…ということをふと考えてみました。

「ゲーミフィケーション(Gamification)」という言葉は最近よく話題になっているので聞いたことがある人もいるかもしれません。私が「ゲーミフィケーション」という言葉を知ったのはちょうど去年の今頃、Twitterで外国人のフォロワーさんがTweetしていたのがきっかけでした。実際海外で話題になり始めたのも去年あたりからのはず。だから当然これは海外で生まれた概念で、一言でいい表すと「物事の”おもしろ化”」です。日本語では「ゲーム化」と訳されることもありますが、それだとなんだか味気ないというか普通過ぎる感じがします。

例えば今流行っている「位置情報アプリ」や「位置ゲー」は「移動のゲーミフィケーション」と言えます。家から職場に移動した、どこかに遊びに行った、地方に出張に行ったetc...これらは「位置情報アプリ」や「位置ゲー」が無ければただの「外出」です。しかし移動した先で”位置登録”すると「バッジや称号が貰える」「レベルアップする」「仮想通貨や仮想アイテムが貰えてゲームを有利に進められる」なんて仕掛けがあると、普通の外出もより楽しくなります。

あと最近海外では「仕事に対するモチベーションを上げる」ために業務にゲーミフィケーションが導入される事例もあるとのこと。例えば給料の査定を「仮想通貨」もしくは「ポイント」にして表すとか。いきなり実際の金額で表すと生々しくなってしまいますが、仮想通貨やポイントだったらなんだかゲームみたいな感じでちょっと楽しくなります。さらに自分の仕事ぶりが仮想通貨やポイントを通して可視化されるのでよりモチベーションが上がります。ちなみに日本マクドナルドでは仕事の習熟度やランクが上がって行くに従いネームプレートに様々なシールが貼られていくそうですが、それも十分ゲーミフィケーションと言えるでしょう。またトヨタの海外工場では工員の技術の習熟度により制服の帽子のデザインや色を変えているそうですが(国内工場も?)、それもまたゲーミフィケーションでしょう。

こうして見ていくと、「ゲーミフィケーション」の本質とは「行動の成果の可視化」なのかもしれません。だいたい人生なんて何か行動を起こし努力したところでそれが本当に報われるがどうかなんて分かりません。そして自分の行動に意味はあるのか?努力が実際に実っているのか?それが他人から評価されているのか?なんてことも自分からは分からない。というか実際のところ空振りに終わるケースの方が多い。しかしそれを何らかの形で”見える化”するだけで人間のモチベーションは上がるのではないでしょうか?自分の行動や努力には意味があった、こんな成果があったと明確な形で表されれば、それが嬉しくない人なんていません。だいたいゲームはどんな種類のものであれ「行動と努力の可視化」の連続です。経験値を得た、仮想通貨を得た、アイテムを手に入れた、レベルが上がった、ランキング上位に入ったetc... これらを現実の生活の中にも取り入れてゲームのようにする=「ゲーミフィケーション」

で、ふと思いつきました。日本で一番最初にゲーミフィケーションを導入したのは時代小説「鬼平犯科帳」で知られる鬼平こと長谷川平蔵宣以ではないかと。

長谷川平蔵宣以は「鬼平犯科帳」でも描かれているとおり江戸時代の旗本で、凶悪犯罪の捜査・捕縛を専門に行っていた「火付盗賊改方」の長官を務めた人物。しかしその傍ら、軽犯罪者の更正施設である「人足寄場」の設立を立案し、そこの奉行も務めた人物でもあります。人足寄場は軽犯罪者を収容し閉じ込めて懲罰を与えるのではなく、生活指導や職業訓練を施して「自立支援」を行うという当時としては画期的な施設でした。そこでは大工や左官、桶作り、紙漉き、機織り、笠作り、籠編みなど収容者の希望に応じて様々な技術を教え、さらにその過程で作られた生産品を販売しその収益を運営費と収容者の出所後の更生資金に充てるといった、現代の刑務所とほぼ同様のシステムで運営されていました。それだけでも十分凄いことなのですが、さらに人足寄場では収容者の”制服”として「水玉模様の半纏」が用いられていたそうです。この制服は収容者の技術の習熟度によって「模様が減っていく」システムで、水玉が少ない人ほど技術を習得している=出所が早いと一目で分かるようになっており、半纏が完全に無地になったときが「出所」だったとのこと。これはまさに上記の日本マクドナルドやトヨタと同様の「技術習熟度の可視化」でありゲーミフィケーション事例と言えるのではないでしょうか。だいたい”軽”とはいえ犯罪者の集まりなんだから、何かしらモチベーションを維持する仕掛けがなければ運営できなかったのかもしれません。

ちなみにこの水玉半纏はさいとうたかをの漫画版にも描かれています。

仮想空間とか仮想アイテムとか仮想通貨とかアバターとかソーシャルアプリとかソーシャルゲームとかARとかメタルとかなんかいろいろ-ゲーミフィケーション1

仮想空間とか仮想アイテムとか仮想通貨とかアバターとかソーシャルアプリとかソーシャルゲームとかARとかメタルとかなんかいろいろ-ゲーミフィケーション2

ところで以前よりこのエピソードを日本初のゲーミフィケーション事例として英語で紹介したいなと思ってるんですが、「火付盗賊改役」をどう英語で表現するべきかというところでもうつまづいてます。今で言ったらSWAT隊みたいなもんですかね?火付盗賊改って。

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