私の母は
大の 宝石好き


若い頃から
宝石に関しては ずいぶんと
ゼータクを してきた



いや…
こういう書き方は 誤解を生むかな


まあ 所詮は
庶民のレベルでの ゼータクなんで


キラキラと 妖しい光を放つものを
目の前にすると つい
夫のお給料から
他の 優先順位の高い 支出するべきものを
びゅーんと 飛び越えて 買っちゃう

という程度の 話なんだけど



それでも
何十年と そういうことを続けてきた 累計額は
けっこうなもので




でも

寝付けない 夜

母は
とある場所に 隠している 宝石箱を出してきては

今は もう 付けていくような場所も なく
箱の中で ずっと眠っている キラキラなものを
ベッドの上に 並べて
うっとりと 眺めていることが ある


ちょっと空いている 扉の隙間から
覗いたりすると

コワイ…

じゃなくて

母にとって
それは シアワセな時間なんだな

と しみじみ 思う





私は 宝石には 全く 興味がない

でも ドラ子は 大好き


だから
ドラ子が帰省した 時は
お決まりのように 母と二人で 身につけて
楽しそうに 遊んでいる

おばーちゃん
この指輪 よく光って きれいだねえ

気にいった?
いずれ ドラちゃんにあげるからね

えー 今 欲しい 

今は だーめ
おばーちゃんが死んでから

えー おばーちゃんのものは
ママのものに なるんじゃないの

だいじょうぶ
あの人は
あげても ぜんぜん 喜ばないから
喜んでくれるドラちゃんに みーんな あげる

やったー 約束だからね
ぜったいね


なーんて 盛りあがってて



ま どーでもいいけど






ジュエリーショップの コマーシャルに

結婚記念日に
妻に ダイヤのネックレスを贈る

というのが あったけど


そんなカンジに
その お高いキラキラなものには
必ず 付随して

大切な人から あの時
こういうシチュエーションで 贈られた

といった 物語や エピソードがあって


宝石箱から それを取り出すたびに
心の中の思い出も 取り出す


そういうのが
正しい ジュエリーの楽しみ方だ と
私は 思うけどね





宝石の 輝きって
そんなに 魅惑的なのかな

よく わからないな



ダイヤモンドと ガラスでは
光り方が ぜんぜん違う
とか いうけど

コスパ 考えると どうなのよ

…と
ま その発想自体が ナンセンス
なんだということは
はいはい わかってますよそうですよ










付き合っていた  オトコと
一緒に 旅行に行ったことが ある

私の 人生にも
そういう 華やいでいた時代が あったんだよ
(…と 遠い目を する)



ホテルの人の おススメで
農家を改築した 古い囲炉裏のある
炉端焼きのお店に 行った


目の前で 焼いて 供される
海の幸や山の幸が おいしくて

お酒も おいしくて

いいカンジで 酔っぱらって


もう ホテルに戻ろう
と 席を立とう とした時

お客さん
焼きおにぎりを 今 焼いてますよ

と 言われた


注文したことを
すっかり 忘れていたのだった



もう お腹いっぱいで
入らないなあ

と 言うと
お店の人が アルミホイルに包んでくれた


そして それに 同じホイルで
指輪のような輪っかを 付けて

巨大な 三角おにぎり指輪を
つくってくれた


若いカップルに シアワセが来るように

アツアツですよ 気を付けて


そう言って 渡された
あの時の 指輪



すごく うれしかったな



ホテルに戻る 夜道

暗闇の中で それは
本当に キラキラと 輝いてた

私たちの行く末を 照らすように




ま 部屋に着いて 早々

あったかいうちが おいしいよね

と 言いながら
食べちゃったけどね



だからか

その人とは
その後 別れた







その 焼きおにぎり話を
ドラ子が大きくなってから
したことが ある


返ってきた感想は

え~ ダサいよ そんな指輪

だった



本物のキラキラが 大好きなヤツにとっては

そりゃ そうだろうよね