JUJUの音楽的ルーツ探索の旅 | 安倍寧オフィシャルブログ「好奇心をポケットに入れて」Powered by Ameba

JUJUの音楽的ルーツ探索の旅

 挑戦は常に危険を伴う。JUJUのジャズへの初挑戦アルバム『DELICIOUS』も多分に危険と無縁ではなかったろう。

 もし未熟な出来で注目されず売れゆきも伸びなかったとしたら?雪の山で熊と出逢った人間のように、寝たふりしてやり過ごすつもりだったのか。

 そううまくは行くまい。“j-popのディーヴァ”という看板が無傷ですむはずがないだろうから。

 ジャズのスタンダード・ナンバーを歌う危険のひとつは、オリジナルないし諸先輩が歌って評価の高いものとどうしても比べられてしまうという点にある。

 実際、私も聞き比べをしたくなり、その誘惑から逃げることが出来なかった。

 「You’d Be So Nice to Come Home To」は超有名なクリフォード・ブラウンとヘレン・メリルの競演と、「Cry Me A River」は当然オリジナルのジュリー・ロンドンと、「Lush Life」は定番中の定番のジョニー・ハートマンと、という具合いである。

 いずれにしても、この3曲に限らず、JUJUのどの曲かがオリジナルや先行の定番を超えていたなんてことは軽々しくは云えませんよ。しかし、相撲にたとえれば、立ち上がりですってんころりんと負けたなんて無様なことにはなっていない。よく踏ん張っている。

 敢闘賞ものです。

 前回、大いに褒めた「Lush Life」は、ハートマンが素っ気ないくらい淡々と歌っているのに、彼女は感情移入たっぷりで、解釈・演出を違えている。これが成功の要因のひとつだと思う。

 「Calling You」。映画『バグダッド・カフェ』サントラ盤のジヴィータ・スティールと比べてみると、これもJUJUの歌のほうが柄が大きい。感情の起伏にも富んでいる。

 「You’d Be So Nice To Come Home To」「Cry Me A River」は、それぞれメリル、ロンドンに勝つことなどあり得るはずがない。持ち前のcoquetryにいっそうの磨きを掛け、懲りずになんどでも挑戦を。

 このアルバム、ジャケット、デザインとライナー・ノーツがきわめて優れている。まず写真が、スタンダード・ジャズを意識してか、オールド・ヴィンテージ風の部屋、家具でまとめてのがうまい。

 ただデザインにスヌーピーのキャラクターたちをからませた意図がよくわからない。日ごろジャズと無縁な人たちを惹きつける作戦か。JUJU本人はスヌーピー好きらしいけれど。

 秀逸はライナー・ノーツだ。まずプロデューサーの松尾潔さんのプロダクション・ノーツがアルバムの制作意図をよく伝えている。1曲1曲の解説も簡潔だし、ためになる。

 各曲毎にJUJU本人のコメントがつけられている。これが素直な心情吐露で興味深い。更に訳詞も彼女が手掛けている。大胆な意訳も含まれるが、歌詞の核心を鷲づかみしていてさすがだ。

 このジャズ・アルバムは、JUJU自身の音楽的ルーツ検索の旅という側面があったと聞く。その目的はじゅうぶんに果たされたであろうことは、アルバムを聴けば納得がいく。

 しかも、本人の自己満足に終わらず、エンターテインメントとして一種の高みに達しているのが嬉しい。

 蔭になり日なたになりJUJUをサポートしたプロデューサーの松尾潔さん、編曲・指揮・ピアノと大活躍の島健さんあってこその成果である。



ものうげそうなJUJUですね。
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