そのライヴを見た(聴いた)のはほぼひと月前なのに、今も時折、思い出しては余韻に浸っている。『TOKU Dear Mr. SINATRA』(8月21日、ブルーノート東京)である。上質の音楽は、アフター・テイストがすこぶる長い。

 

 全曲、フランク・シナトラの十八番というTOKUのヴォーカルが満足の行くものだったのは、もちろんのこと、バックバンドが、これがまた一心同体の見事なサポートぶりで忘れがたい。

 

 1曲目「The Best Is Yet To Come」からいい気分で聴き入ってしまった。イントロのお洒落なピアノ・ソロ、よくスウィングするTOKUの歌に続いて、管セクションの分厚いサウンドがするりと入り込んで来た。こんな贅沢なジャズ演奏に接するのは、なんと久しぶりだろうか。

 

 全体で18名編成のオーケストラである。トランペット4、トロンボーン4、サックス5、ピアノ、ベース、ドラムス、ギター、ヴァイヴ。メンバーはおおむね若い。それだけに演奏に清新の気がみなぎる。しかも、しっかりした音を出す。大胆、精緻な編曲の力もあずかって大きい。

 

 アンコール曲2曲を入れて全13曲、TOKUはそのおよそ半分をビッグバンド、残りの半分をコンボ(クインテット、トリオなど)の伴奏で歌った。TOKUのヴォーカルはフルバンドの力強さともよく拮抗していたし、コンボの繊細さにもじゅうぶん心配りをしていた。軽過ぎず重過ぎず、どこまでも自然体のその歌いぶりは憎らしいくらいだ。

 

 以下、伴奏スタイルと関係なく、私が楽しんだナンバーを書き出しておく。

 

 「The Lady Is A Tramp」、少し鼻にかかった声がチャーミング。スキャットも心地よかった。「I’m A Fool To Want You」、この曲をこれほどソフトに仕上げるなんて只者じゃない。バラッドの極致と言ったら褒め過ぎか?

 

Five Minutes More」、ピアノとの〝対話〟が楽しかった。「Just One Of Those Thing」でもスキャットが冴える。ドラム・ソロとの息の合い方(あるいは合わせ方)も絶妙だった。

 

 アンコールの2曲、「My Way」「New York New York」にはヒップホップの雄Zeebraを迎える。ただのフランク・シナトラ・トリビュートに終わらせたくない、未来を見据えての試みだろう。

 

 ラップ調「My Way」は、アルバム「Dear Mr. Sinatra」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)にも入っているが、生でこの大胆な挑戦を目の当たりにすると、その超時代的なエンターテインメント性に膝のひとつも叩きたくなった。名曲が時代を乗り越えて生き残っていくというのはこういうことなのかも。天国のシナトラの率直な意見を聞いてみたい。

 

 

(オリジナル コンフィデンス  2015 9/28号コラムBIRDS EYEより転載)

 

オシャレな雰囲気、高い音楽性、サービス満点と実に充実したライブでした。