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2016年08月19日(金) 12時25分09秒

映画『AMYエイミー』『ラスト・タンゴ』が描くスター人生

テーマ:ブログ

 この夏、2本のきわめて優れた音楽映画が公開された。ともにドキュメンタリー映画の秀作で、劇映画にはないリアリティーにあふれていた。

 

 若くして逝った希代の歌姫エイミー・ワインハウスの生と死に迫った『AMY エイミー』、不世出のタンゴ・ダンサー、マリア・ニエベスとフアン・カルロス・コペスふたりの生涯を再現した『ラスト・タンゴ』である。

 

 両作品を見たあと、私の頭のなかに渦巻いているひとつの命題がある。スターとは、スターの人生とはなにかという永遠の大命題である。

 

 『AMYエイミー』は、ワインハウスの酒と麻薬に溺れていく日常を容赦なく映し出す。新しい楽曲を生み出し、それを歌としてどう表現するかという苦悩は、私たち凡人の想像を遥かに超えるものだったろう。いきなりセレブ入りした生活の激変ぶりにも耐えられなかったのでは。

 

 映画を見る限り、周囲にドラッグなどの泥沼から彼女を積極的に救い出す気配はない。金の卵の彼女の意には逆らえなかったのか。

 

 その一方、マネージメント側は、かならずしもエイミー本人が望んでいない大衆路線を突っ走らせようとする。数万人の聴衆を前に戸惑う彼女の胸のうちを推し量らずにいられない。

 

 彼女の技巧的に揺るぎない、かつ情感たっぷりの歌いぶりが十分にエンジョイ出来る作品でもある。

 

 『ラスト・タンゴ』のふたりは、マリア1934年、フアン31年生まれ、46年ペアを組み、97年までコンビを続ける。ふたりが出逢ったとき、マリア14歳、フアン17歳。フアンは「ストラディヴァリウスを手に入れた」と思ったそうだ。

 

 マリア・ニエベスはフアン・カルロス・コペスと踊るとき、単にダンスの動きだけでなく精神的にもいかに彼と一体化するか、命を削った。その突き詰めた思いがオフステージでの関係に波及しないわけがない。マリアの生涯は、公私にわたるフアンへの愛、その反動によってもたらされる憎しみとの連続だった。

 

 映画撮影時、80歳を迎えたマリアは自らの人生を振り返り、切々と、あるいは屈託なくすべての思いを吐露する。その存在感は生々しくもあり崇高でもある。

 

 もしエイミーが27歳で世を去ることなくマリアのように80歳を超えても元気にしていて、自らの人生を振り返るとしたなら、何を語るだろうか?

 

 スターとは類い希な才能、資質、運に恵まれた人々の謂である。並はずれた努力もしたであろう。だがその人生を覆った苛酷さも並ではない。ふたつの映画はスターたちの暗部を描いて興味尽きない。

 

(オリジナル コンフィデンス  2016 8/22号 コラムBIRDS EYEより転載)

 

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2016年07月21日(木) 08時09分56秒

チエミ、いづみ、ひばりの三人娘、「トゥ・ヤング」を歌う

テーマ:ブログ

江利チエミ、1937年(昭和12年)1月11日生まれ、雪村いづみ、同年3月20日生まれ、美空ひばり、同年5月29日生まれ。戦後日本をあの歌声で元気づけてくれた三人娘は、そろって同じ37年前半に2ヶ月置きにこの世に生を享けた。

 

 この3人が、ラッツパックレコード35周年記念アルバム『雪村いづみトゥ・ヤング』で、タイトル曲「トゥ・ヤング」を熱唱している。いづみの歌は最新録音、チエミ、ひばりは往年の録音。3人の歌声が見事にミックスされ、彼女たちが、今、私の目の前で歌っているような錯覚にとらわれる。

 

 戦後という厳しいあの時代を、ほぼ同世代として生きて来た私のような者は、聴いていて格別の思いに捉われる。厳しい時代だった、あの頃、彼女たちも私も文字通りtoo youngだったな、と……。

 

 三人娘が活躍した戦後日本と今の日本とを、つい比べてみたくもなる。

 

 それはさて措き、いづみは、「トゥ・ヤング」のなかでチエミに「〝のに〟、いっしょに歌おう」と声を掛けている。〝のに〟はチエミの愛称である。チエミは神経質で、なにかにつけ「こうすればよかったのに」と反省することが多く、この別称がつけられた。

 

 一方、いづみはひばりに対しては〝おじょう〟と呼び掛ける。いづみ曰く。

 

 「〝おじょう〟はお嬢ではないの。笑い上戸から来ているのよ。チエミちゃんは一見明るそうで気にするたち、ひばりさんは気難しく見えて、始終笑いこけていた。ふたりとも外見と素顔は違ってたわ」

 

 いづみは、ふたりと4本の映画で共演(競演)している。舞台、テレビ、新聞雑誌などでもよくいっしょになった。

 

