『私、ポップスの味方です』というエッセー集がないのがおかしいくらい、村松友視さんはポピュラー音楽大好き人間である。この分野の音楽に対する関心の高さ、知識の豊富さでは作家のなかでは有数のものがある。

 

 いち早くRCサクセションの新しさに注目したという炯眼の持ち主なのである。

 

 高校時代、ウクレレを買い求め、一生懸命にコードを覚えてはハワイアンからヒットパレードものまで片っ端から口ずさんだものだというから、年季が入っている。

 

 というわけで、トルコ旅行の思い出話を語れば、話題はおのずと往年のヒット曲『ウスクダラ』のことになる。もともとはトルコ産の曲だが、アーサ・キットが歌って世界的に人気の出たあの曲である。

 

 日本では今は亡き江利チエミが♪ウスクダラはるばるたずねてみたら・・・と日本語の歌詞で歌って、広く人々に親しまれた。


 『ウスクダラ/江利チエミ』のレコード・ジャケット

 

 

「イスタンブールの町は西半分がヨーロッパ、東半分がアジアでしょう。西側から東側へ渡し船で渡ったら、この曲が聴こえてきた。ところが、アーサ・キットのともチエミのともどこか違っていたんです」

 

 現地で聴く原曲には民族的薫りが強く残っているせいだろうか。

       (1991年4月28日、産經新聞)

 

(本来の表記は村松友視。「視」の字は「示」の右に「見」)。

(追記)

村松友視さんは、『私、プロレスの味方です』でデビュー、『時代屋の女房』で直木賞を受賞した。『トニー谷、ざんす』、『黒い花びら』(水原弘伝)など芸能人の伝記小説も執筆している。