楽園まで (トクマ・ノベルズEdge)/張間 ミカ
¥900Amazon.co.jp

1枚の 大きな大きな絵を 見ているような物語でした。


雪に閉ざされた白い世界で 「楽園」を探すオッド・アイの双子、ハルカとユキジ。
両の目の色が異なるのは、身体能力に優れ時に「人」を超越する優れた五感と、感情の高ぶりで異能を操る悪魔の証。
神の敵対者として存在し滅せられ忌むべきモノとして扱われる彼らは、
神官の狩人に駆逐され、断罪すらされず殺される。

養父・ヨハンの晒し首から始まる2人の旅は 途中で
陽気な青年ウォーテンを交えての奇妙なものになった。


地下通路にあるとされる伝説じみた「楽園の絵」
人々が恋焦がれすぎて御伽噺になった「楽園」
悪魔を狩る神の使徒。
裁判されずその場で射殺される悪魔達。
かつてその異能により町を焼き払ったイブリースの名を持つ悪魔。
銀の目の悪魔に執着する狩人・ミクラと、
この世界の在りかたに疑問を持ち始めた狩人・ルギ。


ハルカは心を失った弟の手を引っ張って
無情に降る白い世界を銀の目で見つめながら 楽園までの 旅をした。



1枚の 大きな大きな絵を 見ているような物語でした。

舞台となる世界と同じくらい真っ白で 遠く遠くちっぽけなくらい小さい場所に その姉弟は手を握って立っていました。
触れれば後から消えてしまいそうで、淡々と諦めているような、
諦めきれずにもがくのだけど、そんな2人に世界はどこまでも冷たくて。
雪は 2人にも世界にも神の使徒にも悪魔にも 等しく 降り続けました。
淋しさも痛みも表さないからこそ、日の光のない寒々しい空の下での悴んで赤くなった指先や吐く息の白さが、余計に痛く見えました。


絵の背景で 描かれなかった部分があります。
世界に1年中雪が降るようになった理由、オッド・アイが異能の証となる理由。それは遺伝なのか、突然変異なのか、能力に遺伝子的な優劣はあるのか、どうして他のオッド・アイ達は逃げ回るだけだったのか、ウォーテンとの出会いも然ることながら画家との出会いも出来すぎは否めませんが、そう思う端からそれはそのままにしておくべきだな、とも思いました。
それはこの1枚の、ハルカとユキジの絵が、そこで完結しているからだと思います。


足元が 押しては返す波で濡れて、慌てて陸地まで戻りました。
小さな波は文のひとつひとつ、そしてこのお話ひとつがまた波でもあって。
琴線は掠めただけでしたがぽんと出てきた台詞ひとつで攫われそうにもなりました。

ああそう、で流してもいいかもしれない。大絶賛してもいいかもしれない。
言いたかったことはハルカが言ったのでここで言う必要ない。
ウォーテンの裏切りさえ、わたしは失望しなかった。
それでも、ごめんなさいウォーテン、あなたの友であるヨハンの殺された原因であり形見でもある双子を助けることで、ウォーテン自身が救われればいい、と。思ったの。思ったけど。
「裏切らないで」も「救われればいい」もそれはわたしのエゴに他ならない。

楽園は ありましたか。
信じていましたか。信じてもいいのですか。
信じていたいけれど。信じ続けられますか。
欠片でも、残骸でもいいのです、失われたという跡さえあるのなら。
楽園は 見付かりましたか。


面白いでもなく好きでもなく「いい」お話でした。
「いい」は優しさや教訓があるわけじゃなくて――自分の足で自立しているお話でした。
偉そうなこと言っちゃえば、よくまとまっていてしっかりしているし、構成なんてわたしにゃ解かりませんがそれでも、筋は立っていて混乱せず、道は細いけれどそこにありました。
要所要所は予想できたにしろ、それを表現する文ひとつ主人公ひとつで、変わる。あれ?と思った所がないわけではないですが。


ミミズク思い出しました。

イラストレーターは友風子さん。
一目惚れ。ウォーテンのあごひげだけはアウト。
裏表紙の「――お願い。なにも望まないから、なにも奪わないで」も。
(奪わないで、と望むことすら望まないはずでは、という矛盾がね、可愛くて好き)
帯に作者の年齢を出したことだけは――これだけは作品自体に関係なくて、胸にでも収めとけばいいのですが――申し訳ない、わたしはまだ年齢を引き合いに出されて笑い飛ばせるほどの大人でもないし、作品そのもの以外の所でインパクトを与えようとするのは頂けない。

■ レビュー拝読!
いつも感想中さま/09年1月28日


文庫版が出たのでぺたり。追記H23年1月11日

楽園まで (徳間文庫)/張間 ミカ
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