわせた形。
(本書「講義1」より)
⑶サイドバックは低い位置で張ってはいけない
1990年代のセレソン(ブラジル代表)など、サイドバックは花形ポジションで、左サイドバックなら左利きで、鹿島アントラーズのレオナルドや、右サイドバックのジョルジーニョ、そのあとはロベルト・カルロスやカフーなど、名選手目白押しのポジション。
彼らの特徴は、サイドを運動量に任せて上下動し、サイドから右サイドなら右足、左サイドなら左足でクロスを上げて正確なセンタリングでゴールを演出する、というのが彼らの役割。
そして手薄になったバックラインはドイスボランチの守備方(上図の場合は旧フリューゲルス所属のサンパイオ)が下がって3バックを形成する、というフォーメーション。
著者いうところの「ダウン3」という4バックから3バックに可変する動きのことで、現代サッカーで言えば、レアル・マドリーのクロースがサイドバックとセンターバックの間に入る「クロースロール」。
ジェフでいえば、品田が鈴木と久保庭の間に入って配球する「アンカー落ち」ですね。世界基準では、シティーのロドリや、リバプールの遠藤がこの役割を担っています。
サイドバックに話を戻すと、グアルディオラ監督がバイエルンミュンヘン(13/14シーズン)でみせたフィリップ・ラームのサイドバックとしての革命的なスタイルから、サイドバックの役割がだいぶ増えてきたように感じます。
ラームは、カフーのようにサイドを縦横無尽に駆け上がるのではなく、ボランチの位置に入って、サイドの攻撃はウインガーに任せるというスタイル。
この発展系が今のサイドバックのポジション。
そして著者が面白いのがピッチの場所を場所基準ではなく、人基準で配置すべき、というもの。
なのでサイドバックがどこに立ったらいいか、は「ピッチの個々の場所」ではなく、相手選手のポジションを配置した「この位置」と定義していること。例えば相手が442の時は以下のようなイメージ。
それでは、現代のサイドバックはどこに立てば良いのか?著者によれば「ハーフフロント」。つまり相手選手のフォワードとミッドフィルダーのラインの間ですね。
ここであれば、中へも外へもパスが出せるし、相手からもマークしずらい位置なんですね。確かに最近のサイドバックは、タッチライン側を駆け上がるというよりも、若干、中に入ったりして動きのバリエーションが増えてきたように思います。
⑷アピアリング
アピアリングというのが「ボールを受けるためにパスコースにタイミングよく現れること」。つまりパスを受けるための顔出しが大事だということ。顔出しということは顔を出す前は隠れている必要があります。その位置が「ウェイティングポイント(Waiting Point)」。
最初は相手選手の2〜3歩、真後ろに立って隠れ、顔出ししてボールを受ければ、元の位置から動くのでフリーになりやすくパスを受けやすい、という理屈。
⑸ファジーゾーン
相手サイドバックと相手サイドハーフの中間をファジーゾーンと呼んでいます。ジェフの右サイドの場合、田中と高橋がコンビネーションで攻略しているゾーンですね。
バルセロナで言えば、ヤマルとクンデ、シティーで言えば、フォーデンとカイル・ウォーカーか。
ファジーゾーンにウイングがポジションすることで、相手陣形を横に広げるとともに、誰がマークにつくのか迷わせられることになります。
これは現モンテディオ山形の渡辺晋監督の著書でも渡辺氏が言ってましたが、できるだけ相手がマークしづらい中途半端な位置に立とう、という原則ですね。
⑹トゥヘルシステム
トゥヘルシステムというネーミングが面白い。現時点バイエルンミュンヘン監督のトゥヘルの編み出した戦術で、相手が3バック(または5バック)の場合、中央センターバック両脇の2センターバックにツートップを当てて、ピン留めするという戦術。
こうすると、バイタルエリアにフリーペースが生まれ、味方M Fなどが自由に動きやすい、という戦術。レアル・マドリーのアンチェロッティ監督曰く、
「サッカーという競技は、いかにゴール前の位置に選手を立たせるか、の競技である」
ということですから、ゴール前のバイタルに立たせるためには、トゥヘルの編み出した3バックに対するピン留めは、確かに相当有効に思います。
⑺プレパレーションパス(プレパ)
プレパレーションパス(準備のパス)とは「近くにいる選手にボールを当ててもらい直すパスのこと」で、何のためにこのパスを活用するか、といえば、第一の目的は相手のプレッシングをかわすため。
下図の通り、いったんバックパスすることで相手の矢印を変えてボールの出所を絞らせない効果や、プレッシングに行くベクトルをバラバラにさせる効果もあります。
ちなみにプレパレーションパスは8つの真理の一つという重要なキーワードですが、独立した項目立てもされていないし、本書ではこの単語はたった3回しか登場しません。恐縮ですが、編集面に関してはちょっと稚拙な印象の著作。
⑻同サイド圧縮
同サイド圧縮は、現代サッカーの申し子ともいうべき概念ですね。陣形をコンパクトにしてボールサイドに人を集めてボール奪取する戦術。
どちらかのサイドにボールを追い込み、同サイドでマンツーマンに近い形でプレスをかけるという守備法。遠いサイドのマークは捨て、ボールサイドに守備者を集中させる。
同サイド圧縮をすると当然ながら逆サイドの相手選手はフリーになるというデメリットはありますが、
それ以上にマンマーク気味でコンパクトにサイドに追い込むことによるボール奪取を優先させる戦術。
ボールが奪い取った瞬間、周りに味方が複数いるわけですから、単純にクリアするのではなく、多方面にパスを出せて、そのまま試合の主導権を握って攻めに行けるのがメリットか。
以上著者のいう「8つの真理」を紹介しましたが、そのほかにも様々な細かい戦術が教科書のように掲載されているので、サッカー観戦に役に立つのはもちろんですが、素人でも真似できそうな戦術もたくさん掲載されているので、趣味でサッカーやってる人にも役に立ちそうな著作。
唯一難点は「全般的にきれいにディレクションされていない構成なので、読みにくい」といいう欠点あり。これは改善要です(と言っても本だからもう無理か)。