 「ふたりと出会わなかったら、私の人生はなかったでしょうね」

 ともいづみは語っている。

 

 今回のアルバム『トゥ・ヤング』にはほかに「遥かなる山の呼び声」「スワニー」「霧のロンドンブリッジ」「テネシーワルツ」が収められている。前田憲男とウインドブレイカーズをバックに、いづみのヴォーカルが凛とした響きを漂わせる。

 

 とりわけ私は「スワニー」に聴き惚れた。このジョージ・ガーシュウィンの名曲を、力強く、歯切れよく、しかも情感たっぷりに歌いこなす歌手は、アメリカ中捜したってたやすく見つかるまい。

 

 「テネシーワルツ」は、チエミの持ち歌として広く知られて来ただけに、いづみも亡き盟友に思いを馳せつつ歌っているのではと、つい想像を逞しくしてしまう。次回は是非ともこの曲のヴァーチャル・デュエットを実現して欲しい。

 

 戦後を風化させないためにも、生き残りのいづみには歌い続けてもらわなくては!

 

 (オリジナル コンフィデンス  2016 7/22号 コラムBIRD’S EYEより転載)

 

 

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2016年07月05日(火) 11時11分11秒

ふたりの巨匠の〝知られざる〟傑作ミュージカル

テーマ:ブログ

渋谷駅前に東急シアターオーブが開館したのは2012年7月だから、早くも4年の歳月がたつ。今、この劇場があって、つくづくよかったと思う。アメリカン・キャストによるミュージカル・カンパニーの受け皿になっているからだ。

 

 ことしも3本ある。6月の『ドリームガールズ』はすでに終わっているが、7月、『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』、10月、『キンキーブーツ』が控えている。

 

   巨匠、ロイド=ウェバーの音楽の原石が詰った処女作

 

 『ヨセフ~』は、日本でこそ知名度はさほど高くないが、英米では『キャッツ』『オペラ座の怪人』の作曲家、巨匠アンドリュー・ロイド・ウェバーがはたちのとき書いた作品として、あまねく知れ渡っている。しかも作詞が、『美女と野獣』『ライオンキング』『アラジン』と、今やディズニー・ミュージカル総なめのティム・ライスである。当時は彼も23歳と若く無名だったけれど。

 

 『ヨセフ~』は旧約聖書創世記のなかの説話に基づく。ライスはミュージカルにもって来いのネタと前々から狙いをつけていた。運命に翻弄されながらも逞しく成長する主人公の若者と自らを重ね合わせ、共感するところがあったのかもしれない。

 

 ヨセフは、ヤコブ・イスラエルの12人いた息子のひとりである。

 

 「イスラエルは他のどの子より彼を愛して、彼のために長袖の着物を作った」(創世記37章)。この「長袖の着物」、すなわち「不思議なテクニカラー・ドリームコート」のせいで、ヨセフは兄弟たちの嫉妬、反感を買い、隊商に売り飛ばされ、異国の地エジプトでつぶさに辛酸をなめることになる。

 

 ヨセフには自分の将来を予言するような夢を見る習性があった。また他人の夢を解読する能力も備わっていた。ドリームコートはティム・ライスの造語と思われるが、この作品の本質を言い表わして余りある。

 

ポップ・カンタータから見事な変身を遂げた一大エンターテインメント

 

 夢と言えば本作中いちばんの目玉のナンバーは、ヨセフの歌う「Any Dream Will Do」である。1991年、ロンドンでヨセフを演じたポップ・スター、ジェイソン・ドノヴァンのシングル盤は、英国ヒット・チャート第1位の栄冠に輝いた。なんと暖かみのある旋律だろう。

 

 エジプト王ファラオがエルヴィス・プレスリー張りに歌う「王様の歌」は、どの公演でも大受けに受けるコミック・ナンバーだが、この曲には作詞したライスも気づかぬ偶然の一致が隠されていた。エルヴィスの故郷がテネシー州メンフィスなのは、皆さんご存知の通りだけれど、古代エジプトの首都(今は廃墟だそうだ)も同名のメンフィスなんですよ。

 

 1982年、アメリカでキャスト・アルバムを録音したとき、ファラオ役の俳優に指摘され、作詞家も初めて気づいたという。

 

 初演は1968年、ロンドンの高校の講堂だった。わずか20分。ポップ・カンタータ(ポップス調の声楽組曲)と呼ばれた。その後、曲が追加され、筋が整えられ、一夜のエンターテインメントとしてじゅうぶん楽しめる作品に見事変身を遂げる。

 

 ローマ、じゃなかった、ミュージカルは一日にしてならず。

 

                   ({コモ・レ・バ?}Vol.28 Summer 2016より転載)

 

 

      新演出、新振付だけに、舞台への期待が大いに高まります。

                 

                                (c)Daniel A. Swalec

 

  2016年7月13日(水)~24(日)

  東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)

    http://theatre-orb.com/lineup/16_joseph/

 

 

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