お化け屋敷のつくり方/平野 ユーレイ
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実はこの8月の毎週末、地元のテーマパークに期間限定で開設されているお化け屋敷にて特殊メイクの仕事をしているのですが、「せっかくお化け屋敷の仕事をするんだからそれに関連した本でも読むかな」となんとなく軽~い気持ちで本書を手にとってみました。

本書は、東京・お台場にある常設のお化け屋敷「台場怪奇学校」のホラープランナーユニット「幽霊ゾンビ」(齋藤ゾンビ/平野ユーレイ)さん共著の自伝&ビジネス書です。お化け屋敷がテーマのビジネス書はおそらく世界でも本書だけでしょう。それだけでも十分興味深いのですが、本書ではただビジネスモデルを紹介するだけでなく「人はなぜ自ら怖い体験をしようとするのか?」という心理面にも切り込んでおり、体験型のエンターテイメントコンテンツの分析としても非常に秀逸です。

「幽霊ゾンビ」さんが手がけるお化け屋敷は、内装や小道具などの造型物を見せて怖がらせるのではなく、限られた空間を上手く活かし、生身の人間による「脅かし」で怖がらせるという演出型です。どこで、どのタイミングで、どんな怖がらせ方をするのか?お客さんの心理を徹底的に考え抜かなければならず、且つ怖くないと飽きられ、怖過ぎると動員が稼げないというビジネス面でも難しい手法です。そこで2人はお化け屋敷に「恨みを残して死んだ幽霊」と人間(お客さん)とのふれあいのストーリーと「ミッション」を加え、さらに通常の怖いコースと並列して「こわくないコース」や「お化けと友達になれるコース」を作り多様化と差別化を図ります。その結果、「台場怪奇学校」に訪れたことでいじめの悩みを吐露したり、トラウマを開放したり、自殺願望を解消するお客さんまで現れ、何回も来店する常連客まで現れるようになります。人はなぜ自ら怖い体験をしようとするのか?それはエンターテイメント化された恐怖には精神を解放する効果があるからではないか?ということが文中で示唆されます。精神分析医あたりの感想も知りたくなってきますが、誰かお化け屋敷を論理的に分析してる学者とかいませんかね?

なお、本書のラストで2人は台湾進出をも果たし、国境を超えた恐怖の捉え方の違いにも直面します。台湾は親日的で日本のコンテンツが受け入れられやすい国として知られていますが、「恐怖」コンテンツに関しては、ロメロ作品のようなゾンビは人気でも日本の「呪怨」のような「じわじわ怖い」タイプはいまひとつとのこと。また、台湾では「人ならざる者」は全て上から降りてくるという認識で、幽霊も上から来るという感覚なのだそう。こうした国民性の差が垣間見えるエピソードも実に興味深かったです。