最後のお客様を8時半に見送り、後片付けして9時半に店を出る。
スタッフの娘はフィアンセの誕生日ディナーで定時に仕事を切り上げた。
私は仕事が遅いせいか、いつもこのパターンだ。
軽い買い物を済まして家路へ向かう。
一人暮らしの部屋に帰るのは淋しいもんだ、離婚をして5年経つが、何気に満喫している。
負け惜しみではない。
部屋の鍵を開けるとそこには夢々が猫撫で声で私の帰りを待っていた。
夢々とは4才になる女丸出しの♀猫である。いつも私の腕にしがみつき「遅いじゃない、何してたの」と言わんばかりの顔をする。
可愛いもんだ。
そんな夢々を振り切り食事の支度に向かう。
私は家に帰った時直ぐにはソファーには座らない。
一度ソファーに座ってしまうと何も出来なくなる。目を閉じてそのまま朝なんてゴメンだ!大好きな酒が飲めなくなる。
晩御飯はタイ料理を作ってみる事にした。
タイ語で何と言う料理かいまだに覚えられないが、さしずめ鳥肉とバジルの炒め物と言ったところだろう。
チャチャっと食事を済ますと入浴の時間がやって来る。
決して風呂は嫌いではないがカラスの行水だ。
熱い湯に浸かってサッと出る。
唯一私の男らしい一面でもある。
風呂から出ると至福の時間がやって来る。
BGMがわりのTVを消し部屋の明かりを少しトーンダウンする。
今宵はどのシングルモルトにするか迷う幸せの時間である。
ハードボイルドな妄想にふけながら煙草に火を点ける。
「ボッ!」
「ジリジリ」
鼻毛が燃えた…