なぜ、私はこんな風になってしまったのだろう。

康介は優しくて、いつも優しすぎるくらい優しくて、

不満に思うことなんて、ひとつもなかったのに。

もっと気楽に、付き合えばよかったのかも知れない。

康介の抱えている大きな苦しみや、心の闇を共有しようとか、

ましてや、そこから救い出そうなんて、身の程知らずなことを考えなければ、

私たちはきっと、もっと一緒にいられたと思うのだ。

その頃の私には、康介が重かった。

優しくて、その笑顔の裏に大きな闇を抱えた康介が。




研修が終わり、現場に配属になった私は、俄然忙しくなった。

ただただ、日々の仕事をこなすのが精一杯だった。

ミスをしては怒られ、それでも仕事はあり、泣いている時間もない。

和久の会社はすぐ側で、

いつでも慰めてもらえるものだと思っていたのに、

その和久も、今や海の向うに行ってしまった。

逃げ場のなくなった私は、夢中で仕事をした。

苦しい時に思い出すのは、あの海での和久の言葉だった。

「頑張れよ。 仕事はおもしろいぞ」

今はおもしろくもなんともないけど、いつか私も

「仕事はおもしろいよ」 と、後輩に言えるようになりたかった。

頑張らなきゃ。 

深夜にコンビニのおにぎりをかじりながら、私はデスクに向かった。




ある日、またミスをして怒られた私は、

疲れも溜まっていたのか、トイレで泣いた。

会社で泣いてはいけないと分かっていたのに、どうにも涙が止まらなかった。

グズグズと泣きながら外に出て、頭を冷やしていると、

外回りから帰ってきた浅尾さんに見つかってしまった。

「澤畑、何やってんの、こんなとこで」

「いや、コンビニに行こうかと思って・・・」

「財布も持たないで、万引きでもすんの?」

浅尾さんが笑いながら言うので、私もつられて笑った。

「じゃあ、万引き防止のために、オレもコンビニに行くよ」

チョコレートを買ってもらって、会社に戻る時、浅尾さんが言った。

「今日はさ、早めに切り上げたら? 休むのも必要だよ」

「でも・・・」

「飲みに行こうよ」

「いいんですかね・・・?」

「いいだろ、たまには」

6月の終わりの、蒸し暑い夜のことだった。